「朝日新聞北海道版」が取り上げた遠軽高校吹奏楽局

いやはや驚いた。インターネットで検索していたら、11月20日付「朝日新聞北海道版」に見出し「吹奏楽やるために遠軽高にきた吹奏楽局長 困難乗り越え得た最高の舞台」が掲載されていたので、遠軽高校の後輩にお願いしたところ朝日新聞を購読していないという。そこで地元の我孫子市中央図書館に赴いたときに「大手新聞の地方版を図書館で取り寄せてくれたら便利なのだが…」と職員に言ったところ、同人は「当図書館には『朝日新聞クロスサーチ』というのがあるので、朝日新聞の北海道版なら読めますよ。但し、1ヵ月遅れです」というではないか。そこで、検索して別の記事・10月20日付「朝日新聞北海道版」の見出し「吹奏楽名門・遠軽高、充実支援のワケ 町、ホール無料貸し出し・下宿代助成」を取り出してもらった。

オホーツク管内に位置する遠軽町(約1万8千人)唯一の高校・遠軽が、21日に名古屋市で開幕する全日本吹奏楽コンクールに2年連続出場の快挙を成し遂げた。「完成したての音楽ホールで練習」「下宿生1人あたり町が最大月3万円を助成」ーー。公立ながら練習環境はおそらく全国最高峰。遠方からの入学者も多い。その全貌と、町の政策の狙いに迫った。

■クラス数死守、一次産業を守るため

「ホームとして、日常的にここで練習しています」(顧問・高橋利明教諭)

遠軽町が約62億円かけて2022年夏に開館した防災や公民館機能も有する交流拠点「メトロプラザ」。一角には、サントリーホール(東京)と同じ業者が関わった音楽ホール(606席)がある。音響可変装置を備え、「音の響きがすばらしい」と評判が高い。

楽器も華やかだ。ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」を筆頭に、マリンバティンパニなども備わる。おかげで、高校から大型楽器を運ばずとも合奏ができる。そのうえ、遠軽高校はホールも楽器も、利用は無料だ。

「あえて反響版を外し、音を響きにくくして練習しました。そうしたら、音が遠くまで響くようになりました」(坂本愛捺局長)

オープンから約1年。生徒たちは、ホール練習の「効果」を実感している。吹奏楽局への「バックアップ」はこれだけではない。

建設業を展開する「渡辺組」(遠軽町)は5年ほど前、吹奏楽に打ち込む高校生を支えようと、約6千万円かけて下宿「ミライロッジ」(定員18人)を建設した。

公立ながら全国大会の常連である遠軽高には、地元以外からの入学者も多い。ところが、生徒を受け入れられる下宿が少なく、入学を断念するケースも。老朽化や高齢化で下宿を続けるのが難しくなっているという声もあった。

会長の渡辺博行さん(75)は、そんな事情を知り、下宿の建設・運営にあたることを決めたという。「遠軽町は昔から吹奏楽がさかんで、地域で親しまれてきた『音楽のまち』。地域貢献と、遠軽でがんばる子どもたちのため」

ミライロッジは相部屋ではなく個室で、それぞれにエアコンも備わる。「マジで快適です!」。網走市出身の木村結香(1年)は大満足の様子。Wifi、光熱費、1日3食付きで費用は月額7万円ほど。これに、遠軽町から毎月最大3万円の助成金が出る。

今年度は局員55人のうち、下宿生が23人、遠軽町近隣以外からの遠距離通学者が6人いる。遠距離通学にも町から最大1万円の助成金が出るという。

遠軽町が支援するのは吹奏楽局に限らない。部活で貸し切りバスを使ったら1台につき最大3万円助成、全国大会に出場したら遠征費を助成ーー。今年花園出場を決めたラグビー部や野球部は町営の人工芝のグランドを無料で使えるという。22年度の直接支援は1億4千万円を超えた。

「道立」の公立校に対して、なぜここまでーー。

「生徒数を確保し、全日制1学年5クラスを死守する。充実した教育環境を守ることが、一番の狙いです」(町総務部企画課の中原誉課長)

遠軽町は、オホーツク管内の中でも「遠紋地域」の中核自治体の一つだ。

「北海道の一次産業のトップランナーであるこの地域の人々が定着し、生活を続けるには医療・教育が不可欠。人口減少で高校が削減されていけば子どもを教育できない。町にある唯一の高校・遠軽の5クラスを維持することは日本の食料、環境を守ることにつながる」ーーこれが佐々木修一町長の政策だという。

全国レベルの部活動が特色や魅力となり、いまや入学者は道内全域から集まる。下宿への支援1年目(2015年)は対象が23人だったが、今年度は100人を超えたという。

これまでも数回、北海道の北東部に位置する遠軽町が、遠軽高校の学区外から入学する生徒に対する助成金事業について説明してきた。そして過去には、2021年11月6日付け題名「遠軽高校吹奏楽局の伝統継続を願って」で、2010年1月30付け「北海道新聞オホーツク版」に掲載された記事を紹介した。この記事は、遠軽高校吹奏楽部の戦後間もない時代からの歴史が書かれていたので、後世に残す価値があると考えたからだ。

その点、今回取り上げた記事は、まさに現在進行中の出来事で、読者の皆さんはどう感じましたか。つまり地域に根差し、全国に誇れるバンドが、オホーツク海沿岸地域に存在することは日本の誇りだと思うが、どうだろう。遠軽町は将来的にも、現在と同じような助成金政策を取り入れていくと期待しているが、問題はどこまで少子化が深刻化するかである。

いずれにしても生徒数確保のため、地元の高校生のためにこれだけ財力を投入する自治体は珍しいが、逆に言えば誇らしいことと考えている。だから吾輩も、できる範囲で精一杯応援していきたいのだ。

※後記ー11年20日付「朝日新聞北海道版」

吹奏楽やるため遠軽高にきた吹奏楽局長 困難乗り越え得た最高の舞台〉

「このまま時間が止まってくれればいいのにな」

遠軽高校(北海道)の吹奏楽局長、坂本愛捺(えな)さん(3年)は、スネアドラムを鳴らしながら、そう感じていた。

19日に大阪市大阪城ホールであった第36回全日本マーチングコンテスト

遠軽はメンバーが49人と、マーチングでは少人数の編成だが、米国歌や米国民謡「シェナンドー」をマーチング用に編曲した作品「アメリカン・ドリーム」を奏でた。

北海道のオホーツク管内に位置する遠軽町。坂本さんにとって、全国大会でも常連の遠軽高校吹奏楽局は憧れの存在だった。

「私は吹奏楽をやるために遠軽に来たんです」

中学の頃は高校から約80キロ、車で2時間ほどかかる小清水町に住んでいた。どうしても「遠高サウンド」を奏でる一員になりたい。家族とともに遠軽に引っ越してきた。

2022年冬。上級生が引退し、最高学年になった。その頃、顧問の高橋利明先生に言われた。

「この代で終わる」

前年よりも局員が1割ほど少ない。その上、突出して楽器の技術が高い局員はいなかった。

高橋先生は「これまで遠軽がつないできた音のクオリティーは維持できないだろう」と思い、本音でそう話したという。

坂本さんは悔しい思いを胸に、局員たちに呼びかけてきた。「だからこそ、このメンバーで全国大会に行けたら格好いい」

22年夏には最高の練習環境ができた。町が約62億円をかけて建設した、音楽ホールを持つ「メトロプラザ」が完成。高校から自転車で5分。ここを無料で使うことができるようになった。

あえて反響版を外し、音を響きにくくする中で練習を重ねた。ホールならではの音の響き方身につけていった。

その努力が実り、今年10月の全日本吹奏楽コンクールに出場を果たし、銀賞を受けた。

迎えた最後の舞台。マーチングコンテストでも、目標としてきた全国大会に歩を進めた。

出番が来ると、北海道弁で叫んだ。

遠軽、なまら楽しむべ!」

その言葉通りに、局員たちは大舞台を楽しんだ。トランペットのファンファーレで盛り上げ、陣形を変えていく。ソプラノサックスのソロでは、しっとりと哀感たっぷりに聴かせた。

銀賞という結果が出る前に、演奏後の記念撮影を終え、坂本さんは振り返った。

「最初から簡単な道のりじゃなかったからこそ、この舞台を作り上げられたのは、かけがえのないことでした。これ以上ない締めくくりができた。本当に幸せな時間でした」