道警初の殉職者はクマと格闘した巡査

インターネットで11月28日付け「北海道新聞」電子版を見ると、見出し「1880年、クマと戦い殉職 巡査悼む慰霊式 岩内」という記事を発見したので、この記事を滝上町の友人からFAXで送付してもらった。

【岩内】1880年(明治13年)に旧前田村(現共和町)でクマと格闘して命を落とし、道内警察史で初の殉職者となった庄司巳吉(みきち)・三等巡査の慰霊式が24日、岩内町光照寺で行われた。岩内署の幹部7人が参列し、住民のために命を懸けた先人をしのんだ。

慰霊式は、庄司三等巡査の命日の26日に合わせて毎年行っている。同署によると、庄司三等巡査は札幌警察署岩内分署が創設された1878年(同11年)に着任。前田村の村民を襲い死者数人を出した巨大なクマを相手に、やりや剣でひとりで格闘して重傷を負い、殉職した。村民有志が93年(同26年)、功績を伝えるために同寺境内に墓碑を建立した。氏家岐洋(みちひろ)副署長は「先人の苦労に恥じないように引き続き地域住民の安全を守っていく」と語った。

流石に、北海道らしい記事だと感じたが、それにしても道警の「殉職者第1号」がヒグマと戦った警察官だとは驚いた。また調べてみると、2011年現在、道警の殉職者はこれまで170人を数えるが、ヒグマによる犠牲はこの1件だけであるという。さらに、以前読了した本「神々の復讐/人喰いヒグマたちの北海道開拓史」(著者=ノンフィクション作家・中山茂大)で調べたが、この事件について何も触れられていなかった。もしかしたら、道内初の新聞が明治11年1月創刊の「函館新聞」であるので、取材力不足で報じられなかったのかもしれない。

実は最近、全国で人里や市街地などにクマが出没するニュースが多いので、6年前に刊行されたものを底本とした本「人を襲うクマ 遭遇事例とその生態」(著者=フリーライター・羽根田治、2021年3月15日初版第1刷発行、発行所=㈱山と渓谷社)を購入した。その中では東京農業大学の山﨑晃司教授の解説が参考になったので、クマに関する基本的な知識を紹介したい。

〇遺伝分析によって、ヒグマについては大きく3系統が知られる。北方経由で北海道に入ってきた2系統と、南方経由で九州にや本州を辿って北海道に至った1系統である。~一方のツキノワグマも3系統が知られ、東日本のグループ、西日本のグループ、そして紀伊半島・四国のグループとなる。~また、ツキノワグマについては、2012年に九州のツキノワグマ地域個体群が絶滅と判断されたことに加え、四国の地域個体群も以前危機的な状況に置かれている。

〇ヒグマ、ツキノワグマともに、冬季には冬眠を行う。冬眠は、冬季の低温への適応ではなく、飢餓への適応と解釈されている。すなわち、植物質食物の多くが期待できない冬季には、採餌活動に費やすエネルギーと、その結果得られるエネルギーの収支をバランスにかけ、動かずにやり過ごすことを選択した種といえる。

〇出産後、子は母親と長い時間を過ごし、この間に生きるための多くのことを学ぶ。子別れの時期は、ヒグマではおよそ2・5歳、一方ツキノワグマではおよそ1・5歳とやや早い。~繁殖可能時期は、ヒグマのメスで4歳程度となる。ツキノワグマでは、オスで3歳程度、メスで4歳程度である。~寿命についてはよくわかっていない。断片的な情報からは、ヒグマ、ツキノワグマ両種ともに、平均的に20歳前後と想像される。

〇メスは、着床遅延という独特な繁殖メカニズムを持つ。クマ類の交尾期は初夏であるが、この際に交尾により受精したメスの卵子は、直ちに子宮に着床することはない。秋の食欲亢進期にどの程度の食物を摂食でき、その結果どの程度体脂肪を蓄積できたかの判断を行い、十分な出産育児の用意が整ったと判断されるメスだけが、12月になってはじめて受精卵を着床させて、胚を発達させる。

〇統計的なモデルを用いての生息数推定が試みられている。手法にはまだ改善の余地があるが、日本全体で、ヒグマでは約1万頭、ツキノワグマでは約3万頭という数値が算出されている。~ヒグマではオス成獣で200㌔程度、メス成獣で100㌔程度であるが、これまでにオスで400㌔、メスで200㌔を超える個体も記録されている。ツキノワグマでは、オス成獣で60~100㌔程度、メス成獣で40~60㌔程度である。

〇本州全体での出没状況をざっくりとまとめれば、2004年を皮切りに、2006年、2010年、2012年、2014年とほぼ隔年周期で、〝ツキノワグマの大量出没″と表現される事態が発生している。また、2016年以降は、ツキノワグマの出没が常態化している。これらの年には、2000~5000頭のツキノワグマが捕獲され、その多くが殺処分となる。ここ最近でもっとも捕獲数の多かった年は2020年で、実に5795頭のツキノワグマが捕獲された。~ヒグマについては、出没数(捕獲数)が緩やかに上昇をしており、ここ最近は700~800頭程度になっている。

〇負傷の程度については、ヒグマとツキノワグマでは様相が多少異なる。ヒグマの場合には、被害に遭った人の30パーセント以上が死亡している。一方、ツキノワグマの場合の死亡事例はせいぜい数パーセントと低い。~また、ヒグマによる被害者に占める狩猟者の割合は50パーセント前後と高く、ツキノワグマによる人身事故と異なる。

最近、テレビに出演したクマの専門家が「ツキノワグマの生息数は5万頭と見ている」旨の発言があった。つまり、日本にはヒグマは1万頭、ツキノワグマは5万頭が生息し、ヒグマは1千頭ツキノワグマは6千頭が駆除されているようだ。また、調べてみると、九州ではツキノワグマは絶滅したが、四国では高知と徳島の県境に十数頭生息しており、絶滅危惧種に分類されている。

クマに関する知識を得たところで、環境省が12月1日に発表(速報値)した内容を紹介する。

ー全国の4~11月のクマによる人身被害の件数が193件、被害人数が212人。国が統計を開始した2006年度以降で見ると、最も多かった3年前を既に50人以上も上回る。死者数も6人と過去最悪となっている。

都道府県別(19の道府県)では、秋田70人、岩手47人、福島14人で、東北地方を中心に被害が多発。月別では、10月の被害が73人と最も多く、次いで9月が38人、11月が30人。

クマは通常、11月下旬から12月にかけて冬眠に入るので、被害が少なくなる傾向。だが、12~3月にもクマによる被害が出ている年もある。ー

そういうわけで、今年は環境省が発表したような状況であるので、今年話題になった言葉を選ぶ「新語・流行語」の中に、今年7月に駆除されたヒグマに関連した「OSO18/アーバンベア」がトップテンに選ばれてしまった。しかし今年は、統計開始以降最多の人的被害を更新し続け、さらに12月も暖冬と予想できることから、クマと足跡の目撃情報が相次ぐのであれば、各地の自治体は厳重警戒しなければならない。

 

※後記ー12月28日付「北海道新聞」電子版

見出し「道内ヒグマ捕殺、22年度940頭/前年度比116頭減/背景にハンター不足も」

道は27日、2022年度の捕殺統計を公表した。道内で駆除や狩猟などで捕殺された個体は940頭で前年度比116頭減。農業被害は2億7100万円と過去最高を更新し、道ヒグマ対策室は「生息数は依然、増える傾向にあり、人とのあつれきが高い状況に変わりない」と話す。捕殺数減の背景にはハンター不足もあるとみられ、道は担い手確保を急ぐ。

捕殺数は20、21年度にそれぞれ過去最多を更新したが、22年度は3年ぶりに減少した。それでも道の公式記録が残る1962年度以降で2番目の多さ。食料を求めて人里に下り、畑を荒らすなどした個体を駆除したケースが多かったとみられる。

22年度の捕殺のうち、農作業の食害や人への危害を防ぐ目的の「害獣駆除」は883頭(道許可875頭、環境省許可8頭)、ハンター育成のための「許可捕獲」が14頭、10~1月の猟期にハンターが趣味で行う狩猟が43頭だった。

※後記ー2024年4月17日付「朝日新聞

見出し「クマ対策 国が人材育成支援へ」

環境省によると、昨年度は東北地方を中心にクマが出没。人身被害は219人(うち死者6人)と過去最多で、捕獲されたクマも過去最多の9319頭だった。

※後記ー2024年4月18日付「朝日新聞北海道版」

見出し「2023年度北海道内のヒグマ捕獲頭数、過去最高の1500頭前後か」

北海道のヒグマ対策関係者会議が17日、札幌市内で開かれ、道は2023年度に市町村から報告のあった許可捕獲数が過去最多となる1300頭を超えると明らかにした。その後の取材で、今年2月末時点て市町村が報告した許可捕獲数がすでに1416(速報値)だったと判明。狩猟による捕獲分も加えると23年度の全捕獲数は過去最多の1500頭前後となる見込みだ。