陸上競技の新技術「ウエーブライト」

12月5日付「毎日新聞」は、吾輩の大好きな陸上競技の新技術・電子ペースメーカーについて、「光が導く好記録期待/ペースメーカーに代わる/安定のリズム刻む」という見出しで、次のように報じた。

色とりどりに光って動く「アレ」が、陸上日本一を懸けたレースで初めて登場する。大舞台を目指すランナーだけでなく、応援する観客のことも考えた仕掛けだ。

緑、赤、白ーー。7月に北海道内で計5大会開かれたホクレン中長距離チャレンジでは、トラックを駆け抜ける選手たちの足元を見慣れない光が照らしていた。

正体は、トラックの内側に1㍍間隔で計400個設置されたLED(発光ダイオード)ライトだ。

電子ペーサー「ウエーブライト」という。2018年にオランダのメーカーが販売を開始し、現在では世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグにも導入実績がある先端機器である。

国内のトラック長距離種目では主にアフリカ出身の選手がペースメーカーになって好記録を後押しするのがおなじみの光景だが、極端にペースを上げ下げしてしまうなどの難点もあった。常に安定したリズムを刻むウエーブライトなら、選手は心置きなく記録に挑戦できる。

さらに高速化の潮流に対応することも、導入の背景にあった。1万㍍の24年パリ・オリンピック参加標準記録は男子27分0秒00、女子30分40秒00。特に男子の参加標準は日本記録(27分18秒75)を上回る数字だ。ウエーブライトを導入する日本陸上競技連盟事業課長の吉沢永一さん(43)は「(実業団所属の海外勢を含めても)国内でそんなハイペースで引っ張れる選手を探すのは難しい」と語る。その点、ウエーブライトは記録を出しやすいペースを自在に設定できる。

導入効果は上々だ。

ホクレン中長距離チャレンジは天候不順が続いたが、陸連によると、悪天候時の自己記録更新率は例年1桁台に落ち込むところ、ウエーブライトを導入した今回は約20%を確保した。女子中長距離の主軸、広中璃梨佳選手(日本郵政グループ)も「安定してペースを刻めた」と語り、直後にあった8月の世界選手権1万㍍の7位入賞につなげた。

競技を見やすくする役割も期待されている。

スポーツの現場での最先端技術で思い起こされるのは、競泳の世界選手権でテレビ朝日が採用しているコンピューターグラフィクス(CG)だ。プールには選手が所属する国・地域の旗が映し出され、世界記録に到達するまでの目安(ライン)が表示される。

「『あれ、見やすいな』と思っていたんです」と吉沢さん。400㍍トラックを25周する1万㍍のレースは時に単調に感じる場面もある。例えば緑(参加標準記録)、赤(日本記録)というように達成すべき記録のペースに合わせて光るウエーブライトがあれば観客席からも一目で分かりやすく、フィニッシュまで関心を高められる。

課題は、高性能ゆえのコストだ。専門業者に依頼する設置費は毎回約100万円。ホクレン中長距離チャレンジではクラウドファンディングを活用して資金を調達したが、吉沢さんは「選手の競技環境を整えるためにも、費用は捻出したい」と、主要大会での常時設置に策を巡らす。

ウエーブライトは10日、東京・国立競技場で行われるパリ五輪代表選考会を兼ねた陸上の日本選手権1万㍍で使用される。新技術が、五輪への「光」になるか。

吾輩が初めて電子ペースメーカー「ウエーブライト」を見たのは昨年で、欧州で開かれたダイヤモンドリーグの長距離種目をインターネットで観戦した時だ。以前から購読している月刊誌「陸上競技」の中で書かれていたが、実際に見ると設定タイム通りにイーブンベースでトラックの内側に沿ってライトが点滅し、選手たちをアシストしていた。また、観客にとってもレースのペースがわかりやすく、これは良いものが出来たと感じたものだ。

実は陸上競技は高校時代から大好きであったので、昔から"電子ペースメーカーのような機器があれば″と、漠然と考えてきた。おそらく、根っからの陸上競技ファンも、吾輩と同じ考えを持っていたと思う。それが2019年の世界陸連のルール改正で「助力にはあたらない」と認められたことで、開発が一気に進んだようだ。それくらい、望まれていた機器であるのだ。

それでは、なぜ電子ペースメーカーがこれまで開発・採用されてこなかったか。おそらく、人間がペースメーカーを務めれば、風や空気抵抗を避けてくれるが、電子ペースメーカーでは、どうしても先頭を走る選手はまともに風や空気抵抗を受けることになるからだ。それを考えると、電子ペースメーカーと人間のペースメーカーを同時に使用した方が、記録更新に繋がると想像するがどうか。

さて今月10日開催の日本選手権であるが、驚いたのは2020年12月4日開催(大阪・長居)の日本選手権1万㍍であった。この時は、初めて記録が出やすいということで12月に開催したが、現在の男女1万㍍の日本記録が樹立され、女子は出場21人中12人、男子は出場48人(外国人選手は含まない)中25人が自己記録を更新した。この背景には、ほとんどの選手が米スポーツ用品大手・ナイキ社の"高速スパイク″を履いていたことと、風なし、気温よしのグランドコンディションに恵まれていたからだ。

そういうことで、10日のグランドコンディションがどうなるのかが、最も気になるところである。そろそろ日本新記録の誕生を見たいが、果たしてこのシステムを採用したレースで樹立できるのか、今から関心が持たれるところだ。

 

※後記ー陸上日本選手権1万㍍の結果(12月10日)

〈男子〉

塩尻和也(富士通)→27分09秒80(日本新記録)

②太田智樹(トヨタ自動車)→27分12秒53(日本新記録)

③相澤晃(旭化成)→27分13秒04(日本新記録)

〈女子〉

①廣中璃梨佳(日本郵政グループ)→30分55秒29(日本歴代2位保持者)

②高島由香(資生堂)→30分57秒26(日本歴代6位)

③小海遥(第一生命グループ)→30分57秒67(日本歴代7位)