陸上女子1万㍍の世界新記録を祝いたい

昨日のリオ五輪陸上競技女子1万㍍で、アルマズ・アヤナ(エチオピア)が、従来の記録を23年ぶりに14秒余り更新する29分17秒45の驚異的な世界新記録を樹立して優勝した。我が輩は、五千㍍の途中経過が14分45秒前後であったので、その段階で“世界新記録樹立の予感"を感じた。その理由は、現地の気温が20℃であったこと、更に雨上がりで湿度が高い、風がないなどの気候であったからで、後半はさらにタイムが上がると感じたからだ。予想通り、後半は14分32秒前後で走りきり、世界新記録に結びついた。やはり、陸上競技は、世界新記録の瞬間が最大の見せ場で、観客も最高潮に興奮する。

我が輩が、この世界新記録樹立に喜んでいる理由には、ドーピングの問題がある。それは、従来の世界記録(29分31秒78)が、ご多聞に漏れず、ドーピングの疑いがあるからだ。従来の世界記録は、王軍霞(中国)が1993年9月に北京で樹立した記録であるが、この記録は女子として世界で初めて30分を切り、従来の世界記録を約40秒更新した記録である。そのため、当時からドーピング疑惑が取り沙汰されており、我が輩も長年にわたって疑ってきた。その疑惑の理由を説明したい。

この世界記録は、五千㍍のラップタイムが15分05秒69で、後半は14分26秒09で、すざましい勢いで後半のペースが上がっている。この後半の記録は、1万㍍で29分前後の選手でないと走れない記録である。更に、王軍霞の五千㍍の最高記録を見ると14分51分87で、つまり五千㍍、1万㍍の記録のバランスが取れず、この1万㍍の世界記録だけが、ものすごい記録であるのだ。

今年2月、日本の新聞は「香港英字紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』は5日、1990年代に陸上女子中長距離を席巻した中国の『馬軍団』の中心選手で、女子1万㍍の世界記録保持者の王軍霞らが連名(約10人)の書簡(95年3月)で、馬俊仁コーチに禁止薬物の服用を迫られたことを訴えた」と報じた。その後、この関連のニュースを期待していたが、何らの情報がない中で、今度の世界新記録樹立になった。

それにしても、日本のテレビや新聞は、日本選手の活躍だけを取り上げている。この女子1万㍍は、優勝者が世界新記録であったが、2位の選手も歴代3位、3位の選手も歴代4位の記録を樹立した、近年まれな歴史的なレースであった。その割には、マスコミの取り上げ方が小さ過ぎると思うのだ。

さて、現在の陸上競技の世界記録は、ドーピング疑惑に覆われいる。その意味で、国際陸上競技連盟は、今後ドーピング違反者をどのように扱うのか、つまり1回の違反で永久追放するのか、という問題に対応しなければならない。更に、過去の世界記録をどう扱うのかという問題もある。スポーツの中心的存在である陸上競技だけに、今後の対応に注目したい。