自衛隊の定員割れは常態化

ロシアによるウクライナ侵略や、北朝鮮弾道ミサイル発射など緊迫する国際情勢を見せ付けられる一方で、国防の要・自衛隊の定員割れが長年2万人規模に至っていることを知ると、祖国を愛する者としては非常に心配になってくる。そこで、まずは令和4年3月31日現在の自衛隊の定数、実員、充足率を確認しておきたい。

陸上自衛隊⇒定員15万590人、実員13万9620人、充足率92・7%

海上自衛隊⇒定員4万5307人、実員4万3435人、充足率95・9%

航空自衛隊⇒定員4万6928人、実員4万3720人、充足率93・2%

統合幕僚監部など⇒定員4329人、実員3979人、充足率91・9%

〇総計⇒定員24万7154人、実員23万754人、充足率93・4%

そうした中、4月16日付「産経新聞」では、オピニオン「日曜講座/少子高齢時代」という企画で、次のように報じた。

〈四半世紀で募集対象25%減ー深刻な自衛官不足〉

ーすでに定員不足が常態化ー

東アジアを取り巻く安全保障環境が「戦後最悪」といわれる中、政府は防衛力の抜本強化を進めている。

今年度予算では防衛費を前年度比26・4%増の6兆7880億円計上した。反撃能力(敵基地攻撃能力)にも活用する米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入などを予定している。

政府は防衛費に5年間で総額43兆円程度を充てる考えで、段階的に装備増強が実現する見通しだ。

だが、装備を強化すれば「安全・安心」が実現するわけではない。立派な装備品をそろえたところで、それを使いこなす人材が不足したのでは始まらない。日々のメンテナンス作業にも人が必要だ。

組織の運用に困難をきたすようになれば、大規模災害時などの人命救助活動にも支障が出ることとなる。

今後の自衛隊にとって最大の課題は、人口減少が深刻化する中で安定的に隊員を確保し続けることである。

政府も危機感を強めており、昨年末に決定した国家安全保障戦略などの「安保3文書」には、「人的基盤強化」がうたわれ、防衛省有識者会議を設置した。

防衛省の資料によれば、すでに自衛官の不足は常態化している。2022年度時点で必要数(定数)24万7154人に対し、予算上の実員は23万3341人だ。その差は1万3813人に及ぶ。

ー採用枠拡大も焼け石に水

現状でも定数に満たないのに、今後は募集対象年齢人口の激減で体制維持がさらに困難になる。防衛省自衛官および一般曹候補生の採用上限を18年に「27歳未満」から「33歳未満」に引き上げたが、焼け石に水だ。18〜32歳人口は、22年の1825万人から38年には1563万人へ262万人(14・4%)減るからである。48年には1373万人まで落ち込み、22年比で452万人(24・8%)減となる見込みだ。

しかも、この数字はあくまで対象年齢人口の見通しであり、すべてが自衛隊に応募するわけではない。過去の応募者数の推移を見ると、少子化の影響がすでに見て取れる。12年度は8万4488人だったが、21年度は8万4825人と25・9%も少ない。

22年度の高校新卒求人倍率は3・01倍とバブル経済期の1991年度の3・08倍に近い水準まで上昇してはいるが、高校新卒者が年々減っている状況を覆すほどの勢いがあるわけではない。2022年度は1月15日現在の推計で7万3887人にとどまる。

新規採用に頭を抱える一方で、自衛隊にとってさらに深刻な状況が拡大しつつある。25年度以降、若年定年制自衛官の定年退職の急増期を迎えるのだ。23年の定年退職予定者は4400人だが、25年以降は5700〜7000人となる見通しだ。

ー退職者の増加が追い打ちー

中途退職者数も増えている。近年は4000人前後で推移してきたが、21年度は前年度に比べ35%ほど多い5742人となった。過去15年間で2番目の多さである。「幹部」や現場の中核を担う「曹」は過去15年で最多だ。

中途退職者が増加した要因として、任務の激化やハラスメントを指摘する声もある。このため防衛省はハラスメントの防止強化はもとより、育児休業・介護休業などワークライフバランスの充実を急いでいる。その一環として備品や日用品、宿舎といった隊員の生活や勤務環境を改善する経費の予算を前年度比2・7倍とした。給与や手当など処遇面の向上も進めている。

待遇改善と並行して、採用対象の多様化にも力を入れている。女性の積極採用も行っており、22年3月末時点で自衛官全体の約8・3%となったが、30年度までに12%以上とする方針だ。民間人材の登用も拡大している。

定年年齢も段階的に引き上げている。これまで定年後の再任用者の多くはデスクワークに就いていたが、今後は部隊などでの活用も推進していくという。予備自衛官も継続任用の上限年齢を62歳未満に見直した。

しかしながら、こうした対策だけで問題が解決する見込みは立っていない。少子化に伴う人手不足は民間でも拡大しており、人材獲得競争は激化の一途だからだ。“戦争"がこれまで以上にリアルに感じられるようになり、応募者を増やすことはより難しさを増しそうである。

自衛隊員の不足は、それ自体が有事だ。政府や国会は防衛装備の充実の論議に終始するのではなく、人口減少社会における自衛隊の在り方の検討を急ぐ必要がある。

図表〈自衛官一般曹候補生の募集対象者人口の推計〉ー18歳から32歳ー

2018年・1881万、22年・1825万、28年・1750万、38年・1563万、48年・1373万、58年・1241万、68年・1193万(防衛省の資料から)

以前にも、自衛隊の志願者数が減少していることを取り上げたが、最近は台湾有事への懸念(米国は「起こるかもしれない」から「いつ起こるか」に切り替えて準備を始めている)を背景に、なおさら自衛隊の定員割れが心配になってきた。そこで、令和3年度の自衛官候補生(陸上2年、海上・航空3年の「任期制」)及び一般曹候補生(部隊の基幹となる「非任期制」)の募集人員を紹介すると、自衛官候補生は約6350人(陸上約4000人〈うち女子約500人〉、海上約1500人〈うち女子約250人〉、航空約850人〈男女の区分なし〉)で、一般曹候補生は約6160人(男子=陸上約3054人、海上約646人、航空約1450人、女子=陸上約750人、海上約110人、航空約150人)で、総数は1万2510人であった。

ということで、あるところから入手した資料から今年4月に新卒者として採用された人数(約1万6000人)を都道府県別に人口当たりで比較すると、①長崎県②宮崎県③鹿児島県④青森県熊本県香川県⑦北海道ーという順で多い。一方、ワーストを見ると、①三重県②神奈川県、山梨県④埼玉県、東京都、長野県、岐阜県、愛知県、滋賀県ーという順で少なくなる。つまり、長崎県三重県に対して、人口当たりで4・5倍多く入隊する県民がいることを示しており、おおざっぱに言えば「九州の県民は非常に自衛隊に協力的」ということができる。

また、自衛隊に詳しい友人によると、駐屯地所在地では自衛隊の「地域事務所」からの“採用プレッシャー"が強いので、必然的に該当する地域の高校から採用する隊員が多いという。例えば、遠軽駐屯地(第25普通科連隊)がある道立遠軽高校の場合、当校のホームページを見たら2017年度から22年度までの卒業生の採用状況が分かる。

○22年度(卒業生数159人)ー自衛官候補生11人、一般曹候補生10人

○21年度(卒業生数185人)ー自衛官候補生10人、一般曹候補生8人

○20年度(卒業生数171人)ー自衛官候補生5人、一般曹候補生4人

○19年度(卒業生数174人)ー自衛官候補生5人、一般曹候補生2人

○18年度(卒業生数167人)ー自衛官候補生6人、一般曹候補生4人

○17年度(卒業生数168人)ー自衛官候補生5人、一般曹候補生6人

ということで、確かに毎年それなりの生徒が、自衛隊に採用されている。だが、昨年と今年の4月に採用された生徒が多いことには驚いた。

以上のような現状を知ると、極東ロシア軍が侵攻してきた場合には北海道北部の防衛を担うのは名寄駐屯地、留萌駐屯地、美幌駐屯地、遠軽駐屯地の自衛隊であるので、その地域の道立名寄高校、道立留萌高校、道立美幌高校は、当然のごとく遠軽高校と同じような採用状況にあると想像する。それを考えると、もっと自衛隊と縁遠い地域での採用活動を強化することは、当然の帰結である。