北海道新聞の「羽ばたけ遠軽高」

またまた「北海道新聞」オホーツク電子版に、3月8、9、11日の3回(上、中、下)にわたって、〈遠軽/羽ばたけ遠軽高 公立校から全国へ〉という見出しで、次のように連載された。

1・上〈強豪部活、進学の決め手〉

「誰もが憧れる全国大会の舞台に何度も立てた。コロナ禍で思うように活動できなくても、言い訳にせずに自分たちができることをやり続けたから」。オホーツク管内遠軽町にある遠軽高で、2022年度の吹奏楽局長を務めた米沢優希さん(3年)は、誇らしげにこの1年を振り返る。その視線の先で、同局が同年に獲得した三つの全国出場記念のトロフィーが輝いた。

同校は1940年(昭和15年)に旧制遠軽中として開校し、50年に遠軽女子高と統合して男女共学となった。校訓は「文武両道」。全校生徒が部活動に所属し、伝統的に部活の強豪として知られる。

■道内初の快挙

その中でも特に吹奏楽局は、国内最大規模の「全日本吹奏楽コンクール」をはじめとする全国大会の常連だ。道外の強豪私立などと並び、金賞を受賞したこともある。22年は同コンクールに加え、楽器演奏と隊列移動や体を使った表現などを同時に行う「マーチング」、少人数で指揮者なしで演奏する「アンサンブル」でも全国出場を果たした。3部門の全国出場は道内初の快挙という。

北海道吹奏楽連盟によると、コンクール出場と並行してマーチングやアンサンブルにも取り組む学校は珍しい。小中学生の音楽活動も盛んな「吹奏楽のマチ」の代表的存在という自覚があるからこそ、週5〜6日、1日平均約4時間の濃密な練習をこなしている。

マーチングリーダーを務めた橋本孔雲(3年)は「遠軽高だから見られた景色がある」と環境に感謝し、アンサンブルに出場した仲野綾音さん(同)は「全国レベルの演奏を何度も聞いて、音楽の素晴らしさを再認識できた」と話す。

■町外から100人

運動部も負けていない。ラグビー部は全国高校ラグビー大会(花園)に過去10度出場し、野球部も13年の選抜高校野球大会(春の甲子園)で聖地を踏んだ。地元も吹奏楽局を含むこれら3部活の活躍を大きな魅力としてPRする。「遠軽で全国に行きたい」と、3部活を目当てに町外から進学した生徒は22年度、全校で約100人に上った。

ラグビー部の須貝恭悟さん(3年)は十勝管内中札内村出身。中学時代に大会などで遠軽を訪れ、同世代選手と交流したのも入学の動機となった。卒業後は強豪ラグビー部のある首都圏の大学に進む。「(町が17年に整備した)人工芝のラグビー場も良かった。私立校に負けない環境でしっかり練習できた」。3年間過ごした遠軽に恩返しを誓う。

2・中〈志願者増え官民「応援」〉

1億3551万円ー。オホーツク管内遠軽町が2022年度、遠軽高の支援のために予算化した金額だ(23年1月末時点)。道立校に対し、市町村が間接的に投じる財源の規模としては極めて異例の額となった。

■異例の予算額

算額を押し上げた主な要因は、町内に今月完成する新しい下宿の整備補助金8500万円。22年4月、同町と周辺7市町村を除く学区外からの入学者は前年度より23人多い50人に急増、受け皿不足が深刻となった。地元経営者らでつくる「遠軽高校下宿を支援する会」が町費を活用して下宿を建て、運営も行う。

高橋義詔会長(58)は葬祭業を営み、グループ会社が経営するビジネスホテルなどでも下宿生を受け入れる。「高校の体を保つには(学区外生を集め)生徒数を維持しないと。20年、30年先を考えて今やれることをしたい」と話す。同会役員の大西孝拡さん(47)も「子どもは日本の未来を担う『宝物』。彼らの可能性を閉ざさないよう、支える責任が地元にはある」。

佐々木修一町長(64)は「地域の人々が経済活動を営み安心して生活を続けるには、教育と医療の充実が必須。その軸となる遠軽高を小さくするわけにはいかない」と語気を強める。遠軽を含むオホーツク北部は、酪農や水産などの1次産品供給の中核を担い、その中で500人前後の生徒がいる高校は遠軽高だけ。佐々木町長は09年の初当選以来、同校存続を政策の柱とし「大勢の同級生や先輩がいる中で社会性を学ぶのが、多くの子どもにとって望ましいはず」と語る。

■下宿の開業も

町は、町内・近隣以外からの入学者に対し、下宿費用や遠距離通学の交通費も支給する。15年度に制度化し、下宿生には月最大3万円、JRを利用する通学生には同1万円を助成。紋別市からの下宿生、背戸こころさん(1年)は「精神的に強くなろうと思って親元を離れた。思い切って入学したことで紋別の良さに気づけた」とうれしそうだ。

同校から徒歩1分の距離に自宅を構える粕谷浩司さん(60)は4年前、自宅隣にあった妻の実家が営む商店を改装して下宿を始めた。本年度はラグビー部員7人が入居する。町外の高校に通った息子も下宿生活を送った経験から、「私も応援する側に回ろうと。思っていたより大変です」。生活の乱れを心を鬼にして注意することもあるそうだ。

22年夏、町は地元スポーツ関係者と協力し、東大硬式野球部の合宿を誘致。期間中、東大生が遠高生に受験の心得や勉強法を教える催しも企画した。狙いは学力を上げ、部活動以外の魅力で志願者増。官民一丸で遠軽高を「推し」ている。

3・下〈教員奮闘 教育の質維持〉

2019年10月、遠軽高の会議室に、ただならぬ緊張感が漂っていた。次年度以降の学校運営を検討する会議。「本当にこのままで良いのか」。近い将来、志願者が減り、現行の1学年5学級から4学級に縮小しかねない状況を危ぶむ教員が同僚に問いかけた。

声を上げたのは、野球部顧問の阿波克典教諭(37)と吹奏楽局顧問の高橋利明教諭(50)。いずれも同校を代表する部活動を率いる立場だが、部活の衰退以上に、教育活動の質の維持に危機感を覚えたという。

■SNSで発信

地元の行政や民間からは既に十分過ぎる支援を受けてきた。「あとは教員の意識が変わらなければ」。2人は学校長に直談判し、教員有志で「生徒募集委員会」を翌20年5月に設立。委員会を中心に、学校のPRや特色づくりが始まった。

委員会には現在、各部活顧問や若手教員など全教職員の約4割に当たる21人が所属。学校PRでは、交流サイト(SNS)を活用して部活動などの情報をまめに発信し、町内外の中学校訪問や説明会の回数を増やした。国公立大進学希望者向けの放課後講習を新設したり、部員減で廃部となった男女のバドミントン部など複数の部活を男女合同の形で復活させたりもした。

■留学生を招請

委員会に参加する英語科の粟津佐和子教諭(32)は国際理解教育の充実に力を注ぐ。語学を通じた人間的成長に期待して、アジアの高校生を招請する文部科学省の事業を活用し、8年ぶりに長期の外国人留学生を受け入れた。21、22年度で中国人、マレーシア人、フィリピン人の各1人が遠軽に滞在し「『正確な英語でなくても、自分の思いを伝えられた』と感激する生徒もいた」と手応えを語る。

委員会をまとめる阿波教諭は「教員の負担は少なくないが、全ては子どもたちの教育環境を維持するため」と話す。委員会というチームで取り組むことで「特定教員に負担が偏らない配慮が前提になっている」とも強調し、今年2月には生徒の出欠管理など教員の事務作業負担を減らすシステムづくりにも着手した。

学校経営に詳しい道教大札幌校の赤間幸人特任教授(60)は「職業科に比べて普通科高校の活動は地域に見えにくい。組織をつくって学校の魅力を積極的に配信し、教育の充実を図る例は珍しい」と評価する。

一方で関係者からは「遠軽高が存在感を示せるのは、国の代わりに地元の官民や教員が汗をかいているから」との本音も漏れる。国に対し教育の重みの再認識と予算の重点配分を求める声も。“遠高モデル"は地域の課題解決にとどまらず、日本の教育界に一石を投じているのかしれない。

過去に一度も「全日本吹奏楽コンクール」で金賞を獲得していないと思うが、3月8日付けの題名「遠軽高校の活発な部活動の背景」に引き続き、遠軽高校を取り上げたので「また遠軽高校か」と言われそうだ。だが、北海道新聞の「遠軽支局」の記者が、せっかく地元の遠軽高校の存在感を大きく取り上げてくれたのに、これに応えないわけにはいかないではないか。そして、吾輩も“事実関係を歴史に残す"という使命を感じている以上、再び全文を引用することにした。

それにしても、前回に引き続き地元紙「北海道新聞オホーツク版」に掲載されず、電子版に登録した読者しか読むことができないというのは非常に残念なことである。つまり、この記事は多くの道民も読むことができず、歴史の彼方へ消える運命にあった。このような新聞業界の現状を知ると、商業新聞は相当経営が厳しいことが想像できる。例えば、朝日新聞はこの12年間で発行部数が半分(中村史郎社長によると、昨年12月時点で朝刊が384万部で、夕刊は122万部)になり、記者の平均給与(38歳)も1200万円から1050万円に減額になったという。また、北海道新聞もこの3月からネットの記事が、見出しと最初の2〜3行しか読めなくなったが、以前は記事の半分くらいは読めたので、それなりに記事の内容を知ることはできた。

最近、周りの知り合いと話しをすると「もう紙の新聞時代は終わった。ニュースはネットでタダで読める」という声を多く聴く。しかし、考えてほしい。ニュースをネットに流しているのは、それなりに専門知識がある新聞記者やその関係者である。つまり、書くことが好きで新聞社や出版社に入社し、先輩や上司から厳しく鍛えられたプロが書いているから、質の良い記事を多くの人が読むことができるのだ。それを考えると、発行部数が減少したことで記者がリストラされると、将来的にはネットメディアが発展しても、記事を書くジャーナリストが大幅に減少することになる。そういうことで、多くの人に「新聞購読を辞めないでほしい」と言いたいのだ。

話を遠軽高校に戻すと、北海道の辺境地・オホーツク海沿岸に位置する自治体が、今年度一般会計歳出169億円の中から「教育費」として14億4833万円(9%)を支出している。多いかどうかは各人で判断するとして、地元の大事な教育機関である高校を維持するため、如何に少子高齢化の中で苦労しているかを知ることは、大げさに言うと現代に生きる者にとって、一つの知見を広げることになる。そして知見を共有することで、どのように対応すれば埋没しないのかのヒントを得ることができる。そういうことで、地元紙の役割が非常に大きいことを確認して、今回の文章を終わりにします。