遠軽町在住の漫画家の素性は如何に

7月2日付「北海道新聞」は、「遠軽の主婦・粥川さんー漫画デビュー作 単行本に」という見出しで、次のように報じた。

〈「エリートは學び足りない」13日発売〉

オホーツク管内遠軽町の主婦粥川すずさん(44)=本名非公開=の漫画「エリートは學び足りない」第1巻が13日、講談社から発売される。4月から同社ウェブサイトで連載中のデビュー作を単行本にしたもので、プロの道をつかんだ。

作品は大正末期、架空の旧制高校が舞台。先輩からの手荒い歓迎など学園生活をコメディータッチで描く。「学生時代、図書館で偶然手にして夢中になった」という旧制高校の写真集や数々の資料を基にした。「学帽にマント、げた履きの姿で、寮で暮らしながら濃密な友情を育んでいた少年たちにときめき、お話を作りたいと思っていました」

静岡県菊川市生まれ。小学時代に絵画教室へ通い、高校で美術部に所属し油絵などに取り組んだが、漫画の執筆は未経験だった。結婚後、夫の住む遠軽へ。3人の子を育てながら、漫画のようなスケッチをたまに描いても「恥ずかしくて誰にも見せられず、夫が庭に作ったピザ窯のたき付けにしたりしてました」。

育児が一段落した2019年、「夢をかなえるには年齢的に最後のチャンス」と同社の漫画誌「モーニング」の新人賞に応募し入選。編集者からメールで指導を受けて連載が始まった。

「押し入れを改造したスペースでパソコンに向かって描き、画像データを本州のアシスタントさんに送り手伝ってもらっています」という日々。「家族も締め切りの大変さを理解して、家事に協力してくれます」と感謝し「登場人物の生い立ちなど、シリアスな展開にも挑戦したい」と構想を練っている。

サイト「コミックDAYS」の連載は2週に1話、更新中。

ということで、さっそく本書「エリートは學び足りない①」(著者=粥川すず、発行者=講談社)を取り寄せてみた。漫画本の内容は、新聞に記載されている通り、架空の「官立第九高等学校」を舞台にした青春物語である。

吾輩が一番不思議に感じたのは、44歳の女性が、戦前の旧制高校(昭和25年に廃止されるまで約40校存在)を舞台にしたことで、教育内容もそれなりに理解して描いていたことだ。ですから漫画家は、遠軽高校か中学校の教諭の夫人ではないか考え、遠軽高校の後輩に尋ねたが「知らない」という返事であった。

吾輩は、これまで旧制遠軽中学などを通じて、戦前の教育制度を取り上げたこともあるが、その想うところは多少とも若い人に戦前の教育制度を知ってほしかったからだ。つまり、オホーツク管内では吾輩の同学年以上の父親たちは、多くが旧制中学以上の学歴はなく、ましてや旧制高校を卒業した人は、ほとんどいなかったと考えられる。

例えば、旧制遠軽中学を卒業した昭和3、4、5、6年生まれの中には、青山学院大学教授であった人物や、東北大学を卒業した人物がいるので、これらの卒業生は旧制高校に入学した可能性が高い。そして、他の地域の人が旧制高校を卒業して、オホーツク管内に居住する人はいなかったと考えている。なぜなら、旧制高校卒業生は、帝国大学への進学が確約されているエリートで、入学者は同世代男子人口の僅か1%弱であったからだ。

漫画家は、静岡県出身であるので、それなりに旧制高校を卒業した人物から話しを聞く機会があったかもしれない。また、旧制静岡高校(東京帝大への進学率の高さは、一高、浦高に次ぐ第3位)は、中曽根康弘元首相の出身校であるので、それなりに関心を持てたと思う。それでも、44歳の女性が漫画の題材に旧制高校を選ぶには、それなりに教育環境に関心を持っていたことが考えられる。

そういうことで、教諭の夫人と想像したが、真相は如何にである。いずれ素性が分かると思うが、プライバシーを侵害しないで判明してほしいと願っている。