道民はロシアの侵略を恐れている

まずは、5月23日付「産経新聞」の主張から紹介する。

〈侵略国ロシアー「北方の脅威」にも備えよ〉

日本は、中国と北朝鮮だけでなく、ロシアという北方の脅威にも備えなければならない時代に入った。岸田文雄首相にはその自覚を持って、国民を守る態勢を構築してもらいたい。

ロシアのウクライナ侵略が続いている。日本や欧米諸国は厳しい制裁に踏み切った。ロシアのプーチン政権は反発し、日米欧を非友好国とみなしている。

侵略を止めるための経済制裁は当然だ。ただしロシアのような軍事大国を相手にするには、防衛上の備えも講じる必要がある。

フィンランドスウェーデン北大西洋条約機構(NATO)へ加盟を申請した。ロシアに隣接するバルト三国ポーランドNATO軍部隊は増強され、ドイツやデンマークなどは国防費の思い切った増額を表明した。

ロシアに対する抑止力を高めつつ、制裁や外交で停戦や和平を促していくということだ。

一方、岸田政権は制裁については先進7カ国(G7)の一員として足並みをそろえているが、新たな防衛上の手立ては、通常の警戒監視のほかは、ほとんど講じていないようにみえる。

ウクライナが日本からおよそ8千㌔も離れているからといって油断してはいないか。

北海道の北に広がるオホーツク海には、対米核攻撃が主任務のロシアの戦略原潜が潜んでいる。ロシアはこれを自国の国際的地位と安全保障する切り札と位置付けている。ロシアが不法占拠する北方四島は太平洋とオホーツク海を隔てている。

ウクライナとの戦争の行方がどうなるにせよ、ロシアの軍事的関心が日本の北方から離れることは当面なく、警戒は怠れない。

ロシアは3月に北方領土周辺で3千人規模の演習を行った。中露の海軍艦艇は昨年10月、日本を一周した。中露の戦略爆撃機は昨年11月と一昨年12月に日本海東シナ海などで合同飛行した。日本への露骨な軍事的威嚇だった。

台湾や尖閣諸島など南西方面で緊張が高まったり、有事になったりする際に、ロシアが呼応して日本の北方の海空域で軍事行動をとる恐れがある。岸田政権は年末に国家安全保障戦略など戦略3文書を改定し、令和5年度予算案を決定する。南西方面に加え、北の守りにも同時に対処できる防衛力の整備は急務である。

以上の主張を取り上げたのは、5月9日から17日まで北海道旅行(フェリー2泊、札幌・稚内・滝上・網走・根室・釧路各泊)をした際に対話した、政治的意識が高いオホーツク管内の友人2人の発言があったからだ。その一人は「おい、知っているか。ロシアが湧別の浜に上陸して、最短距離で旭川を占領するという」というのだ。その際には「今のロシア極東軍の戦力なら、簡単に自衛隊が撃退する」と返答したものだ。

さらに、もう一人は「ロシアが、宗谷管内の浜頓別の浜に上陸するという話がある」と、具体的な地名を示して真剣に話す知人がいるという。そして、サハリンに近い北海道北部の道民は、ロシアに対する心配の度合いが違うが、その背景にはかつての樺太引き揚げや、近海での引き揚げ船の悲劇(三船遭難事件)などの事件を知っているからだと言うのだ。だから、吾輩は「オホーツク海沿岸の住民は、こんなにロシアの上陸を心配しているのか」と、逆にこちらが心配してしまった。

しかし歴史を遡ると、終戦直接の8月16日にソ連スターリンが、釧路市留萌市を結ぶ線より北東側の北海道をソ連占領地域とするようGHQ(連合国軍最高司令部)に要求し、トルーマン米大統領が拒否するという出来事があった。さらに、ロシアの政党「公正ロシア」のミロノフ党首が4月1日に「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」という、とんでもない発言までしている。

そのような状況を考えると、中露のような権威主義的な国家との「話し合い」が通用しないことは明らかであり、その意味で「北海道の住民がロシアの侵略を心配する」ことは、自然なことである。要するに、プーチンの暴挙に我々日本人も腹をくくる必要があるにも関わらず、明らかに東京周辺の住民と道民では違う認識で、なおさらロシアに近いオホーツク海沿岸に位置する住民の懸念は顕著であることを知ってほしいのだ。