ウクライナ戦争で参考になる新聞記事

本日で、令和3年度が終了する。そうした中で、ロシアのウクライナ侵略により世界情勢の緊迫度が高まり、今は「ロシアの侵攻は世界を根本的に変えた」(例えば、ドイツは今年から軍事支出を引き上げて、米国と中国に次いで世界3位〈20年は7位〉にする)という認識になっている。そういうことで、ロシアのウクライナ侵略から1か月余りが過ぎたことから、3月末の新聞で参考になった記事3本を紹介することにした。

1・3月22日付け「読売新聞」

分析ウクライナ危機ー露 冷戦思考のまま(テンプル大学ジャパンキャンパス上級准教授のジェームズ・ブラウン)

ロシアのプーチン大統領の「誤算」が指摘されているが、誤った判断をしたのには理由がある。事実上のトップに君臨した22年間で、政治システムはより権威主義的になり、ロシア国民への抑圧を強めた。意見する側近は去り、正確な情勢認識を得られなくなった。

プーチン氏の思考は、冷戦構造から抜け出していない。ソ連の情報機関、国家保安委員会(KGB)に勤務し、自らが仕えた国家が崩壊する過程をつぶさに見た。そのトラウマが強く、西側陣営が作った北大西洋条約機構(NATO)を今でも敵ととらえている。

昨年8月に米国がアフガニスタン撤退で混乱したことは、プーチン氏に米国の退潮を印象づけた。1979年にアフガニスタンに侵攻したソ連は89年に撤退し、2年後に崩壊した。プーチン氏にとって、米国を巡るアフガンでの混乱は、ソ連の衰退と崩壊の過程に重なって見えたというわけだ。

ロシアの帝国主義的な行動は、これまで経済的関心からロシアと協調してきたドイツなど欧州諸国の認識を変えた。今回のウクライナ侵攻で、各国はロシアとの共存は無理だと判断し、米国と足並みをそろえて厳しい対露制裁に踏み切った。

日本は北方領土問題での譲歩を狙い、ロシアとの経済協力を積極的に進めてきた。安倍政権下では、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合後も日本の対露制裁は先進7か国(G7)の中では軽く、温度差が際立った。プーチン氏は当時、G7のほころびを示そうと日本を利用した面もある。

今回、プーチン氏は「ウクライナは弱い」と判断し、侵攻を始めた。弱腰な態度はロシアをつけあがらせる。ロシアに厳しい姿勢を示した岸田政権の判断は正しい。見境がなくなったプーチン氏の次の行動が懸念されるが、日本の毅然とした対応を期待したい。

2・3月29日付け「産経新聞

緯度経度ー東欧が「反戦」嫌う理由(パリ支局長・三井美奈)

「あなたの考えは『平和主義者』のたわ言ですよ」

ウクライナの隣国で、取材先からこんな言葉を浴びた。相手は、ポーランド国際問題研究所のロレンツ・ボイチェフ研究員(52)だ。

私の質問は「一刻も早い停戦を優先すべきではないか」というものだった。ボイチェフさんは「何も分かっていない」と言わんばかりに、停戦と「真の平和」の違いを語った。

筆者が住むフランスには、「人命第一。どんな手段を使っても、攻撃をやめさせろ」という議論がある。ウクライナへの大量の武器支援は戦闘を激化し、犠牲を増やすという人もいる。だが、ボイチェフさんは「そんな西欧の厭戦気分を、ロシアは常に利用してきた。侵略を追認させるために、です」と訴えた。

ロシアに交渉で攻撃停止を求めれば、必ず「それなら、こちらの要求をのめ」と言ってくる。それは、ウクライナにおける親露派の政府樹立だったり、武装解除だったりするだろう。ボイチェフさんは、それは真の平和ではないという。

第二次世界大戦後、東欧諸国は旧ソ連支配下に置かれた。「ソ連がすべて正しい」という歴史観を押し付けられ、絶対忠誠を誓う共産主義政党が政権を握った。学校で、子供はロシア語をたたき込まれた。

ボイチェフさんは「私はその世代です」と言った。戦争をしない代償として、国民はソ連に心まで支配された。1989年、ポーランドでそんな体制が崩壊したとき、彼は20歳だった。

ワルシャワ郊外で、ウクライナ難民の支援活動をするミハル・ベグレビチさん(41)はそのとき9歳だった。父親は、非合法だった自主管理労組「連帯」の活動家。ベグレビチさんが生まれとき、反体制派として投獄されていた。

「自由の中で育った人は『平和を』と簡単に言う。だが、戦争がなければよいのでしょうか。言いたいことも言えない暮らしが、平和と言えますか」と、私に問いかけた。難民を助けるのは、単なる親切心からではない。「ロシアにあらがうウクライナ人の戦いは、私たちにとって人ごとではないのです」

2人の話を聞いて、目が覚めた。日本は戦後、米国に占領された。一方的な戦犯裁判を押し付けられたにせよ、民主主義と自由経済を育むことができた。かつての西ドイツも同じだ。だが、ポーランドウクライナの人たちにとって、ソ連支配下の平和は自由の死であり、民族の消滅だった。魂を奪われることだ。ソ連がロシアになっても、脅威は同じ。今のウクライナの戦いは「二度と、奴隷の民にならない」という決意が支える。

フランスのマクロン大統領は、プーチン露大統領と電話会談を繰り返し、停戦を呼び掛ける。ポーランドの人たちが不安な思いで見ているのを、現地に来て初めて知った。

東欧で米国への支持が強いのは「自由」で妥協しないからだ。ボイチェフさんは「第一次大戦以来、欧州の戦争は、すべて米国が終わらせた。米国こそ欧州安定の要です」と言い切る。

ベグレビチさんが、ウクライナから1人で脱出した15歳の中学生を迎えに行くというので、駅まで一緒に行った。夕暮れのプラットフォームで少年は背を丸めて座っていた。ベグレビチさんは無言で肩をたたいた。

「大丈夫。君を全力で守るから」。こんなふうに言っているようだった。

3・3月30日付け「朝日新聞

ウクライナ危機の深層ー「ジャベリン」戦況変えたか

ロシア軍のウクライナ侵攻が長期化している。ウクライナ側の抵抗の象徴とされているのが、手持ち式の対戦車ミサイル「ジャベリン」だ。戦況にどう影響しているのか。東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠・専任講師に聞いた。

ロシア軍戦車の損害が増えている。軍事情報サイト「Oryx」によると、すでに二百数十両を失ったとの報告もある。ウクライナ戦車部隊などによる攻撃もあっただろうが、ジャベリンなど対戦車ミサイルの攻撃は相当な効果があったとみていいだろう。

ジャベリンは総重量が約20㌔と歩兵が肩で担ぐことができる。また、目標に近づきつつ上昇し、戦車の弱点である装甲の薄い上部を狙う能力もある。価格も1発2千万円ほどで、訓練に要する時間も短い。一方、ロシアは高価な戦車や戦車兵の養成に相当なコストがかかり、コストパフォーマンスではジャベリンが圧倒的に有利だ。

当然、ロシア側もジャベリンを警戒していたが、ジャベリンなど西側の大規模な軍事援助とウクライナ側の徹底的な抵抗によって、ロシア軍の根本的な戦争計画が崩れたと言える。

ただ、こうした戦果は戦車の位置を特定して接近するための指揮通信システムや、ウクライナ軍が相当規模の戦力を持っていたことなどにもよる。

また、ジャベリンの射程は約2・5㌔で、射程圏内にたどり着く前に犠牲になった兵士も多くいるはずで、危険が伴う作戦でもあるのだ。

ー以上3本の記事を取り上げたが、その中で2番目の記事に注目してほしい。というのは、昼間のテレビに出演しているコメンテーターと称する人たちが、ロシア本来の狡猾さを十分に理解しないで、ウクライナ国民が文字通り命懸けで戦うことに対して、盛んに「抵抗するよりも降伏しろ」などと無責任な意見が聞かれた。その中には、前大阪市長橋下徹が含まれているが、彼は大阪・北野高校のラグビー部員で、さらに全国大会まで出場した名プレーヤーであることから、けして軟弱な精神構造の持ち主ではない筈だ。だからこそ、元東京都知事石原慎太郎も期待していたし、吾輩も期待していたのだが、そこには戦後の「平和ボケ」の意識があるし、大戦末期の昭和20年8月9日、 ソ連軍が日ソ中立条約を一方的に破って、満州樺太、千島列島で何をしてきたのかという、日本人が絶対に忘れてはいけない歴史が完全に抜け落ちている。

ここで、3月19日に友人たちに送付したミニメールを改めて紹介したい。

ー今日の朝日新聞朝刊、元内閣法制局長官・阪田雅裕のインタビュー記事で、見出し「なし崩し『専守防衛』」を一紙面全体で報道した。これまで、朝日新聞は何回も阪田のコメントを取り上げているが、これまで何かあるごとに時代遅れで機能不全の憲法を持ち出し、日本の将来の選択肢を閉ざしていた元内閣法制局トップの見解を、今さら聴く必要があるのか。ただただ憲法を解釈する自分たちの権威を守だけで、命を懸けないで、口先だけで生きてきた元大蔵官僚の発言の最後は「9条をどう生かせるかを今後もしっかりと考える必要があります」で終わった。

一方の産経新聞、昭和56年に国会で元海軍大佐・源田実参院議員が憲法前文にある「平和を愛する諸国民」の中に、日本は入るのかと質問したところ、当時の内閣法制局長官は「他人を信頼するわけで、日本国の国民ははいらない」と答弁したという。今、日本国民が必要な知識は、自由主義・民主主義国家の一員として、どのような覚悟でロシアのウクライナ侵略に立ち向かうかである。今更、朝日新聞の思想を聞く必要がないことは、一目瞭然である筈だ。

また、最近のテレビの歴史番組を見ていたら、ある歴史学者が「今の日本は、中国大陸の明朝や清国と同じ」という発言があった。つまり、学力試験で出世し、命を懸けて生きている者が出世しない、という世の中になっているということだ。誠に、考えさせる発言である。ー

改めて、この短文を紹介したのは、今の日本には徹底抗戦を呼びかけるゼレンスキー大統領を非難して、あらゆる防衛努力は無駄と言いかねない、橋下徹のような「降伏論者」が非常に多いからである。このような人物は昔から多く、吾輩の周りで冗談半分でも「ソ連が侵略してきたら戦う」と発した者は、全体の1割か2割程度と記憶している。だからこそ、これまでに「北方領土」「北鎮(第七師団)」「自衛隊」などを通して、国防の重要性を訴えてきたが、やはり両親、学校、友人、職場などでの「健全な領土教育」に何らかの欠陥があるのであろう。

確かに、命あっての物種という考え方はあるが、降伏後の対応が解らないロシアに対して、簡単に「降伏」を薦めることはできない。やはりここは、自由を守るためには毅然として戦う姿を支援したい。そして犠牲者には心を痛めて、犠牲は少なくあれと祈ることは世界の正常な感覚と考える。この2つはけして矛盾するものではない。そう意味で、国会議員を始め、せめて男たちの半分は、ウクライナの男たちと同じ「普通の国」の国民と同じ志を持ってほしいのだ。(敬称略)