プーチンの戦争は側近5人で決めた?

まさにロシアのウクライナ侵略が世界の注目を集める中、3月1日に会員情報誌「選択」が郵送されてきた。さっそく、ウクライナ戦争に関連する記事を探すと、非常に重要な記事を見つけたので紹介する。

ウクライナ暴挙の「4悪人」ープーチン「密室会議」が生む恐怖〉

ロシアのプーチン大統領が2月21日、ウクライナ東部の親露派支配地区の独立を承認したことは、国際法の侵害となる。

しかし、プーチンは国民向け演説で、「ウクライナはロシアにとって不可欠な空間」と時代錯誤の歴史神話を延々と語り、意に介さなかった。同月7日にプーチンと5時間会談したマクロン仏大統領は、「彼は3年前とは別人になってしまった」と周辺に漏らしたが、プーチンの「異変」を示唆する情報が伝えられている。

会談後の共同会見で、プーチンは「ウクライナNATOに加盟し、クリミアを取り戻そうとするなら、核戦争だ」とすごんで見せた。クリミアを違法に併合しておきながら、返還を求めるなら核を使用するという狂気の恫喝だった。プーチンは2014年のクリミア併合時にも、「核兵器をアラートに置くことを考えた」と述べており、安易な核使用発言が目立つ。

メルケル前ドイツ首相は14年、「プーチン大統領はわれわれとは別の世界に住んでいる」と述べたが、マクロンの発言は、プーチンがますます別世界に遠ざかった印象を与えた。

プーチンの「異変」について、トランプ米政権で国家安全保障会議(NSC)欧州ロシア上級部長を務めたフィオナ・ヒルは最近、「プーチンはこの2年間、新型コロナ禍で隔離生活を行い、ほとんど誰とも会っていない。より感情的になり、極度に緊張している。何か不気味なことが起きているのではないか」と米メディアに語った。

大義名分も必然性もないウクライナ攻撃の準備を整えること自体、理詰めで政策を進めてきた従来のやり方から逸脱している。ヒルは「プーチンは病気だという噂がモスクワで流れている。死期を意識し、間違った方向に進んでいるのではないか」と憶測した。

〈第一人者はパトルシェフ〉

クレムリンに近いロシアの消息筋によれば、プーチンが外交・安保戦略で最も信頼し、頻繁に会うのは、パトルシェフ安保会議書記、ショイグ国防相、ボロトニコフ連邦保安庁(FSB)長官、ナルイシキン対外情報庁(SVR)長官の4人だ。欧米への高飛車な安保提案も5人で決めたという。

テレビ中継された2月21日の安保会議でも、この4人が「ドネツク、ルガンスク両人民共和国の独立承認」を強く主張し、実力者ぶりを見せつけた。

ショイグを除く4人は旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元将校であり、1970年代後半から80年代にかけて、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)KGB防諜部門の同僚だった。レニングラードKGBソ連時代、反体制派の弾圧に辣案を振るった伝説がある。暗殺、心理工作、サイバー攻撃、諜報活動など現在のロシアの破壊工作は、レニングラードKGBの経験が起点になっている。

プーチンは政権を握った後、KGBの同僚をクレムリンに呼び寄せ、最大派閥サンクト派のシロビキ(武闘派)が誕生した。内外の敵を識別するKGBは、仲間しか信用せず、特異なインナーサークルがクレムリンに形成された。

ロシアの最高意思決定機関は安保会議だが、これには上下両院議長や一部閣僚も加わっており、外交・安保政策の中核はこの5人で密室決定される。ラブロフ外相もウクライナ政策には関与できないという。

ロシアのメディアによれば、8年前のクリミア併合は、プーチン、パトルシェフ、ボロトニコフ、セルゲイ・イワノフ大統領府長官の4人による密室決定だった。レニングラードKGB出身のイワノフはその後、大統領特別代表に転出し、コアのメンバーから外れた。

プーチンの最大の盟友がパトルシェフだ。FSB長官を長年務め、現在は安保会議書記として外交・安保戦略を統括する。プーチンを飛躍させた第二次チェチェン戦争の契機は、99年秋のアパート連続爆破事件だが、パトルシェフはアパート爆破の影の仕掛け人とする疑惑がある。

プーチンは昨年7月、パトルシェフの70歳の誕生日に際し、「長年の友情と優れた資質、学識、分析能力に感謝する。あなたは常に時代が要求する課題に対処する責任能力を発揮した」と最大級の祝辞を送った。プーチンは4年前、パトルシェフの長男を農相に抜擢した。

パトルシェフは年末からメディアに登場し、「ウクライナ指導部は、ヒトラー並みの悪人ぞろいだ。ウクライナ民族主義者は人間以下の存在だ」などと激烈に批判した。2月に逮捕された評論家のワレリー・ソロベイは「ロシアはプーチンの国だが、政権はパトルシェフのものだ」と述べ、政権運営の第一人者と分析した。

〈シロビキが目指す「帝国の復活」〉

シベリアの少数民族出身のショイグはKGBの経験はないが、長年非常事態相を務め、プーチンに次いで知名度の高い政治家。ロシア地理協会会長で、毎夏プーチンをシベリアの森に誘って休暇を共にし、その模様を国営テレビが放映する。昨年、シベリア各地に百万、五十万人規模の新都市を数カ所建設し、特定の産業を担うとする夢物語を打ち上げた。最近ではウクライナ民族主義者をやはり「人間以下」と酷評した。

対外スパイ組織トップのナルイシキンはロシア歴史協会会長を務め、ロシア史を美化する歴史改ざんの先頭に立つ。ロシア各地でウクライナの人権侵害や右派勢力の策謀、欧米の介入を非難する展覧会を開き、国民を洗脳する。日本の一部専門家がこの誤った言説を真に受けている。

下院議長時代、日本との窓口だったナルイシキンは、日露関係史の改ざんを進めており、昨年は旧ソ連が抑留中の日本人戦犯を裁いた1949年の「ハバロフスク裁判」をめぐる学術会議を主催。シベリア抑留や北方領土占拠を棚に上げ、「日本軍国主義を将来まで記憶する」よう訴えた。

防諜機関トップのボロトニコフは近年、反政府指導者ナワリヌイへの毒殺未遂をはじめ記者や学者、活動家ら反体制派狩りを指揮した。

プーチンは1期目、2期目は経済閣僚やリベラル派学者らの意見に耳を傾けたが、12年の3期目以降、元KGBの腹心がかき立てる不満や誇大妄想の虜になり、すっかり保守イデオローグに変身した。シロビキが目指すものは、勢力圏拡大による「帝国の復活」だ。

女性政治評論家のタチアナ・スタノバヤは、「シロビキは欧米との対立や経済制裁を恐れていない。ウクライナで戦争が起きると、ロシア国内で反戦運動や社会混乱、経済の悪化を招くという見方があるが、実際には抑圧が強まり、保守主義全盛の時代に入るだろう。暴力装置を握るシロビキの立場は強まり、タカ派のレトリックと欧米への敵対姿勢が進む」と予測する。KGBの落とし子であるプーチンら「5人組」が、ロシアと世界に脅威を振りまく。

この記事を見つけた瞬間、確か2月27日か、テレビ討論番組で東京大学先端科学技術研究センター専任講師・小泉悠が「ウクライナ軍の抵抗により、ロシアは想定外の苦戦を強いられているが、その原因はプーチン大統領KGBの仲間4人だけで決めたことが影響しているかもしれない。つまり、ロシア軍の攻撃計画が不十分であるので、現場の軍部隊は準備不足の可能性がある」という発言があったからだ。

さて最近、プーチン大統領は合理的な判断ができないということで、心と頭の中の異常性を指摘する有識者の発言が多くなってきた。今日の朝日新聞にも「軍事侵攻に突き進んだプーチン氏がとれる選択肢は狭まり、切り札がなくなりつつあるのも事実。冷静な判断力を失えば、どういう暴挙に出るか予測できないという怖さもある」という解説記事がある。

さらに、テレビ討論番組で安保・軍事専門家が「核兵器」とか、「第三次世界大戦」とかという発言があり、当然の事に戦火が拡大したり長期化すると、前述の心配が現実化することが考えられる。我々も緊張感を持って、ウクライナ戦争を注視して行きたい。