遠軽町の黒曜石が国宝指定から1年

遠軽町白滝の黒曜石が、昨年6月27日の官報号外第134号の告示により、正式に国宝に指定となって1年が経過した。そこで地元紙「北海道新聞オホーツク版」は、27日付けで「国宝指定1年」として、関連記事を3本も掲載した。

①見出し「黒曜石 地域振興に磨き/来館者3倍、新名物次々/ガイド不足課題」

遠軽オホーツク管内遠軽町内の白滝遺跡群から出土した黒曜石製石器類が国宝に指定されてから27日で1年を迎えた。国宝指定により注目が集まり、石器類を展示する町埋蔵文化財センターの来場者数は3倍となった。町内では黒曜石をイメージした黒色の土産品が人気を呼び、新商品の開発も続く。一方、黒曜石の原産地を巡るツアーのガイド不足など課題もあり、「最古の国宝」を生かした地域振興は道半ばだ。

「黒曜石の輝きと、先人たちの精巧な石器製作技術に圧倒された」。同センターを22日に訪れた神奈川県の自営業田中睦子さん(72)は興奮した様子で話した。

2022年度の同センター入館者数は3330人だったが、23年度は3・3倍の1万943人で11年の開館以来の最多を記録。学校や企業の研修や旅行会社のツアーの申し込みが増え、団体利用が大幅に増加したという。

町内の道の駅「遠軽森のオホーツク」では、黒曜石をモチーフにごまを使った真っ黒なソフトクリーム「ジオソフト」が前年度の倍近い2万8368個を売り上げた。国宝指定後に販売を開始した竹炭で黒く着色した「ジオカレー」も連日完売が続く人気商品となっている。「黒はインパクトがあり、観光客の関心を引きつけている」(道の駅)といい、町内では新商品やグッズの開発が進む。

一方、黒曜石の原産地を巡る「ジオツアー」はガイド不足が深刻化している。ツアーは官民でつくる協議会が例年7~10月に月に2、3回開催。昨年度は参加希望者が大幅に増加し、1回15人程度のツアーの定員がほとんど埋まり、回数を増やしてほしいとの声もあがる。

ただ、地元住民と町職員を含めたガイドは10人程度で、ガイドを派遣するNPO法人「えんがぁる倶楽部」の矢木優代表理事は「過疎地域の白滝はもともと観光業の担い手が少ない。なんとか人を集めながら開催しており、ツアー回数を増やせる状況ではない」と説明する。

また、国宝指定により関心を集めているのは一部の歴史愛好者に限られ、「全国的な知名度はまだまだ低い」(渡辺博行遠軽商工会議所会頭)との指摘も。佐々木修一町長は「課題は抱えているが、黒曜石を地域振興につなげる最後のチャンスととらえ、さまざまな取り組みを進めたい」と話している。

※北海道白滝遺跡群出土品ー白滝遺跡群から出土した後期旧石器時代(約3万~1万5千年前)の石器類計1965点で、質量ともに他に類を見ない学術的価値の高い資料と評価されている。長さ約36㌢の尖頭(せんとう)器など大型道具のほか、黒曜石の破片を集めて復元した「接合資料」などがあり、石器製作の変遷や当時の暮らしぶりが分かる貴重な資料として、昨年6月27日に国宝に指定された。

②見出し「ラーメン、カレー、コッペパン…黒曜石色の給食びっくり/遠軽の小中校で提供」

遠軽】白滝遺跡群出土の黒曜石製石器類が国宝指定から1年を迎えるに合わせ、町内の全小中学校で黒曜石にちなんだ「黒」メニューが、24日から1週間提供されている。子どもたちはその見た目に驚きながらも、黒い給食を堪能している。

町内の学校給食の献立をつくる遠軽生田原丸瀬布地区の栄養教諭3人が「国宝を子どもたちにアピールしよう」と企画。3地区それぞれで黒い食材を使ったオリジナルメニューを考案し、これまでに「ひじきのベーコン炒め」や「黒しょうゆラーメン」、黒いカレールーを使った「黒曜石カレー」などを提供している。

安国小の給食では24日、竹炭を使った真っ黒なコッペパンが登場。栄養教諭佐藤里香さんが「黒曜石が国宝になったお祝い給食です」と説明すると、子どもたちは「黒いけど、おいしい」と笑顔でほおばった。

同小2年の鈴木敬太さん(7)は「形が黒曜石に似ている。ぴかぴかした黒曜石が好きなので、これからどんなメニューが出るのだろう」と楽しみにしている。

③見出し「元文化庁調査官 指定の裏話語る/16日、原田さん講演会」

遠軽】白滝遺跡群出土品の国宝指定に尽力した元文化庁文化財主任調査官で、国学院大非常勤講師の原田昌幸さんの講演会が7月16日午後6時から、町芸術文化交流センタープラザ(メトロプラザ)で開かれる。国宝指定までの道のりを、裏話を交えて振り返ってもらう。

国宝指定1周年記念イベントで、町教委の主催。原田さんは国の文化財指定業務に長年携わり、同遺跡群出土の黒曜石製石器類の国宝指定に向けても、白滝地区を訪れて調査を重ね、国の文化審議会に出土品の学術的価値を伝え続けた。

講演会は2部構成。原田さんが国宝の魅力や指定までの経緯を解説した後、町埋蔵文化財センターの松村愉文館長ら職員と対談して国宝を生かした地域振興策を探る。入場無料、直接会場へ。問い合わせは同センター、電話0158・48・2213へ。

 

「国宝指定1年」ということで、町中が喜びに溢れているようだが、まだまだ地域振興に繋がっていないようだ。しかしながら、町埋蔵文化財センターの入館者が前年より3・3倍増加して1万人に達したことは、誠に喜ばしい出来事と言える。ここは一歩ずつ、焦らずに、確実に入場者数を増やして、地域振興に繋げてほしいものだ。

参考までに、ネットで吾輩が訪れたことがある遠軽町近隣に所在する施設の入館者を調べてみた。網走市の「北海道立北方民族博物館」は年間2万5579人(2016年)、旭川市の北鎮記念館は年間2万数千人で推移、三浦綾子記念文学館は年間2万人台というから、同センターの入館者数は頑張っていると言えるのではないか。

ところで昨年10月末、上野公園に所在する国立科学博物館遠軽町の黒曜石が展示されているというので訪ねてみた。展示フロアーがわからないので、職員に案内してもらうと、横1㍍、高さ2㍍のスペースの中に10個くらいの黒曜石が展示していた。展示の案内書には、次のように書かれていた。

ー〈白滝遺跡群〉

500万点もの石器が出土している日本最大級の旧石器遺跡群

所在:北海道遠軽町白滝村

年代:後期旧石器時代

北海道の屋根である大雪山系の北側にある、日本を代表する黒曜石の原産地遺跡群。遺跡は、湧別川と支湧別川の河岸段上と、良質の黒曜石を産する赤石山一帯に100カ所以上もある。1995年から始まった高速道路建設に伴う17遺跡10万㎡の発掘調査で460万点、10トンにも及ぶ後期旧石器時代を主体とする石器類が出土した。多様な石器の中でも尖頭器、大型両面調整石器、舟底形石器が多い。様々な形態の細石刃核のほか、石器製作の様子がわかる接合資料も多数得られている。大型の槍先形尖頭器は板状の原石から製作され、破損品は遺跡に残るが、完成品は持ち出されている。また、黒曜石は黒色のものが一般的だが、白滝では茶色や茶または赤色が混じったものが多いのが特徴である。

〇黒曜石製槍先形尖頭器(4つ展示)

〇尖頭器の製作工程がわかる接合資料(2つ展示)

〇白滝8遺跡の写真ー

吾輩は職員に対し、黒曜石が余りにも少ないので「遠軽町から立派な黒曜石を譲ってもらったら良いのではないですか」と言ったものの、余り良い反応はなかった。そうであっても、国立科学博物館の年間入館者は250万人である以上、より深く知識を得たい賢人が遠軽町を訪れるような仕掛けができないものか、と考えた次第である。