ロシアのウクライナ侵略開始から2年

ロシアによるウクライナ侵略開始から早いもので、2月24日で2年となった。ウクライナのゼレンスキー大統領は24日公表した映像で「われわれは独立のために戦っている。そして勝利する」と述べているものの、昨年6月から始まった東部や南部での反転攻勢は完全に行き詰っている。そこで1年前にも取り上げたが、今回もBSテレビなどの報道番組の中で、最も多く出演して戦況を詳しく解説してくれた東大先端科学技術研究センター准教授・小泉悠の分析・見解から紹介し、その後はウクライナとロシアとの関りを歴史的な観点から説明した記事を紹介する。

1・2月24日付「読売新聞」…小泉准教授

ウクライナ侵略行方はー長期戦兵力再建競争に〉

ウクライナ、ロシア双方とも決定的な優位を得られず、戦況は地上でも空でも膠着状態にある。今後の焦点は、どちらが効率よく戦力を立て直し、いち早く攻勢に転じられるのかどうかだ。

地上戦をみると、古典的な塹壕に、無人機(ドローン)など最新技術も組み合わさり、攻める側に不利だ。空軍規模はロシアがはるかに大きく、航空機も新しく性能も良い。それでもロシアが2年間、ウクライナ上空の制空権を握れないのは、ウクライナの防空システムが分厚いからだ。

ウクライナ軍は昨年、反転攻勢に失敗し、体力的な余裕を失った。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は昨年11月、東部に陣地を構築するよう命じており、ウクライナ軍は「戦略守勢」の状態にあると言える。

ただ、東部アウディーイウカのようにいくつかの都市は放棄せざるを得ないだろうが、後退する中でもロシア軍に最大の損害を与えつつ、後方のエネルギー施設や海軍艦船といった軍事的価値の高いロシア軍のアセット(資産)をドローンなどでたたくことが重要だ。

ウクライナはこの1年を耐え忍び、2025年か26年に攻勢に出る計画ではないか。ロシアも今後2~3年はウクライナに消耗を強いつつ、26年に自軍の兵力を150万人まで増やすことが目標だ。

どちらが効率的に兵力を再建し、それを支える軍需産業立て直せるかという競争だ。新たにウクライナ軍の総司令官に任命されたオレクサンドル・シルスキー氏には、欧米の支援を取り付けるなど組織運営の才覚も求められる。

ロシアが大規模な攻勢に必要な軍備を一足先に備える事態だけは、避けなければならない。東部ハルキウなどが陥落すれば、首都キーウ到着という最悪のシナリオが現実味を帯びてくるからだ。ウクライナがロシアに反撃する能力を欧州連合(EU)の軍事的な支えだけで維持することは不可能ではないが、米国がカギだ。

その米国では「即時停戦論」が盛り上がっている。「ウクライナが領土奪還を諦めれば、戦争は終わる」との前提だが、プーチン大統領が一部の土地と引き換えに交渉のテーブルにつくとは考えにくい。

ウクライナの敗北は、政治の延長として「戦争という手段はあり」というメッセージになりかねない。中国やロシアなどに囲まれた日本には地政学的問題でもある。ロシアを勝たせてはならない。日本は自国の抑止力も真剣に考える必要がある。

2・2月24日付「産経新聞」…論説委員・斎藤勉

〈怨念330年クリミア奪還〉

ロシアのプーチン大統領は10年前の2014年3月18日のウクライナ南部クリミア半島併合を「ロシアへの再統合」と呼ぶ。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「クリミアで始まった戦争はクリミアの解放で終わらねばならぬ」と「最終独立戦争」を覚悟して徹底抗戦する。

この決定的な認識の懸隔こそ、プーチン氏が2年前に一方的に始めたウクライナ侵略がと長期化している原因だ。

ウクライナのクリミア奪還への決意を示すが昨年9月にあった。クリミアの先住民族イスラム教徒のクリミア・タタール人、ルステム・ウメロフ氏を初めて国防相に抜擢したことだ。汚職と無縁とされ、捕虜交換交渉で手腕を発揮した。ロシアが強制連行した数十万人の子供の奪還交渉に、イスラム国家が仲介に入る機会が多いための起用との見方もある。

第二次大戦中、ソ連の独裁者スターリンクリミア・タタール人に「ナチス・ドイツに協力した」とのぬれぎぬを着せた。約20万人がウズベキスタンなどに強制移住させられ、数万人が死亡した。その埋め合わせにソ連は大量のロシア人をクリミアに移り住まわせた。ウズベク生まれのウメロフ氏は「独裁者が一つの民族を丸ごと殲滅するために断行したソ連最大の犯罪だ」と糾弾する。

同氏の国防相就任と呼応するように、ウクライナ軍はクリミア攻撃を激化させた。昨年9月、露黒海隊司令部への攻撃で将校34人を死亡させ、今月14日には半島沖の黒海で露大型揚陸艦を水上ドローンで撃沈した。ロシアにとり貴重な不凍港を基地とする黒海艦隊が壊滅的損失を被れば、存在意義は失われる。

ウクライナがロシアに隷属する発端となったのは1654年、黒海沿岸一帯で強大化したウクライナ・コサックが帝政ロシアロマノフ王朝と結んだ「ペレヤスラフ協定」だ。

ポーランドがコサックを統制下に置こうとして全面戦争となり、劣勢挽回のためロシア皇帝に泣きついたコサックがこの協定でまんまと宗主権を認めさせられた。

中井和夫・東大名誉教授の論考「ウクライナ人とロシア人」によると、「ロシアはこれによりウクライナを併合し、帝国化への道を歩むことになる」という。ロシアの女帝エカリーナ2世は18世紀後半、露土戦争に勝利し、クリミアを含む黒海沿岸の「ノボ(新)ロシア」を獲得した。

ウクライナ、特にクリミア・タタール人は1991年のソ連崩壊後を除き、330年以上もロシアの帝国主義的謀略と暴力に虐げられ、今はプーチン政権の非道な侵略に敢然と立ち向かっている。同政権に不法占領されている北方領土問題を抱える日本は、ゼレンスキー政権、クリミア・タタール人との共闘を強固にするときだ。

3・2月25日付「産経新聞」…国際政治学者=グレンコ・アンドリー(1981年、ウクライナ生まれ)

〈われわれの「独立戦争」だ〉

ロシアによるウクライナ全面侵略が始まってから、2年が経った。しかし、ウクライナ人の認識では「戦争が始まってから2年」という表現は正確ではない。今月で始まってから10年が経つという認識なのだ。

戦争は、2014年2月にロシア軍がクリミア半島を占領してからずっと続いている。クリミヤ占領の後、ウクライナ東部が戦場となり、その時期から戦いが止んだ日はなかった。戦いの規模は22年2月24日以降の2年間よりは小さかったが、それでも毎日のように撃ち合いや砲撃が起き、戦死者が出ていた。

この10年間、ロシアと戦争を続けてきた意義は何なのか。筆者は、これはウクライナ独立戦争だと認識している。

独立戦争というと、普通は植民地が宗主国に対して蜂起し、戦い、独立を獲得するというのが順序だが、ウクライナの場合は少し違う。冷戦前からロシアによって旧ソ連の一部という形で支配されていたウクライナは、ソ連崩壊というロシアの内政事情で、1991年に奇跡的に戦争することなく独立している。しかし、やはり独立を認めたくないロシアは、ウクライナをその勢力下におこうとし続け、10年前、ついに侵略に踏み切った。その意味では、今のウクライナは真の独立のために戦っているのであり、今回の戦争は少し遅く始まった独立戦争なのではないかと思うのだ。

この戦争はウクライナにとって、国と民族の存亡をかけた戦いでもある。ロシアが戦争に勝った場合、独立したウクライナの存在を認めないだろう。そして高い確率で、ウクライナ民族そのものを無くす政策をとると予想される。

なぜならロシア人は今回の戦争で、ウクライナ人をそのまま残しておくと彼らは必ずまた楯突くから、ウクライナ人のアイデンティティーを持つ人を生かしておくわけにはいかない、と学んだはずだからだ。

つまりウクライナ人にとって、この戦争の敗北は国家と民族の滅亡を意味する。だから、何としてでも、侵略者を撃退しなければならないのだ。

同時に、この戦争は世界にとって国際秩序をかけた戦いでもある。もしウクライナが敗北し、滅亡すれば、世の中の独裁侵略国家は「他国を征服しても、国際社会は反応しない。征服は普通にできることだ」と確信し、侵略や征服が繰り返されることになる。そうなれば、世界は動乱に陥る。どの国も次の侵略対象になり得るだろう。いうまでもなく、これは侵略者以外、誰も望まない展開だ。

ウクライナが勝利し、国際秩序が守られるように、世界は今、一丸となってウクライナを支えるべきなのではないだろうか。

 

以上、ロシア・ウクライナ戦争の歴史的な背景や今後の展望を取り上げたが、読者の皆さんは多少なりとも参考になりましたか。それにしても、ウクライナのゼレンスキー氏とアンドリー氏のロシア・ウクライナ戦争に対する認識が「独立戦争」という見方には多少驚いた。だからこそ、欧米支援国の武器提供の決断が遅いのにも関わらず、この2年間粘り強く激しく戦って、ロシア軍の戦死者12万人、負傷者17~18万人、一方のウクライナ軍は戦死者7万人、負傷者10~12万人という戦果で踏みとどまっているのだ。

また、ウクライナでは、約1136万人という人々が住み慣れた地を追われているが、その数は人口4200万人の約4分の1に達する。その内訳を見ると、ウクライナ国内368万人、ロシア121万人、ドイツ113万人、ポーランド95万人、チェコ38万人、英国25万人、カナダ22万人、米国21万人、スペイン19万人、イタリア16万人、オランダ14万人、スロバキアモルドバ各11万人、ルーマニア7万人、フランスとハンガリー各6万人、そして日本は2591人(2月7日時点)という。我が国は、ソ連の独裁者スターリンが第二次大戦の終戦間際、日ソ中立条約を一方的に破って対日参戦し、北方四島を不法占領すると同時に満州朝鮮半島北部、南樺太、千島列島から60万人もの日本人を強制連行したことを考えると、ウクライナ避難民をひとごととして傍観することは許されないし、当事者だという自覚があってもよいと思うのだ。

最後は多少話題を変えるが、我が国の北方海域・オホーツク海で展開するロシアの戦略ミサイル原潜の話である。先に挙げた小泉准教授の新刊書「オホーツク核要塞ー歴史と衛星画像で読み解くロシアの極東軍事戦略」(2024年2月28日第1刷発行、発行所=朝日新聞出版)を読んだが、その中で一番参考になったのは、軍事情報の中でも最も秘密性が高い弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)に関してだ。現在ロシア海軍は12隻のSSBNを運用しているが、その展開について次のように解説している。

ー例えば1970年代の北方艦隊では、平均して26日に1回の頻度で667A型がパトロール任務へと出航し、1回の航海期間は77~78日、往復期間を除く実際のパトロール期間は平均53日であったとされる。太平洋艦隊でもこの頻度・期間はほとんど同じで、29日に1回の頻度で667A型が出航し、航海期間は62~69日であった(うち、往復期間は10~13日)。これによって、両艦隊からそれぞれ2隻を外洋展開させておくというのが当時のソ連海軍の方針であった。要塞内をパトロールする現代のSSBNの航海期間は米本土付近まで航行する手間が省ける分、もっと短い可能性もあるが、1週間や10日ということはないだろう。SSBNの絶対数が減少している分、1回の航海期間は伸びてさえいる可能性もある。ー

著者が衛星画像で読み解くと、ロシアの軍事戦略は冷戦時代と同じように欧州方面ではバレンツ海、アジア方面ではオホーツク海という要塞にSSBNを待機させて、これを守ることで核の反撃能力を維持する方式を採用している。そのため要塞内(バレンツ海オホーツク海)を年1回程度しか展開しないが、それは有事の際に水中発射型の最新型のSSBNは、停泊する母港から相手国まで弾頭ミサイルを撃ち込めるので、常時海で展開する必要はないからだ。しかしながら、出航・潜航したら唯々狭い船内で任務に赴き、楽しみは食事だけの生活になるという。

一方の我が国の海上自衛隊潜水艦隊は、2010年に「潜水艦16隻」態勢を6隻増やす計画を決定し、22年3月9日に最新型艦「たいげん」型(建造費約800億円、乗員約70人)が就役したことで、やっと「潜水艦22隻」態勢を確保した。その結果、海上自衛隊横須賀基地10隻、同呉基地12隻が配備され、常時6~7隻が日本周辺に展開することになった。ちなみに現在、潜水艦は新型艦「たいげん」型(全長84㍍、排水量3000㌧)2隻、「そうりゅう」型(排水量2900㌧)12隻、「おやしお」型(排水量2750㌧)8隻という態勢で、毎年1隻づつ旧型から新型潜水艦への入れ替えを行っている。

4~5年前か、BSテレビに出演した元海将が「海上自衛隊の潜水艦は、常に宗谷・津軽対馬の3海峡に2隻ずつ潜んでいる」と発言していたが、吾輩は常に1隻は3海峡に潜んでいるが、ほかの潜水艦は別の場所をパトロールしていると見ていた。なぜなら、ロシアの攻撃型潜水艦は常に宗谷・津軽対馬の両海峡に1隻が潜み、他の攻撃型潜水艦は別の海域をパトロールしているので、その監視も必要であると考えたからだ。さらに「潜水艦22隻」態勢になったことで、中国の潜水艦を監視するために、第1列島線の主要な海峡である、台湾とフィリピンの間のバシー海峡までパトロールに出かけていると見ているが、どうか。