遠軽高校ラグビー部の躍進の背景

「第76回北海道高等学校ラグビーフットボール南・北選手権兼第103全国高等学校ラグビーフットボール大会北海道予選会」の決勝戦が、10月1日に札幌ドームで開催されて、遠軽旭川龍谷を27ー22で破り、8年ぶり11度目の花園出場を決めた。そうした中、地元紙「北海道新聞オホーツク版」が12月16、17日付けで、タイトル「遠軽ラグビー/挑む花園」と題して、次のように報じた。

16日付・〈㊤チームづくり/鍛え抜いた守備と体力〉

5日、氷点下2度の遠軽高グラウンド。全国高校ラグビー大会(27日、大阪・花園ラグビー場)に北北海道代表として8年ぶりに出場する同校ラグビー部が、道外遠征前最後のグラウンド練習を始めた。初戦の相手が城東高(徳島)に決まって3日後。一段と熱が入る。バックスのスピードを生かした展開力が特長の相手チームを想定し、ディフェンスラインを素早く引く練習を繰り返す。「やるべきことは分かっている。無駄な時間は1秒もないぞ」。竹下恋コーチ(27)のげきが飛んだ。

遠軽ラグビー部は1949年に創部し、66年に花園初出場を果たした。60年代に3度、2010年からは4年連続で代表となったものの、15年を最後に花園から遠ざかっていた。

17年、同部OBの石崎真悟監督(45)が就任。1年目から北見支部予選を突破して北大会に出場し、19年から3年連続で決勝に進んだものの、あと一歩で花園切符を逃した。「なぜ勝てないのか」。初めて決勝で敗れた19年から、石崎監督はチーム改革に乗り出した。

ー「食トレ」で体重増ー

まず始めたのが体づくりだ。全国強豪校ほど部員の層が厚くない同部は、例年体のできていない1、2年生の割合が高い。今年は選手21人中14人が1、2年生で平均体重は約77㌔。昨年の城東より3㌔下回る。そこで週2回だったトレーニングを週4回に増やし、町内で鍼灸整骨院を営む桜井佑樹さん(36)、千尋(32)夫妻を外部トレーナーとして招聘。瞬発力や持久力など、大会当日に合わせて必要な筋力を鍛える効果的なトレーニングにより、6月から半年間で、最高重量の部員平均がスクワットとデッドリフトで20㌔、ベンチプレスで10㌔増えた。

食事量を増やす「食トレ」にも力を入れる。栄養が体に吸収されやすい筋トレ直後に、マネジャーが握ったおにぎり二つとプロテインを取る。自宅や下宿先でも「自主トレ」に励み、下宿生のプロップ星樹音選手(3年)は、自炊をする休日には1日4~5食、計5合のご飯を食べる。1年生から体重は20㌔以上増えて98㌔に。スクラムの要を担う存在となった。

プレー面では19年にフォワード出身の竹下コーチが指導陣に加わり、スクラムラインアウトなどセットプレーの安定に取り組んだ。だが守備の弱さから、不用意な失点から敗れるケースが目立っていた。石崎監督は「選手個々のスキルや試合当日のコンディションによって波がある攻撃と違い、ディフェンスは練習を積めば確実に成果が出る」。守備からリズムをつくるチームを目指し、タックルをはじめ守備練習の時間を増やした。その結果、今年は支部予選から北大会準決勝までの3試合は相手にトライを許さなかった。

ー強豪校と練習試合ー

全国レベルを直接肌で感じる機会を積極的につくったことも秦功した。合宿場所を求めて遠軽町を訪れる道外強豪校と練習試合を重ね、今夏は岐阜工業高と合同練習も行った。昨年からは花園の常連校、大阪朝鮮高級学校元監督の金信男さん(62)を外部コーチに迎え、強豪校のラグビーを覚え込ませた。

遠軽高は11日に本州遠征に出発。流通経済大(茨城)や奈良県代表の天理高、三重県代表の朝明高などと合同練習をこなす。「大会までに2段階レベルを上げたい。どれだけ成長するか楽しみだ」と石崎監督。初戦に向け、言葉に力がこもる。

図表ー遠軽ラグビー部の花園の成績

〇開催年…勝負…得点…対戦校

〇1966年…●…3ー15…大分舞鶴

〇   68年…●…3ー8…福岡工

〇   69年…●…11ー27…福岡

〇   71年…〇…6ー3…貞光工(徳島)

       ●…0ー22…磯原(茨城)

〇2001年…●…0ー25…津山工(岡山)

〇           10年…●…0ー75…北陽台(長崎)

〇           11年…●…0ー34…鹿児島工

〇           12年…〇…70ー7…坂出工(香川)

                         ●…0ー102…東福岡

〇           13年…●…13ー18…大津緑洋(山口)

〇           15年…〇…37ー7…北条(愛媛)

                         ●…3ー71…石見智翆館(島根)

〇           23年…?…?…城東(徳島)

 

17日付・〈㊦地域の支え/町ぐるみで活躍後押し〉

「次は花園ラグビー場で会おう」。今年3月、遠軽町芸術文化交流プラザで、地域の小中学生が通う遠軽ラグビースクールの卒団式が行われた。別れ際、中学3年生9人とコーチたちは固い約束を交わした。

このうち6人は4月に遠軽高に進み、ラグビー部に入部。今月27日に開幕する全国大会の出場メンバーになり、1年足らずで約束を果たすことになった。「小さい頃から知っている子たち。花園の大舞台に立つ姿が見られる日が来るなんて」。同スクールの清水輝幸校長(51)は感慨深げだ。

ー競技楽しむ環境をー

スクールは2010年、遠軽スクール協会に加入する若手の同高OBを中心に設立。その目的は「遠軽高を花園の常連にする」。当時、地域には小中学生が通えるラグビー教室はなく、「まずは競技に触れ、楽しめる環境づくりが急務だった」と初代校長の奥山睦規(50)は振り返る。

現在は遠紋地区の小中学生60人が通う。コーチは22人。生徒3人にコーチ1人が付く体制だ。コーチの多くは町内に住む競技経験者で、各自仕事を持ちながら週1~3回指導に当たる。ベテランコーチの古関祐太さん(45)は「始めた時期や体格で差がつきやすい子どもたち全員に目を配るには、多くの人手が必要」。小1から9年間通う遠軽中3年の佐藤満輝さんは「ラグビーを教わるだけでなく学校の話もする。仲間もコーチも本当に仲が良い」と話す。

スクールの役割は多岐にわたる。試合などの遠征時にはコーチが航空券や宿を手配し、合宿所で生徒のユニホームの洗濯まで担う。保護者の負担を極力減らし、生徒がラグビーを続けやすい環境を整えることが狙いだ。「ひいてはそれが、遠軽高を強くすることにつながる」。奥山さんは、そう信じている。

ー町、財政面で支援ー

一方、町は遠軽ラグビー部を財政面からサポートする。花園出場が決まり、部員の交通費や宿泊費などの支援金600万円を補正予算で計上。同じ趣旨で町に寄付された100万円を加え、計700万円を同高に補助する予定だ。

今大会にかかる支援だけではない。17年には町内に「えんがる球技場」を開設し、雨天時でも使いやすい人工芝の練習環境を整備。さらに、民間とも協力し、遠軽町と周辺7市町村を除く学区外からの遠軽高入学者のために下宿整備にも力を入れてきた。

佐々木修一町長は「遠軽高への支援は、町の経済を支えることにつながる。花園出場で全国にアピールでき、志願者はさらに増えるだろう。引き続き支援を継続する」と強調する。

11月上旬には遠軽商工会議所とOB会、同窓会、PTAや遠軽ラグビー協会の代表らが「遠軽高校ラグビー部花園出場を支援する会」を設立し、遠征資金集めに奔走する。町内事業所や同窓生を中心に寄付を募るほか、花園観戦時にスタンドに掲げる横断幕や部旗も新調。代表を務める同会議所の渡辺博行会頭は「努力してきた選手たちを物心両面でサポートしたい。悔いが残らない戦いを」とエールを送る。

遠軽高の初戦は28日、城東高(徳島)との対戦。7年連続17度目の出場を誇る強豪との一戦を前に、遠軽ラグビースクール出身の斉藤歩夢(3年)は「遠軽ラグビー部は地域の人たちに支えられてきた。『花園1勝』で声援に応えます」と誓う。本番まであと10日余り。ラグビーの聖地での選手の活躍に向け、地元の期待は最高潮に達している。

以上の記事を受けて、男子ラグビー部員(21人)の出身中学校を確認すると、

〇3年生→遠軽町3人、網走市1人、美幌町1人、石狩1人、十勝1人

〇2年生→遠軽町4人、美幌町2人

〇1年生→遠軽町4人、十勝4人

ということであった。やはり、遠軽町と周辺7市町村を除く学区外からの入学者が半数を占め、地元出身者だけでチームを組めない現状にある。

そもそも、戦後の北海道高校ラグビーオホーツク管内の高校がけん引してきた。その背景には、昭和20年代と30年代で花園準優勝が計4回を数える北見北斗高(花園出場38回)の存在がある。そのためオホーツク管内には、北見北斗高の活躍に影響を受けてラグビー部が創部され、遠軽高のほか美幌高、滝上高も花園に出場している。そして吾輩の時代には、オホーツク管内の高校を対象にした「NHK杯」大会が開催され、決勝戦はテレビ中継されていた。現在は出場校が減少したためか開催されていないが、釧路管内ではアイスホッケーで「NHK杯」が開催されていることをネットで知った。

ちなみに、吾輩の2、3年時(68年、69年)には花園出場(顧問は有働教諭で、吾輩の父親と同級生)を果たしており、今から振り返るとまさに「ラグビー部の黄金時代」であった。要するに71年の花園出場後、30年間も花園出場を果たしていないからで、それを考えると、2010年から15年の6年間で5回も花園出場を実現してくれた、顧問の山内教諭と堀教諭には感謝しかない。

それにしても少子化の影響もあって、この10年間で全国高校体育連盟(高体連)に加盟・登録している部員数・部活数が減り続けている中で、特に男子ラグビーの部員数、加盟校数が激減している。このため全国高校ラグビーでは、今年度から部員15人に満たない学校でも合同チームでの出場が可能になった。全国高校ラグビー大会実行委員会の資料によると、都道府県予選参加チーム数は過去最多だった第71回大会(91年度)の1490から第91回(11年度)は818、今回は549と減少し、昨年の鳥取県予選は、対戦相手の選手数が足りなくて公式戦を経ず代表決定という異例の事態になった。また、高体連の男子部員登録者は今年度1万7037人で、10年前から29%も減っており、ラグビーの深刻さがうかがえる。

そういった中で、北海道の辺境の地・オホーツク管内で奮闘している遠軽高校であるが、読者の皆さんはどう感じたであろう。さて、12月28日午後0時50分からの初戦、徳島県城東高校との対戦は如何に……。

 

※後記ー12月28日の試合は、遠軽が城東に45ー0で敗れました。