JR石北線に新石北トンネルが必要だ

8月29日の夜にインターネットを見ると、「北海道新聞」に大雨の影響で8月7日から20日までの間、JR石北線が不通になった件について、「JR北海道石北線、多発する土砂崩れ カーブ多い山中ルートで負荷 地盤の弱さ指摘も」という見出しで、次のように報じていた。

遠軽町内のJR石北線の上川ー白滝間で、7日に土砂崩れが確認されてから28日で3週間がたった。現場周辺は過去にも土砂崩れが起き、そのたびに運休した。大雨などの過酷な気象条件に加え、専門家は鉄路設営の歴史的背景や地理的条件も要因に挙げる。近年、現場周辺では局地的豪雨が常態化。今後も被災と運休を繰り返せば、利用者の「JR離れ」を招き、石北線の存廃にも影響しそうだ。

今回の現場は奥白滝信号場から東へ約1・5キロの山中。線路下の盛り土が幅20メートルにわたって崩れた。道東は4日夜から断続的に雨が降り、3日間で8月の平年のほぼ1カ月分の雨量を観測。JR北海道は線路下の盛り土に雨水が浸透し、盛り土が緩んで崩壊したとみる。復旧工事は難航し、運行再開に2週間要した。

石北線は、過去にも大雨による土砂崩れの影響をたびたび受けてきた。この10年で、運休につながるものは6件。うち2件は今回も含む上川ー白滝間で、いずれも運休が長引いた。

なぜ石北線で頻発するのか。道東の鉄道史に詳しい釧路市立博物館の石川孝織学芸員(49)は、鉄路や路盤の経年劣化を挙げる。石北線が全通したのは1932年(昭和7年)。90年以上たった現在も基本構造は当時のままで、「長年のダメージの蓄積に加え、(積載量が多い)タマネギ列車の走行で他の路線よりも線路や路盤に負荷がかかっているのでは」と推測する。

北見工大の白川龍生准教授(鉄道工学)は「石北線は防災上の弱点を抱えた路線」と指摘する。そもそも山中は雨や雪が降りやすく、平地に比べ被災リスクが高い。

また石北線が造られた当時、橋梁やトンネルを建設する技術や資金が乏しく、山肌を縫うような「曲がりくねった」ルートが選択された。「直線よりも線路などの負荷が大きく、より手厚いメンテナンスが求められるが、線路が山中にあるため容易ではない。被災後の復旧にも時間がかかる」(白川准教授)。

また、地盤の弱さを指摘する声も少なくない。現場周辺の土壌は火山灰を多く含み、大量の水を含むと泥状になって崩れやすい。その上、線路は斜面に架けられ、山頂から流れ込んだ雨水が路盤や盛り土にたまりやすい。1949年5月には今回と同じ場所で盛り土が崩壊し、走行中の列車が脱線。4人の死傷者を出した。地元関係者は「また大雨が降ったら、同じ事が起こるのでは」と懸念する。

JR北海道は、悪天候が見込まれる際に早めの運休や間引き運転を決める「計画運休」を実施する。今回も土砂崩れが判明する前日の6日から運休しており、人的被害はなかった。

今回の復旧工事では、崩れた斜面に盛り土を積み上げ、排水管を設置して盛り土に水がたまらないようにした。路線強化のため、災害リスクの高い箇所に予防的に同様の対策が求められるが、経営環境が厳しいJR北海道が独自に行うのは現実的ではない。

白川准教授は「石北線はオホーツクの産業を支える重要な路線。安定運行のため、国の支援を取り付けて路線に投資する必要がある」と強調する。

○近年のJR石北線の主な土砂災害

①2013年4月10日→線路の路盤が流出。1日運休

②15年8月1日→盛り土が流出して約25㍍にわたって線路が宙づりに。1週間運休

③16年8月23日→台風9号の上陸により、複数箇所で路盤流出と盛り土崩壊。40日間運休

④18年7月4日→線路の橋付近で土砂が流出。3日間運休

⑤22年7月4日→線路に土砂が流出。1日運休

⑥23年7月7日→盛り土が流出。2週間運休

以上の記事を読んで、吾輩が以前から「新石北トンネル」(約15㌔)を早期に建設するべきだ、と何度か書いてきたことを理解してくれますか。その考え方は、当然のことにJR北海道も持っており、問題はどこから建設資金を引き出すべきかということなのだが、吾輩は昔から「北海道開発予算から支出するべきだ」と主張している。

そこで、もう一つ鉄道専門家の書籍を紹介します。それは7月2日付「産経新聞」に掲載された新刊書「交通崩壊」(著者=元日本経済記者・市川嘉一、新潮新書)の書評である。

地方分権の美名下で〉

本書が語る公共交通は、鉄道や自動車だけでなく、自転車や電動キックボードに至るまで、陸上交通の手段を広範にカバーしている。それら各交通手段に関して、日本では世界の潮流に逆行したり古びた法制度などを整理できなかったりして、いわば「ガラパゴス的な状況」に陥って、安全に移動できる交通環境が危機に瀕している。これを本書は「交通崩壊」と形容する。

著者はその背景に、「過度な地域主権」の存在を指摘する。国土全体のバランスを考えた広域鉄道ネットワーク整備は国の社会政策と捉えるのが世界の趨勢なのに、日本では赤字ローカル線の存廃が、ほぼ沿線事情のみによって議論される。これを指して、地方分権の美名に隠れて、公共交通政策に関する国の責務を放棄しているというのだ。

交通事業に独立採算を求めり日本の風潮にも、本書は警鐘を鳴らす。財政面で事業継続の危機を招くだけでなく、各事業主体の営業の自由を尊重すれば、そのぶん国の主体的、俯瞰的な公共交通政策は抑制される。地方の赤字ローカル線廃線が相次ぎ、路面電車の活用・振興も宇都宮など一部の都市を除いて進まない現状の要因と言える。

本書から一貫して感じられるのは、「移動権」という欧州由来の概念概念著者の考える公共交通のあるべき姿と深く関わっている点だ。「国民の誰もが容易に、低コストで、快適に、同時に社会的コストを増加させないで移動する権利」は、私たちの日々の行動を広げ、社会を活性化させる。

高齢者や子供でも鉄道やバス、そして安全な歩行者空間の利用を組み合わせること可能な仕組みを整備することは、この移動権の保障につながる。社会福祉の増進や環境保護にもプラスの効果をもたらし、「交通崩壊」を防ぎ、社会全体が受益者になる。

だからこそ、公共交通政策は、採算性のみでの判断になじまず、国全体での取り組みが必要なのだ。本書を通じて、多くの方にそのことを知ってもらいたいと思う。

誠に最もな内容であるので本書を購入し、印象に残った箇所を引用する。

ー日本の鉄道は事業者の大半が民間であるためか、社会通念として道路とは異なり、なかなか社会インフラとみなされない。この結果、利用客数が大幅に落ち込み、慢性的な赤字に陥ると、廃線になる確率が高まる。

いま必要なのは、鉄道のあり方を再定義するなど、政策体系のパラダイムシフト(枠組みの転換)ではないだろうか。その際に参考になるのは欧米の取り組みである。

まずは、独立採算原則からの脱却である。欧米では鉄道を含めた公共交通の供給は社会インフラとして国や自治体が事業に主体的に関与しているため、運営費にも税金が投入されている。

税金を原資にするという考えが主流になっているのは、公共交通の運営は単なる交通政策の一環ではなく、環境保全や福祉にプラスの効果を及ぼすなど社会全体が受益者になるとされているからだ。こうしたことから、例えば路面電車の運営費に対する財政支援では、補助割合は国によって異なるが、少ないところで3割程度、多いところでは7割程度と運営費の大半に税金が投入されている。ー

吾輩が、これまでJR北海道のことを取り上げてきた背景には、一言で言えば「欧米諸国並みに血税を投入せよ」ということだ。しかしながら、日本国は一旦決められた事は、なぜか変更しずらい国家で、これはまさに「官僚主体国家」の宿命という。いずれにしても、石北線北見市や置戸町、訓子府町で生産される年間約26万トン(国産の2割)のタマネギをJR貨物の臨時貨物列車(通称タマネギ列車)で全国へ運んでいる以上、絶対に廃線にできないはずである。

そういうことで、本書では政府高官から「鉄道を公共交通機関として、今のままで真剣に考えてこなかった」旨の発言を引き出している。また、欧米諸国が地球温暖化に歯止めをかけるには、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減が欠かせないとの考えから、鉄道を重視する政策を実施してことを本書で紹介している。そのようなことで、いずれ経営難で苦しんでいるJR北海道に対して、世論も政府も「血税投入」に理解を示す時代が訪れることを確信して終わりにします。