久しぶりにJR北海道を応援する文章を書く。今週発売の経済誌「週刊東洋経済」(10月3日号)の“特集激震!エアライン・鉄道"の中に、見出し「日本の公共交通予算は貧弱だー道路予算で鉄道の再生をー4兆円を超える道路予算に対し、鉄道予算は微々たるものだ。」(関西大学教授・宇都宮浄人)という記事が掲載されていたので、まずはその主要な部分から紹介する。
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日本の場合、公共交通の運営はあくまで「商売」である。社会に必要なサービスを提供するという公益性が求められながら、収支のやり繰りもしなければならない。
これに対し、欧米の先進国では、こうした問題は発生しない。欧州でも民間事業者が参入しているものの、日常生活の足となる地域公共交通は、都市間交通とは区別されたうえで、公的にサービスされるものという位置づけになっている。事業者は公共サービス義務(PSO)を担い、そのために公的な資金が提供される。
欧米では感染拡大直後に公共交通に対して即座に支援が行われた。4月初めの時点で、米連邦交通省は、250億㌦(2兆7000億円)の支援を発表。独連邦政府は、6月初めの総額1300億ユーロ(約16兆円)経済対策のうち、ドイツ鉄道に50億ユーロ(約6000億円)、地域公共交通に25億ユーロ(約3000億円)を充てると発表した。
一方、日本は、6月の2次補正予算の金額は32兆円と大きかったが、公共交通関連では、感染予防対策として140億円弱の予算が計上されたにすぎない。彼我の差はあまりにも大きい。〜
国土交通省の当初予算における、道路整備事業費、新幹線事業費、地域公共交通関連の予算を見ると、20年度の道路整備は4兆5799億円と圧倒的に多い。大都市圏の鉄道整備を含む都市幹線鉄道の805億円に、地域公共交通確保維持改善事業等の国費を加えても1022億円であり、金額としては道路整備の2%余りにすぎない。新幹線予算とて、道路整備の1割に満たない。
日本の場合、鉄道は、大都市圏を中心に民間投資が中心であった。道路と鉄道では総延長も異なる。その意味で、単純な絶対額の比較では判断できない。
しかし、両者は予算の伸びも大きく異なる。20年度の地域公共交通関連の予算は11年度対比で17%の減少である。交通政策基本法で「財政措置」がうたわれるも、予算面での変化は見られない。一方、道路整備事業費は1・6倍に伸びた。図にはないが、国土交通省の公共事業関係合計の予算が21%増なので、相対的に見ても道路整備事業費の伸び率は高い。
それでは、海外の鉄道は予算が潤沢なのであろうか。ドイツの場合、自動車のガソリン税などを含むエネルギー税が公共交通にも使われるが、投資の内容を道路から鉄道に切り替えてきた。連邦交通路計画を見ると、1975年から85年までの投資計画では、連邦道路のシェアが71%、連邦鉄道が22%であったのが、16年に公表された30年までの計画では、それぞれ49%、42%と拮抗している。〜
ひるがえって日本はどうか。高度経済成長期のシステムをいまだ引きずり、予算配分の大きな手直しもできぬまま、公共事業としての道路と、民間ビジネスとしての公共交通に対して、政策対応の異なる状態が続く。道路整備は公共事業であり、ひとたび災害被害に遭えば、直ちにに復旧作業に入る。国、地方自治体の有する専門家集団が総動員され、費用はもちろん公的資金で賄われる。一方、公共交通の復旧は、一義的に事業者の判断となる。事業者への「助け舟」として公的資金が用いられるが、鉄道軌道整備法では、国は4分の1、地方自治体は4分の1の負担で、残りの半分は事業者の自己負担である。法改正で自治体の協調補助がある場合、事業者は3分の1負担となったが、基本は変わらない。
18年の四国の豪雨災害では、JR四国はぎりぎりの資金で何とか路線復旧を行ったが、一方の道路は、ミカン畑一山を買収し斜面の法面整備を行った。
鉄道だけが移動手段であるわけではないが、地域としてどのような交通が望ましいかは、本来、事業者の収支ではなく、地域全体の収支として判断すべきだ。その際、道路と公共交通の制度の差が、判断を歪めていないか。鉄道は収益性が問われる一方、道路は無料だと勘違いしていないか。高齢化が進む中、さらなる道路投資が本当に地域の魅力につながるのか。交通事故死者数(24時間以内のみ)は、今年も7月末ですでに1548人に達し、65歳以上の高齢者がその半分以上を占めている。
戦後の右肩上がり成長を前提とした制度を改めて、欧州同様、地域公共交通の提供を「公共サービス義務(PSO)」と位置づけ、そのための予算措置を取るという政策転換が必要な時期である。
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どうですか、地域公共交通に対する考え方が変わりましたか。そうです、地域公共交通は、公的資金を投入しても、何らおかしくない立派な公共事業であるのだ。
JR北海道の2020年3月期決算は、売上高が前期比2・2%減の1672億円、営業損失が426億で前期から7億円拡大した。ところが、今年度は早くも新型コロナウイルス感染症の拡大で、4〜6月期だけでも売上高は前年同期比48・6%減の207億円で、連結最終赤字は過去最大の126億円(前年同期は10億円の赤字)。島田社長は「かつて経験したことのない厳しい決算であるが、最終的には300億円以上の減収になる」と述べた。
その一方で、今年度の北海道開発予算の概算要求は、7年連続6000億円以上の6063億円で、そのうち道路整備には前年度と同額の2186億円、農林水産基盤整備には1%増の1188億円である。つまり、ドイツと同じ対応であれば、少なくとも鉄道投資に400億円以上投入でき、吾輩の願いである新「石北トンネル」の完工も夢ではなくなる。さらに、近い将来予想されている千島沖からの大津波に対して、池田駅〜白糠駅間の直線化工事もできる。それが実現すると、当然のことにスピードアップで、乗客も戻ってくる。
というわけで、何度も絶望的な経営状態のJR北海道のことを書いていると、昔のプロ野球解説者・小西得郎の「なんと申しましょうか」という口癖を思い出してしまう。だが、前述の宇都宮教授が10月に題名「地域公共交通の統合的政策」という著書を刊行するなど、地域公共鉄道の重要性を訴える学者先生のおかげで、将来的には鉄道路線の維持や建設に国費が投入される時代がくる感じを受ける。それを考えると、JR北海道の未来は、けして暗いものではないことを理解するべきだ。