JR石北本線の現状について

JR北海道の経営状態がコロナ禍でますます厳しくなった中で、JR石北本線の乗客数が一向に改善しない現実が地元紙「北海道新聞」(12月11日付け)で報じられた。そこで、まずは「石北線存続/高まらぬ機運」という見出し記事から紹介する。

〈自動車道延伸マイカー・バスの利便性向上ー地元住民の利用が鍵に〉

【北見】全線開通から10月で90周年を迎えたJR石北線(新旭川ー網走、234㌔)を巡り、沿線自治体が存続に向けた機運醸成に頭を悩ませている。赤字が膨らみ、JR北海道が「単独では維持困難」とする8区間の一つで、自治体や有志が存続を目指す集会を相次いで開催。鍵を握るのは地元の利用だが、住民が地元路線を自分たちの鉄路と積極的に利用する「マイレール意識」の低さが課題となっている。

石北線が中心部を走る北見市。「『自分は鉄道に乗らないから』と、人ごとと捉える住民があまりに多い」。北見商工会議所の舛川誠会頭(63)は現状を嘆いた。運送会社の社長として、物流の要である石北線存続への危機感は強い。

北見市など沿線自治体などでつくる「オホーツク圏活性化期成会石北本線部会」は11月29日、同市内でシンポジウムを開いた。舛川会頭ら約190人が出席し、北大公共政策大学院の岸邦宏教授(52)=交通計画=は基調講演で「地域として本当に石北線を残したいなら、どんな運賃や車内サービスであれば地元利用が進むのか、今こそ議論を深めるべきだ」と提言。その3日前には市民有志が石北線の研究会を開き、22人が存続策を議論した。

石北線の貨物の取扱量は安定している。北見地方が生産量日本一を誇るタマネギをはじめ、1次産品の輸送に欠かせないからだ。JR貨物が北見ー北旭川間で運行している臨時貨物列車(通称・タマネギ列車)の輸送実績は年間6万㌧前後で推移している。

問題は旅客。石北線の輸送密度(1㌔当たりの1日平均輸送人員)は新型コロナウイルス禍前の2019年度の775人に対し、21年度は448人と低迷、赤字額は約48億円に上った。このままでは、JR北海道が8区間の利用促進策で掲げた23年度の石北線の目標「輸送密度891人・赤字額42億4300万円」には届きそうにない。

旅客低迷の背景には、マイカーや都市間バスとの競合がある。石北線と並行する「旭川紋別自動車道」は西側から整備が進み、19年に遠軽インターチェンジ(オホーツク管内遠軽町)まで延伸した。北見ー札幌間の都市間バスも拡充しており、同区間直通のJR特急が1日2往復なのに対し、バスはコロナがなければ通常、道内4社が1日計14往復を走らせている。

利便性に勝る交通機関がある中、どうやって鉄道を利用してもらうのか。沿線自治体が模索するのは、住民が鉄路を自分たちのものとして守る意識の醸成だ。北見市などはシンポジウム開催に加え、動画投稿サイト「ユーチューブ」に石北線の動画を公開している。ただ、沿線自治体職員は「日ごろ全く乗らない人へ利用を呼びかけるのはハードルが高い」と漏らす。

道内では宗谷線沿線の上川管内音威子府村と中川町、宗谷管内幌延町が「宗谷本線マイレール意識向上事業実行委員会」をつくり、住民対象の観光列車試乗会を開くなど、意識を高める取り組みが続いている。

「石北沿線ふるさとネットワーク」(北見)の長南進一代表(68)は「石北線は生活移動・都市間移動・観光・物流の4機能を支える重要な路線。住民も駅舎のバリアフリー化、路線バスとの接続を考えたダイヤ設計など、どうすれば生活路線として使いやすくなるか、声を上げることが必要だ」と求めている。

今、JR北海道には二つの大きな問題が横たわっている。一つは、2030年度開業予定の北海道新幹線幌延伸の事業費が、当初計画していた1兆6700億円から約6450億円増加し、総額2兆3150億円になるとの試算が発表(12月7日)されたことだ。合わせてトンネル工事が最長で4年遅れという。二つ目は、東京地検特捜部が摘発している東京五輪パラリンピックを巡る入札談合事件の影響で、札幌市が目指す2030年冬季五輪の招致に影響しかねず、極めて難しい段階に至ったことだ。

要するにJR北海道は、北海道新幹線幌延伸の実質初年度となる2031年度に「経営自立」という大きな目標を掲げているが、このスケジュールが大きく崩れる可能性が出てきたことだ。それまで何とか持ちこたえれば、どうにかなると考えてきたので、北海道新幹線幌延伸前の22年12月現在JR石北本線の「時代を書き残しておきたい」と考えたのだ。

それにしても何回も書いているが、JR北海道の路線の設備の老朽化が進んでいるにも関わらず、一向にスピードアップのための抜本的な鉄路改良工事の報道が流れてこない。例えば、JR石北本線の上川駅〜白滝駅間(37・3㌔)に約15㌔の新「石北トンネル」が完工すれば、黙っていても以前の乗客の50%以上は戻ってくる筈だ。それにも関わらず、地方自治体は人口減少に悩み、財政的にも脆弱なのに「乗客を増やせ」と発破をかけて、果たしてどれだけの成果を挙げることができるのか。つまり地方自治体の財政負担の増加は、沿線地域の疲弊を招くだけではないか。

そもそも、地方ローカル線は人口減少、クルマの普及、高速バスとの競合という3つの理由により乗客が激減し、その存在意義まで問われている。特に北海道は、タダで走行できる「高規格幹線道路」(一般国道の自動車専用道路)をどんどん延伸しており、どう乗客を増やせば良いのか、もう話にもならない。北海道の鉄道の行く末を心配している者たちは、鉄道が地域を元気にするための社会インフラであることを重々理解し、地域が衰退したら鉄道を利用する人が将来にわたって減り続けることを危惧しているのだ。

そのほか、考えてほしいのは「ウクライナ戦争」を見ればわかる通り、鉄道は大量輸送手段として、昔から「鉄道と国防」は非常に密接な関係にあることだ。現に、自衛隊保有する弾薬庫は約1400棟あるが、そのうち7割が北海道にあることを知ると、ただ単なる赤字路線というだけで廃線とか代替交通機関といったキーワードで語ってもらいたくない。JR北海道の「北方4線」(宗谷、石北、石勝・根室、釧網の各線)は、日本全体がバランスよく発展していくという意味合いのほかに、国防や物流の観点と観光に必要な路線であるのだから、国が関与してJR北海道に運行を任せる体制にするべきと強く感じるのだ。