経済から見えた「箱根駅伝」

1月31日に購読している会員情報誌「月刊テーミス」(2月号)が、自宅に郵送されてきた。その中に、吾輩の大好きな「箱根駅伝」について、「『箱根駅伝』大熱狂の裏で商魂踊るー読売や日テレの暴走からそれに乗じる大学まで」と題して、次のように報じていた。

ー学生スポーツに莫大なカネがー

正月の恒例行事となった「箱根駅伝」が今年で節目の第100回大会を迎えた。数々の名場面でお茶の間を沸かせて来たが、近年は莫大なカネが動く学生スポーツとしても知られるようになってきた。

そのきっかけは87年に日本テレビが完全生中継を始めたときからだ。正月の2日間で12時間以上も生中継を行い、視聴率は毎年約30%。年間視聴率ベスト10にも必ずというほどランクインする〝超優良コンテンツ″になった。

毎年、高校野球の甲子園大会以上の盛り上がりを見せるが、日テレが生中継を続けるのは単純に儲かるからだ。箱根駅伝の主催は関東学生陸上競技連盟(関東学連)だが、中身は読売グループが総力を挙げた「スポーツ興行」である。

共催は読売新聞で、特別後援には日本テレビ、後援には報知新聞がつく。すべてのグループメディアを使って告知・PRをするのである。その手厚さはプロ野球読売巨人軍の比ではない。

「実は、読売新聞本社は『箱根駅伝』という文言を商標登録している。スタートとゴールを読売新聞東京本社前にするのはいいとしても、箱根駅伝というネームがついたグッズも読売新聞しか販売できず、売りたい場合は読売にロイヤリティを払うのはやりすぎだ。隣には産経新聞東京本社があり、自社ビル前がゴールなのにビール一杯も販売できない」(担当記者)

スポンサー集めは電通ではなく博報堂が仕切る。その理由は読売グループの読売広告社の親会社が博報堂DYホールディングスだからだ。主催団体である関東学連にも読売グループの社員が出向しており、まさに読売グループによる「ドル箱興行」になっている。

日本テレビから主催する関東学連に入る放映権料はたった3億円」

そんな箱根駅伝の放映権の値段をバラしたのは、今年の箱根で優勝した青山学院・原普監督である。この放映権料から出場する各大学に振り込まれる「強化費」はわずか300万円に過ぎないという。

この放映権契約は基本複数年で結ばれ、もちろん日本テレビが独占して契約交渉を行う。だが、スポーツの放映権料はどの競技でも価格が高騰しているのに、箱根駅伝は安すぎる。すぐにでも日テレと値上げ交渉すべきだが、「箱根駅伝を主催するのは学生の団体。現実問題として日テレとわたりあうのは厳しい」(駅伝担当記者)。

ー大学は学生募集のチャンスとー

100回の歴史を積み重ねた箱根駅伝の現状に、大学側から苦情が出てもおかしくない。だが、なぜかそうした声は表に出てこない。

その理由は、大学側も箱根駅伝に出場すれば日テレの電波を使い無料の"宣伝″ができるからだ。「少子化に拍車がかかり、名門校でさえ学生獲得が最大の経営課題になっている。箱根駅伝で上位に食い込めば、知名度が向上し受験者増につながると各校は必死だ」(一般紙の陸上担当記者)。そのため、関東の大学では「箱根駅伝」出場へ巨額の強化費を投入するケースも少なくない。

ある大学の陸上部関係者は「箱根で勝てる有望選手はほんの一握り。高校野球以上の熾烈な〝青田買い″が行われている」という。スカウトは高校はもちろん、中学の有力ランナーにも声をかける。

「名前だけ書いて大学や附属高校に入った選手もいると聞いたことがある。授業料の免除も当たり前で、私もA大学から就職も斡旋するといわれた。スカウトは目星を付けた学生に『あなたはどういう条件ですか?』と当然のように聞いてくる」(駅伝出場者の1人)

いまや「スポンサーの獲得や合宿所の建設など、お金がなければ箱根駅伝は優勝できない」時代になった。箱根駅伝の裏でメディアや広告会社の商魂が躍っている。

実は昨年末に、新刊書「箱根駅伝は誰のものかー『国民的行事』の現在地」(著者=スポーツライター・酒井政人、発行日=2023年11月15日、発行所=株式会社平凡社)を読んだが、そこにも箱根駅伝に関しての経済的な記述があった。

ー大会主催者側(関東学連)からは、出場チームに〝強化費″として、200万円が支給されている。そのことを知っている選手は多くない。ー

ー筆者が関係者に取材したところ、正確な額はわからなかったものの、日本テレビ関東学連に支払う放映権料は複数年契約で数十億円になるようだ。

特別協賛のサッポロホールディングスはテレビ中継が始まった頃(当時はサッポロビール)からの筆頭スポンサーで、2024年開催の第100回大会で38年連続。スポンサー料は1回で8億円とも10億円ともいわれている。協賛はミズノ、トヨタ自動車、セコム、敷島製パンと業界大手が並ぶ。ほかにもNTTドコモなどがスポンサーとして名を連ねている。イメージ抜群の箱根駅伝は各企業にとって広告価値が非常に高い。各スポンサーの広告効果は、60億円相当といわれているほどだ。ー

ーなかには授業料免除の選手を10人近くもスポーツ推薦枠で獲得している大学もある。高校トップクラスの選手になると、授業料免除は当たり前でプラスアルファが必要になってくる場合もある。具体的にいうと、寮費、食事代、合宿代を大学が負担。さらに返済不要の奨学金を用意しているチームもあるのだ。

ある強豪大学は特待生が4段階あり、Cは授業料・寮費免除、Bはプラスして月5万円の奨学金、Aは月に10万円、Sは月に15万円。高校時代の実績と期待度に応じて、選手への〝報酬″が変わってくる。

別の大学では月に30万円という報奨金を手にしている選手もいる。筆者が知る限りの最高額で、それだけの奨学金を複数の大学が準備している。ー

どうですか、有力選手には授業料免除、用具提供などのほか、最大で月に30万円もの報奨金が支給されていることに驚きましたか。それとも、「こんなことは既に知っている」という人は、相当事情に通じた賢人だと考えます。吾輩などは、「こんなに優遇して学生を入学させているのか」と驚く口です。記事の中で「すぐにでも日テレと値上げ交渉すべきだ」と煽っているが、毎回数十億円のカネが絡んでいることを考えると当然の要求で、将来的にはこの問題が蒸し返らせるのではないかと感じた次第です。

ところで、最近の青学大の活躍には大いに驚いている。なぜかと言えば、吾輩は青学大が途中棄権した第52回大会(1976年)では、友人と東京・大手町のゴール付近で観戦していたのだ。その時には、最下位でゴールする10区の青学大の選手を待っていたが、観客の中から「青山学院の選手が倒れて棄権した」という声が聞こえてきたので、レース終了後に友人と青学大の選手が倒れた場所まで行った。その地点は、ゴールまでわずか300㍍のところで、棄権した選手は800㍍の選手であったのでスタミナ切れを起こしたのだ。それくらい当時の青学大は、選手層が薄かった。

その後、青学大は32年間、箱根駅伝に出場することがなかったので、もう2度と箱根駅伝に出場することはないと考えていた。ところが、中京大出身の原普監督の就任後、第85回(2009年)から連続出場して7回も総合優勝をしており、お見事としか言葉がありません。