芳賀・宇都宮LRTの探訪記

JR宇都宮駅東口と栃木県芳賀町の14・6㌔を結ぶ、次世代型路面電車(芳賀・宇都宮LRT、愛称・ライトライン)が8月26日に開業した。これに関連して10月14日付「朝日新聞」の別刷「歴史のダイヤグラム」で、鉄道史に詳しい放送大学原武史教授(政治思想史)が「ライトレールの魅力とは」と題して、ライトラインの探訪記を書いている。

9月9日、JR宇都宮駅東口と郊外の芳賀町を結ぶ宇都宮ライトレールに乗った。

ライトレールは路面電車としての特徴をもつが、道路では車線と区別された専用レーンを走る。一般の鉄道と同様、道路に敷かれない専用軌道を走る区間もある。日本では富山で初めて本格的に開業し、宇都宮はそれに次ぐ。

かつては全国に路面電車が走っていた。しかし1972(昭和47)年に路面の区間の少ない荒川線を残して都電が全廃されたのと相前後して廃止が進んだ。東日本の東北、関東、甲信越では、荒川線や江ノ島電鉄の一部区間を除き、道路を電車が走る風景が見られなくなった。この点は西日本と正反対だった。

宇都宮ライトレールの開業が画期的といえるのは、もともと路面電車のなかった東日本の都市と郊外の間に線路が敷かれたからだ。

午後1時半過ぎ、宇都宮駅東口に行ってみると、ライトレールのホームに人垣ができている。開業から2週間が経つのに、熱狂がおさまっていない。まるで遊園地のアトラクションに乗るかのように、乗ること自体を目的とする客が少なくないように見える。車による移動が当たり前だった地域に電車が走るインパクトの大きさを、まざまざと実感させられた。

しばらくは県道に沿って市街地を走っていたのが、専用軌道の区間に入るや風景が一変した。収穫前の黄金色に輝く稲田が広がったかと思うと、大雨で水量の増した鬼怒川を悠々と渡る。渡ってもなお田園風景は続き、なだらかな段丘一帯に雑木林、栗畑、竹林、瓦ぶきの民家や土蔵などが点在する。うまい具合に開発から取り残されているのだ。思わず降りてみたくなる停留場もあった。

市東部の清原地区に入るとまた風景が変わる。整然とした工業団地に停留場がつくられ、隣接してバス乗り場が設けられている。米国ポートランドと郊外を結ぶライトレールの停留場、ビーバートン・トランジットセンターを思い出した。

ゆいの杜西から東にかけては、ロードサイドにチェーン店が立ち並ぶ新興住宅地が現れた。宇都宮市から芳賀町に入り、終点の芳賀・高根沢工業団地が近づくと、こんどは本田技研工業の関連施設が右手に見えてきた。

沿線に住宅や学校、工業団地しかなければ、一年を通じて景色は変わらず、外から乗りに来る客も減ってゆくだろう。だが鬼怒川をはさんで見えた田園風景は、また乗りたいと思わせる魅力を備えていた。昼間は12分おきに運転されるから時間を気にする必要もない。稲刈りが終わり、秋の紅葉が色づく頃にもう一度乗り、あの停留場で降りてみたいと思った。

書き手が、あまりにも有名な鉄道専門家であるので、これは紹介しなければと考えて取り上げました。実は吾輩も6冊目の本のグラビアに掲載するために、10月12日(木)に宇都宮市を訪れて、ライトラインに乗車してきた。乗車区間は、宇都宮駅東口から鬼怒川を越えた飛山城跡であったが、開業してから既に一か月以上経過していたことと昼間であったので、それほど混雑はしていなかった。

それにしても使用する車両は、黄色と黒の配色が印象的であるし、乗降システムや車両デザインもフランス・ストラスブールのLRTを参考にしたというだけあって、全国的に注目されて当然のことと思う〈今年度のグッドデザイン賞の特別賞「グッドフォーカス賞(地域社会デザイン)」を受賞=公益財団法人・日本デザイン振興会〉。それだからこそ、全国各地の鉄道好きの「鉄道系ユーチューバー」が宇都宮市を訪ねて、ライトラインに乗車して動画を配信しているが、どれもこれも見ごたえがあるものばかりである。

今回の宇都宮市訪問の主目的は写真撮影であるが、あまり満足できる出来栄えではなかった。行く前から構図を考えていたが、やはり動く物体を撮影するのは、最近ガラケー(旧型携帯電話)からスマートフォンに変えた者には厳しかった。さらに宇都宮市訪問では、もう一つ確認したいことがあった。それは最大の課題である、ライトラインを東北本線の線路を跨ぐようにして、宇都宮駅西口へ延伸させる計画を確認するためである。

要するに、以前から考えられていた建設コースは、

宇都宮駅東口停留場の北方200㍍を左に90度曲がって、新幹線高架3階部分と在来線1階部分の2階部分を横断した後、西口駅前広場に至るコース。

宇都宮駅東口の鬼怒通りを西方に真っすぐ進み、駅舎2階のコンコース部分を抜けるコース。つまり、現在の駅舎2階部分の商店街を通り抜けて、西口の「宮の橋」の上に出る。

宇都宮駅東口の鬼怒通りから地下トンネルを通り、駅の真下に停留場を設置して横断するコース。さらに地下トンネルで田川の下を通って西口の大通りに出る。

以上の3つのコースが考えられるが、現時点では①のコースでの建設が計画されているようだ。しかし、宇都宮駅を跨ぐ場所を見たが、在来線と新幹線の高架の間が狭いので、果たして上手く越えられるのかと感じた。また、西口に出る場所が、JR東日本の建物とホテルメッツの狭い間であるので、難工事が予想できた。

②に関しては以前にも書いたが、宇都宮市役所の職員の話として「5年前頃までは検討していた」が、今は何らかの理由で却下されたようだ。しかしながら、JR西日本が進める広島駅の建て替えでは、広島電鉄路面電車が駅ビル2階への乗り入れて、ホームが4本設けられる予定になっている。この広島駅ビル完成は2025年春であるので、是非とも視察してほしいものだ。

③に関しては、現在まで一度も聞いたことがないコースであるが、あえてこのコースを提案するものである。その理由としては、そもそも②の建設を支持していたが、採用されないようなので、どうしても東口と西口を最短距離で結びたいから提案したのだ。例えば①で建設した場合、駅周辺を遠回りで越えることになるので、東口付近に向かう人は「歩いた方が早い」ということで西口停留場で下車、一方の西口付近に向かう人も同じように「歩いた方が早い」ということで東口停留場で下車することになる。また、東口と西口を遠回りで繋ぐことになるので、ライトラインを一体的に運行することが難しくなるのではないか。そのため、西口では2026年に着手し30年代前半の開業を予定している県教育会館(宇都宮市駒生1丁目)との間約5㌔では、折り返しの運行が多くなると考えたのだ。

とはいうものの、③に関しては資金と技術という大きな問題を抱えることは十分承知している。なぜなら①の事業費は約400億円というのに対し、③は地下トンネルが長さ約500㍍になるので、総事業費が3~5倍まで膨らむと推測できるからだ。さらに、技術的に駅前の田川の川底の下を掘削するが、果たして川底何メートルの下の地点までなら技術的に可能であるのか、その点もわからないからだ。しかしながら東口と西口を最短距離で結べなければ、東路線と西路線を一体的に運行できないと推測するから新たに提案したのだ。

いずれにしても、宇都宮市民にも全国の鉄道ファンにも、LRTの素晴しさを実感させることができた。しかしながら、宇都宮駅を跨ぐ工事は難工事が予想されることで、当初からLRTの建設に反対する市民団体が「費用対効果に見合わない」「車の邪魔になって渋滞がひどくなる」などと主張して再び反対運動を展開する可能性がある。それを考えると、早期に明確なビジョンを明らかにして、"全国の路面電車支持派″を安心させてもらいたいものだ。

 

※後記ー2024年2月27日付「下野新聞」電子版

〈LRT開業半年 予想の1・2倍227万人が利用 平均乗降トップは宇都宮駅東口〉

次世代型路面電車「LRT」を運行する宇都宮ライトレールは26日、開業半年間(昨年

8月26日~今年2月25日)の利用者数が当初予測の1・2倍となる約227万人だったと発表した。

開業6カ月目(1月26日~2月25日)の利用者数はLRT都市サミットの開催や一日乗車券のリニューアルなどもあり、年末年始を挟んだ5カ月目と比べて約3万人増の約37万人。1日平均で約1万2千~1万5千人、土日祝日約9千~1万3千人だった。

直近1週間の停留場ごとの平均乗降者数も公表した。全19停留場のうち上位5位は(1)宇都宮駅東口(平日9千人、土日祝日7700人)(2)宇都宮大学陽東キャンパス(平日2400人、土日祝日4100人)(3)芳賀・高根沢工業団地(平日2600人、土日祝日500人)(4)駅東公園前(平日千人、土日祝日1500人)(5)清原地区市民センター(平日1100人、土日祝日600人)だった。

乗降の特徴について、同社は「全体的には勤務先や乗り継ぎ拠点、土日には買い物やスポーツ観戦での利用がそれぞれ多い傾向がある」と分析している。