オホーツク海沿岸地域の個人所得

9月30年の夜、インターネットで検索していたら、「日本経済新聞北海道版」(9月29日付)に題名「個人所得全国上位に、オホーツク海沿岸の自治体ーホタテブランド化奏功」(データで読む、地域再生)という記事を発見した。すぐに滝上町の友人に連絡して、その記事をファクスで送付してもらった。

北海道では全179市町村の6割(109市町村)で2022年度の個人住民税の課税対象所得が住民1人当たりでバブル経済期の1992年度を上回った。6町村は全国でも増加率が10位以内に入った。水揚げが盛んなホタテのブランド化に成功したオホーツク海側の枝幸町や猿払村など、海産物の販売額の増加が税収増に結びついた事例が目立つ。

総務省が公表する「市町村税課税状況等の調(しらべ)」をもとに、市区町村が徴収する個人住民税(所得割)の課税記録から、納税義務を持つ住民1人当たりの課税対象所得を算出した。

個人住民税は前年の所得金額に応じて課税する。このため人口が少なく、税収額も大きくない自治体では、株式売却などで多額の納税があると、その年の税収が大きく上振れすることがある。市区町村別の増加率で全国2位に入った安平町は92年度に比べて63・7%増えているが「町内に個人事業主の超高所得者が数人おり、結果として1人当たりの課税対象所得を引き上げている」(税務住民課)。

そのほか全国上位10位以内にランクインした4位の枝幸町(51・6%増)、5位の猿払村(51・5%増)、6位の湧別町(45・9%増)、7位の雄武町(45%増)、8位の興部町(42・6%)はいずれもオホーツク海沿岸で、ブランド化に成功したホタテのほかカニやサケ、ナマコなど漁業が盛んな町村が名を連ねる。

22年度の1人当たりの課税対象所得では猿払村が732万円で他市町村を圧倒しており、安平町(578万円)、枝幸町(463万円)、雄武町(434万円)、士幌町(415万円)、湧別町(407万円)、興部町(404万円)と続く。北海道全体の1人当たりの課税対象所得は318万円だった。

枝幸町や猿払村などではホタテ漁の生産拡大や海外へのPRに力をいれ、近年は円安なども追い風にホタテの輸出額が好調に推移。ほかの水産物の取扱高も多かったことから、オホーツク海沿岸の漁業者の所得増につながっている。貿易統計によると92年には道内からのホタテの輸出はほぼなかったが、30年後の2022年の輸出額は596億円にまで拡大している。

ただ人口の推移をみると、枝幸町は1992年3月末時点(合併前の旧歌登町を含む)では1万1786人だったが、2023年1月1日時点では7467人に減少。猿払村も3394人(92年3月末時点)から2637人(23年1月1日時点)に落ち込んでいる。地域資源のブランド化によって多くの高所得者を生み出している自治体でも、少子高齢化による人口減のトレンドを反転させるまでには至っていない。

一方で札幌市の1人当たりの課税対象所得はバブル経済期の92年度と比べて9・4%減少した。旭川市(5・5%減)、函館市(6・8%減)、苫小牧市(4%)など都市部での落ち込みが目立つ。

1人当たりの課税対象所得が92年度比で1割以上減っている自治体も計11市町村あった。2007年に財政再生団体となった夕張市は275万円から246万円に10・5%下落した。下落率が最も大きかったのは北広島市でマイナス25・6%だった。

◎表ー2022年度の「1人当たり課税対象所得」をバブル経済期の1992年度と比較

道内順位・自治体→1人当たり課税対象所得(1992年度=100)→1人当たり課税対象所得(万円)

1・安平町→164→578

2・枝幸町→152→463

3・猿払村→152→732

4・湧別町→146→407

5・雄武町→145→434

6・興部町→143→404

7・西興部村→136→397

8・更別村→134→399

9・神恵内村→128→359

10・中富良野町→128→371

この記事を読んで、皆さんはどのように感じましたか。この記事を読んで「意外に、オホーツク海沿岸の住民は豊かなのだ」と感じた人もいると思う。吾輩は、以前から日本最北の村・猿払村が金持ちの街として知られる兵庫県芦屋市や東京都各区を抑え、市区町村別平均所得で6位という順位を知っていたので、オホーツク海沿岸のホタテ漁民は豊かであることは理解していた。だが、北海道全体の1人当たりの個人所得が318万円であることを知ると、改めてオホーツク海沿岸は豊かな地域であることを実感している。このほか、北海道の中で脚光を浴びている北広島市の下落率がマイナス25・6%ということを知ると、同市がプロ野球球団・日本ハムの誘致に一生懸命であったことが理解できる。

それにしても、個人所得を直近の2022年度と過去最高値の1992年度のバブル経済期と比較するとは、如何にこの30年間日本経済が成長しなかったかが分かる。さらに個人所得が9年連続で増加し、全国の約3割に当たる494市区町村がバブル期を上回ったことは、日本の名目GDP(国内総生産)が90年代半ばから長期にわたり500兆円水準だったが、22年度に初めて600兆円に到達したことと符合する。これは22年の米金利急騰に沿う円安で、日本でもいや応なしにインフレに見合って売り上げが伸び、インフレ益が入って、賃上げも進めようかという配慮で生まれた現象という。

ところで東京電力第一原発のALPS処理水の海洋放出が始まった8月24日以降、中国は科学的根拠に基づかないで日本批判を繰り返して日本の水産物を全面禁輸した。昨年の日本の水産物輸出額は3873億円で、このうちホタテは輸出額の4分の1の911億円を占める最大の品目であることから、ホタテ漁の盛んなオホーツク海沿岸地域を中心に波紋を広げている。ちなみに、中国向けホタテの輸出額は09年に約7億円だったが、22年には467億円(2位の台湾は112億円)まで急拡大し、人口約2700人の猿払村にはホタテ漁師たちが建てた「ホタテ御殿」が多いという。

今後、中国が日本の水産物の禁輸を続ける限り、在庫が増すとともにホタテの価格下落も長引くことになる。当然のことながら、オホーツク海沿岸の個人所得も下落する事態になるので、政府の対策を見守っていきたい。

※参考意見ー10月2日付「朝日新聞」で、経済アナリストのデービット・アトキンソンが、日本経済の問題点を指摘している。

〈企業の生産性こそ上げねば〉

ー日本で給与が上がらない一番の理由は、労働市場にあるわけではないのです。

日本の問題は生産性にあります。韓国の平均年収は日本の1・2倍です。生産性も、かつて韓国は日本の半分ほどでしたが、今では日本の1・1倍と逆転しています。生産性を上げると給与が上がる、その逆もあることを示す研究はいくらでもあります。

生産性の向上は毎年のちょっとした改善です。この30年間、海外の主要国は横ばいの日本を尻目に、毎年1%程度のイノベーションを確実に積み重ね、生産性を高めることで給与を上げているのです。

問題は中小企業にあります。日本では大企業の生産性は先進国とあまり変わらないのですが、中小企業の生産性が低いのです。大企業に対する中小企業の生産性が欧米は約7割ですが、日本は5割。日本人の7割が働く中小企業の生産性が低いので、全体の賃金が低いわけです。

日本の企業数の85%を占める『小規模企業』の社員は平均3・4人。生産性向上のための投資はとてもできません。育児や介護の休業もとりにくいでしょう。自社で生産性を上げられないのであれば、他社との協業などに取り組むべきです。ー