東京五輪ではハッサン選手の3種目優勝が見たい

10月16日の夜、2020年東京五輪のマラソン競歩について、国際オリンピック委員会(IOC)が猛暑対策として、東京から札幌への会場変更を計画しているという報道が流れた。その時には非常に驚いたが、中東カタール・ドーハで開催された「第17回世界陸上競技選手権大会」(9月27日〜10月6日)をテレビ観戦した者には、致し方ないと思った。何故なら、当初から高温下の競技になるので、有力な選手は欠場するし、現実に競技環境が公正・公平性が保たれなかったからだ。特に、女子マラソンはスタート時の午前0時前の気温が32・7度、湿度も73・3%で、出場68人中、4割を超える28人が途中棄権し、完走率は1991年の東京大会を下回って最悪だった。また、男子50㌔競歩でも46人中28人しかゴールできなかった。それを考えると、IOCが札幌開催を要請することは理解できる。

さて、吾輩がこれから書くことは、東京五輪のトラック種目の日程についての疑問だ。その背景には、最近の世界大会(五輪と世陸)では、1500㍍と5000㍍の決勝を最終日に実施することが多いからだ。つまり、トラック種目では、複数の種目に出場する場合、200㍍主体の選手は、100㍍か400㍍のどちらかの種目、5000㍍主体の選手は、1500㍍か10000㍍のどちらかの種目に出場する。ところが、現実には選手の希望を受け入れた日程が組まれていない。

その意味では、高校生日本一を決めるインターハイは、それはそれは完璧な日程(5日間)を組んでいる。そのため、毎年有力選手は、3種目、4種目に出場して、大会を盛り上げている。だからこそ、なおさら世界大会の日程に疑問を感じるのだ。

例えば、今年開催の世界陸上では、女子1500㍍と10000㍍で、S・ハッサン(オランダ)が2種目で優勝した。ところが、その間の種目5000㍍には出場していないので調べてみると、2日目に10000㍍決勝、6日目に1500㍍予選と5000㍍予選、7日目に1500㍍準決勝、9日目に1500㍍と5000㍍の決勝との日程になっていた。そのため、ハッサン自身は、最終日に出場する種目は、最も得意とする1500㍍にした。つまり、ハッサン選手は、10000㍍は得意種目ではないが、日程の都合で出場したところ優勝してしまったというのだ。

ということで、東京五輪の競技日程を調べてみたところ、初日に5000㍍予選、4日目の午前9時35分に1500㍍予選、午後9時40分に5000㍍決勝。6日目に1500㍍準決勝、8日目に1500㍍決勝、9日目に10000㍍決勝となっている。日程表を見ると、1500㍍決勝の翌日に10000㍍の決勝が組まれており、この日程では1500㍍、5000㍍、10000㍍の3種目で優勝することは難しいかもしれない。

そこでだ、陸上競技の日程は五輪後半に実施されるが、男女の10000㍍決勝は開会式の翌日に行えば、長距離選手の出場枠が広がる。その結果、10000㍍に出場した選手は、マラソンに出場することも可能になる。現在では、10000㍍に出場した選手がマラソンに出場することはほとんどないが、1964年(昭和39年)東京五輪当時は、珍しいことではなかった。例えば、あの円谷幸吉も、10000㍍で6位入賞を果たした後、マラソンに出場して銅メダルを獲得した。また、10000㍍銅メダルのロン・クラーク(豪州)も、名誉挽回ということでマラソンに初出場して、10㌔くらいまで先頭を走った。この光景は、今でもまぶたに焼き付いている。

吾輩が、トラック種目の日程に不満なのは、過去のスーパースターは、複数の金メダルを獲得しているからだ。つまり、スーパースターを生み出してこそ、五輪は盛り上がるし、記憶に残るのだ。だから、スーパースターを生み出すことを邪魔する日程は、絶対に認められない。

過去の五輪で記憶に残る選手を挙げると、

○1924年五輪のパーヴォ・ヌルミ(フィンランド)⇒1500㍍、5000㍍など5種目で優勝。

○36年五輪のジェシー・オーエンス(米国)⇒100㍍、200㍍、走幅跳、400㍍リレーで優勝。

○52年五輪のエミール・ザトペック(チェコスロバキア)⇒5000㍍、10000㍍、マラソンで優勝。

○72年五輪と76年五輪のラツセ・ビレン(フィンランド)⇒5000㍍と10000㍍で優勝。

○84年五輪のカール・ルイス(米国)⇒100㍍、200㍍、走幅跳、400㍍リレーで優勝。

○08年五輪、12年五輪、16年五輪のウサイン・ボルト(ジャマイカ)⇒100㍍、200㍍、400㍍リレー〈08年の金メダルは剥奪〉で優勝。

○12年五輪と16年五輪のモハメド・ファラー(英国)⇒5000㍍、10000㍍で優勝。

以上の顔ぶれを見ると、複数以上の金メダルを獲得している。つまり、複数以上の金メダルを獲得しないと、スーパースターにはならないのだ。だからこそ、ハッサン選手には、女子選手として初めて、中長距離種目で3個の金メダルを獲得して欲しいのだ。

そのほか、東京五輪ではハッサン選手以外にも、スーパースター候補がいる。それは、短距離選手のN・ライルズ(米国)で、男子100㍍、200㍍、400㍍リレーで金メダルを獲得する可能性がある。それだけに、ハッサン選手には女子として、長距離種目でスーパースターになって欲しいのだ。そのためには、是非とも競技日程に配慮して欲しい。

要は、参加する選手のためにも、そして観戦する我々のためにも、競技日程を無視するわけにはいかない。末永く東京五輪の記憶が残るためには、スーパースター誕生は欠かすことができない。だから、五輪の華である陸上競技の日程にクレームをつけるのだ。