ドーピングと女子選手

まもなくリオ五輪が開幕するが、その直前にロシアのドーピング(禁止薬物使用)問題で、世界のスポーツ界が大揺れだ。既に、ロシア陸上チームは、国際陸上競技連盟の裁定で五輪への不参加が確定しているが、その他の競技種目に関しては、国際オリンピック委員会が24日、各国際競技団体の判断に委ねることを決定した。これによって、ロシアの五輪出場問題は、差し当たり決着した感じを受けるが、よくよく考えると、よくぞ最近まで“ロシアの悪事"が表面化しなかったものだと思う。

思い返すと、わずか25年ほど前まで、米ソを盟主に東西冷戦下にあり、当時から旧東側諸国では、国威発揚のために、国策として選手に薬物を投与しているという噂があった。しかしながら、当時は検査レベルも低く、大会以外の抜き打ち検査もなかったことで、薬物投与を摘発される事例は少なかった。

ところが、89年にベルリンの壁が崩壊すると、内部文章からドーピングの実態が明らかになった。特に、東ドイツでは、主要なドーピング対象者が女子選手であった。その背景には、女子選手は筋力が劣るので、ステロイド(筋肉増強剤)を使用すると、すぐに効果が出るからであった。

調べてみると、東ドイツは1968年〜88年までの間、夏季五輪で金メダル153、銀メダル129、銅メダル127、計409のメダル、冬季五輪では金メダル38、銀メダル36、銅メダル35、計110のメダルを獲得している。そのうち、女子選手が獲得したメダル数は、7割〜8割と記憶している。つまり、東ドイツは、集中的に女子選手を強化していた。

東ドイツのドーピングの実態は、冷戦崩壊後、多くの女子選手の突然死や体調不調などが、裁判所での証言で明らかになり、157人に対して補償金が支払われた。そして今回は、初めてロシアの国家ぐるみのドーピングが、白日の下にさらされた。

陸上競技の世界記録は、昨年末時点で女子24種目中11種目が1980年代に樹立された。更に、世界歴代30傑を見ると、未だに1980年代の記録が上位にあり、その中では女子円盤投げが、最もドーピングの効果があったようだ。何故なら、歴代上位12位までの記録が、全て旧東側諸国の選手で、80年代の記録であるからだ。

もう少し、具体的に説明したい。上位12位まで選手の国籍と樹立年を紹介すると、1位(世界記録76㍍80)東ドイツ・88年、2位チェコ84年、3位東ドイツ89年、4位東ドイツ87年、5位ルーマニア88年、6位東ドイツ84年、7位ロシア・ソ連84年、8位ブルガリア87年、9位東ドイツ84年、10位東ドイツ87年、11位リトアニアソ連84年、12位ブルガリア80年である。参考までに、今世紀での最高記録は71㍍08(14年)で、歴代18位である。女子選手のドーピングが、如何に効果があるかがわかると思う。

筆者は長年、陸上競技や重量挙げを見てきて、女子選手は男子選手に比べて、走力は1割減、投擲力は3割減、筋力は4割減の運動能力と考えてきた。例えば、陸上競技の女子世界記録と日本の男子中学記録を比べれば、全ての種目で、ほぼ同じ記録である。100㍍女子世界記録は10秒49、男子中学記録は10秒56、走り高跳びは女子2㍍09、男子は2㍍10、走り幅跳びは女子7㍍52、男子は7㍍32である。つまり、女子選手の運動能力は、男子選手の15歳並みで、50年前からほとんど変わっていない。ちなみに、女子の世界記録は、ドーピングの疑いがあることを考慮して欲しい。

また、女子の投擲力に関しては、若い頃にある人から「女性には、絶対に“手榴弾"を投げさせない。何故なら、遠くに投げれないので、自爆する可能性があるからだ」という話しを聴いたことがある。それくらい、女子の投擲力は劣っているのだ。

即ち、女子選手のドーピング効果が大きいことで、現在、多くの旧東側諸国の元女子選手が健康被害者で苦しんでいる。そして現在、ドーピング問題を乗り越えなければ、五輪の価値が低下し、選手の出場辞退を招き、観客や視聴者の無関心を招いて、現代社会から“スポーツ文化"が縮小する可能性がある。だからこそ、ドーピングは絶対にスポーツ界から根絶しなければならないのだ。