JR北海道の「観光列車」と「新千歳空港駅」のお話し

鉄道好きにとっては、車両に乗る時も、路線を想像する時も、楽しい一時だ。その一方、JR北海道における北海道新幹線の赤字倍増103億円(2017年度)、石北線無人駅5駅の廃止などという報道は、聴きたくもないニュースだ。

そんな中、楽しみなニュースが流れてきた。その一つは、2年後をめどに、JR北海道の路線上に「観光列車」を走らせるというニュースだ。この計画の経緯を解説しているのが、月刊誌「鉄道ジャーナル」(5月号)の記事「地方の公共交通を維持するということ」(佐藤信之)であるので、先ずはこの記事から紹介する。

○2月20日、官邸で開かれた「観光戦略タスクフォーム」で国土交通省が、JR北海道の線路を他の事業者に使用料を取って使わせ、観光列車を走らせようという案を示した。コストを掛けずに収入を増やそうというのである。この「戦略タスクフォーム」というのは、特定の政策課題について各省横断的に認識を共有するために、定期的に関係省庁の担当者が官邸に集まる会議で、そのつど有識者や関係事業者が招かれて意見が聴取される。

JR北海道の経営問題には、沿線自治体にも増収策として観光列車の運行を考える必要があるとの認識が高まっていた。観光交通は「たまの贅沢」として価格負担力が高い。観光客がやってくることで、沿線の観光地の収入も増えるという一石二鳥というわけである。北海道庁でも、平成28年度に観光列車の運行可能性を調査する事業を実施した。まず、4月19日に公募型プロポーザルにより調査を委託する事業者の募集を告示。7月6日に、最終的に道銀地域総合研究所と日本旅行北海道が選定されたことが発表された。

国土交通省の考える観光列車は、むしろJR東日本の「TRAINSUITE四季島」、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」、JR九州の「ななつ星in九州」のような高付加価値で収益性の高い列車である。しかし、車両の製造費だけでも数十億円かかり、関連整備費を入れると必要な整備投資は膨大になる。JR北海道の財務状況ではそれは無理なので、車両をはじめ設備投資を内外の民間企業に任せ、JR北海道は線路の使用料を取って運行してもらおうというアイデアである。今後、平成30年度に課題を整理して、その翌年に実際に事業者を公募。東京オリンピックが開かれる2020年前には運行を開始することを目指すという。

というわけで、まだ詳細なことはわからないが、夢のある計画であることは確かだ。そもそも、札幌〜帯広〜釧路〜網走〜遠軽旭川〜札幌というコースは、日本の中でも最高峰の観光ルートである。しかしながら、新幹線が札幌まで延伸していない段階で、どれだけ富裕層や観光客が利用するのか、という心配はある。

続いて、JR新千歳空港駅千歳線の本線に組み込むニュースだ。土地勘のない人は、北海道の地図を見ながら読んで欲しい。つまり、支線になっている南千歳駅新千歳空港駅間(単線の2・6キロ)を、複線化して千歳線本線に繋いで、苫小牧側に貫通させるほか、石勝線を接続するという。その結果、今まで南千歳駅で乗り換えが必要だった帯広・釧路方面や苫小牧方面の乗客が、新千歳空港駅から直接行けるようになる。

この改修の事業費は一千億円規模で、財源については空港の敷地内の工事も含まれるため、国の特別会計「空港整備勘定」の活用なども検討する。この構想が浮上した背景は、経営難にあえぐJR北海道の収支を向上させる狙いもある。そして、路線改修は早ければ2022年の完成を目指すという。

我が輩は、この報道を受けて、これはプロ野球北海道日本ハムファイターズの新球場建設候補地に北広島市が決定し、早ければ23年3月開業を目指す動きと連動していると推察した。さらに、苫小牧市が推進するカジノを含めた統合型リゾート(IR)の整備なども、この動きに影響を与えていると推察した。参考までに、北海道の調査を紹介すると、年間利用者数は223〜378万人という。

詰まるところは、新千歳空港駅を拠点駅として、大規模に整備しなければ、増加する乗客をさばけないという背景である。その意味で、地下駅の千歳空港駅を、どのように設計・改修するのかは、鉄道好きには非常に関心が持たれる。

というわけで、楽しみなニュースを紹介したが、残念なことは、この計画に対してJR北海道が関わっていないことだ。しかも、どちらの計画も東京発のニュースで、JR北海道の存在感が全く感じられない。これでは、「蝦夷地」から「北海道」と命名されて150年経っても、一向に自立した経済圏とは言えないではないか、と考えてしまうのだ。