JR北海道の置かれた立場を考える

昨日の「産経新聞」に、正論「持続可能な鉄道の未来考えたい」(青山学院大学教授・福井義高)という寄稿が掲載された。先ずは、寄稿の後半部分だけを紹介する。

ー時代変化と利用者以外の負担ー

鉄道は短距離では自動車の利便性に中長距離では飛行機のスピードにかなわない。また鉄道は線路を一度敷いたらルート変更は極めて困難で、維持更新にコストがかかる。とはいえ可住地ベースでみれば、日本は先進国では群を抜く高人口密度国であるため、自動車や飛行機にはない大量輸送という特性が発揮できる場が多く存在し日本の鉄道輸送量は他G7(先進7カ国)諸国の合計を上回る。

ただし、日本全土が高人口密度であるわけではない。人口分布の二極化が進み、首都圏と関西圏を両端とする東海道メガロポリスや、札幌や福岡といった地方大都市圏を除くと、鉄道がその優位性を発揮できる余地は少ない。

現在、路線廃止が議論されている地域で、いまだ鉄道が運行されているのは、モータリゼーションが進む前、鉄道が移動に不可欠な全国民に提供されるべき「ユニバーサルサービス」だった時代からの惰性であり、利用者以外の負担で維持することは到底正当化できない。実際、大人には見向きもされず、利用者の大半は自家用車で通学できない高校生である。

ー広い視野でサービス改善をー

鉄道が儲からないから廃止せよと主張しているのではない。輸送サービスを利用者以外の負担で維持する必要がある場合でも、同レベルのサービスがバスという割安な輸送手段で提供できるなら、鉄道である必要はないと言っているのだ。実際、運行頻度向上や、ルート設定の柔軟性(学校や病院近くまでの運行など)を考えれば、より安いコストでサービスを改善し得る。バス転換で効率化した余剰を通学定期代の補助に使うのも一案である。

全国に新幹線を造る計画は、輸送需要が右肩上がりで増え続け、貨物列車も走る在来線では、輸送力が足りなくなるという前提で、高度成長期に立てられた。ところが貨物輸送量は激減し、今では在来線の輸送力を持て余す状況にある。推進派は新幹線開業で輸送量が増えたことを強調する。

しかし、それは在来線特急輸送量が国鉄全盛期より大幅に減少した開業直前との比較による、一種のまやかしである。全盛期よりもさらに増えることなっていた当初の予測値からみれば、半分にも満たない。すでに整備された区間の多くが確実にやってくる人口減少で、運輸収入では整備更新はおろか運営コストもまかなえなくなる。これ以上、子供や孫の世代に負の遺産を残してはならない。

他の輸送機関と役割分担しながら、既存インフラを有効活用し、さらなる安全性や快適性を追求することこそ、日本の鉄道の持続可能な未来像である。

この寄稿を紹介するのは、数カ月前に某鉄道ライターの「あと30年後、石北線が残っていることが想像できない」旨の雑誌記事を読んだからだ。つまり、鉄道ファンの某鉄道ライターや、紹介した寄稿者が「鉄道が儲からないから廃止せよと主張しているのではない」と言いながら、地方の鉄道に対して“経済性は無視できない"と言っているのだ。

詰まるところ、コスト論から鉄道経営を考えてしまうと、JR北海道の半分、本州の鉄道の中にも該当する路線が出てくる。いってみれば、公共交通の鉄道を、コスト論だけで考えることには賛成できないのだ。特にJR北海道の場合、国防関係や冬の厳しさも考慮しなければ、見捨てられた地域になる。いずれにしても、大手新聞に“鉄道をコスト論から考える"という寄稿が掲載されたことには、今後注視しなければならない。

そもそも、吾輩がJR北海道の将来を心配しているのは、経営実態をある程度把握している面もある。例えば、JR北海道は12月4日、2019年度中間期(4〜9月)の線区別収支を公表したが、その中の「単独では維持困難」と発表した8線区の赤字は、前年同期比で700万円悪化して61億円であった。つまり、JR北海道も、沿線自治体もそれなりに乗客増加に努力したが、19年度の営業損失は122億円前後の赤字になる。

このほか、心配なのが都市間交通の高速バスの影響だ。例えば現在、網走・北見から札幌行きの高速バスは10便運行(うち夜行1便)されているが、さらに今月20日からは網走と新千歳空港を結ぶ高速バス「千歳オホーツクエクスプレス」が運行を始める。網走を午後10時20分に出発し、翌朝の午前6時過ぎに同空港に到着するという。すなわち、吾輩が若い頃には国鉄の急行「大雪」(朝刊も輸送)が夜行列車として、札幌〜網走間を走っていたが、今は夜行バスがこの役割を果たしている。

要は、網走・北見からの乗客が高速バスに流れれば、必然的に鉄道を利用して札幌に向かう乗客が減少する。これでは、鉄道を愛する鉄道ライターが、いずれ“石北線は廃止に追い込まれる"という見方は、あながち見通し違いとは言えない。

そういう意味で、新幹線の札幌延伸が待たれる。なんといっても、北海道には札幌〜帯広〜釧路〜網走〜遠軽旭川〜札幌というゴールデンルートがあるからだ。その時には、絶対に素晴らしい観光列車が走り出すと予想している。それまで、JR北海道を皆で支えようではないか。