我が輩は“新聞大好き人間"であるので、新聞に関する新著が出版されると、どうしても購入してしまう。ということで、今回は新著「新聞社崩壊」(著者=畑尾一知・元朝日新聞販売部長)を読了した。本の中身は、新聞社の抱える購読者減少と打開策であるが、下記の3点に絞って紹介することにした。
1.購読者減少と年齢別
新聞の購読者が減り続いている。2005〜15年の過去10年で、購読者が25%・約1300万人も減り、さらに10年後には最低でも30%減るという。それを年齢別に読者率と読者数を割り出すと、
○10代=05年・7%(88万人)→15年・3.5%(41万人)。
○20代=05年・18.5%(289万人)→15年・5.5%(68万人)。
○30代=05年・29%(536万人)→15年・11%(172万人)。
○40代=05年・45%(711万人)→15年・22%(405万人)。
○50代=05年・58%(1105万人)→15年・39%(603万人)。
○60代=05年・67.5%(1079万人)→15年・54.5%(986万人)。
○70代以上=05年・61%(1111万人)→15年・60%(1428万人)。
○合計=05年・44%(4919万人)→15年=33%(3703万人)という。
というわけで、著者は「50代の半分以上は新聞を読まない」と嘆いている。さらに、25年における新聞の購読者は、デジタル化の加速、人口減少、勤労者の実質可処分所得の減少、年金生活者の社会保障関連収入の減少などで、約2千6百万人と推計している。つまり、15年に比べ千百万人、30%の減少で、人口に占める購読者は、わずか23%という衝撃的な数字をはじき出している。
それでは、新聞衰退の根本的な原因は何か。著者は、①値段の高さ②記事の劣化③新聞社への反感ーという3点を挙げている。そして、紙の新聞は、値段を下げ、読者のニーズに応えようとする姿勢があれば、購読者を根強く惹きつけることができるはずだ。ただし、現存の新聞社にはそれを実現する発想も動力源もないと悲観している。
2.北海タイムス廃刊の背景
この本では、57〜101ページにわたって、「北海タイムスの廃刊から何を学ぶか」という一章を設けている。その理由は、戦後の新聞の歴史の中で、10万部の規模を維持しながら半世紀以上発行した新聞が滅んだ例は他にないからという。その「北海タイムス」(1950年代には発行部数20万部、社員数一千人)は1998年9月1日、自己破産(負債総額は27億円余り)を申請し、2日付を最後に廃刊となっている。
我が輩も、懐かしい新聞であったので、この間廃刊に至った理由を知りたいと思っていた。だが、この著書を読んで良く理解出来たので、そのポイント部分を転載することにした。
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1998年の北海タイムス(以下、北タイ)の部数は、札幌9千部、後志(ニセコを含む地域)6千部、旭川9千部、上川(富良野を含む地域)6千部、それ以外の地域2.4万部。全道にわたって細かく散らばり、札幌と旭川の部数を合わせても全体の3分の1に過ぎない。重点のT字エリアの札幌・後志・旭川・上川を合わせてやっと過半数になる程度である。
北タイの戦略上の最大の誤りは、本当の意味での札幌重点政策を採らなかったことだった。
初期に吸収した旭川の北海日日新聞や小樽タイムスの読者が、北タイになってからも長い間離れなかったおかげで、旭川や小樽に近い後志は比較的北タイが強い地盤であった。しかし、将来の発展性と効率性、さらに道の中心に位置する影響力を考慮すると、札幌重点以外の戦略はあり得なかった。
ちなみに、1960年から1998までの間に北海道の人口は504万人から568万人に約13%増えたが、札幌市は52万人から182万人へと3・5倍増になっている。つまりこの間に、札幌に住む人は全道の人口の十分の1から3分の1に膨れ上がったのである。
北タイ社は年間1億5千万円近い販売店への補助金を出していたが、その大半は札幌市内の販売店向けだった。しかし最後の年となった1998年の札幌市内の世帯普及率は、1・4%にすぎなかった。旭川が7・7%を維持していたのと、大変な違いである。札幌市内の販売店の弱体ぶりは目を覆うばかりだったのがわかる。
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即ち、北海タイムスの戦略の誤りは、本業に集中しなかったことと、札幌圏に重点を置かなかったことに尽きるようだ。確かに、札幌市の読者数が少な過ぎるが、この背景には1950年頃の道新との“北海道新聞戦争"の影響があったようだ。しかしながら、この読者数では廃刊に陥るのは当然のことである。さらに、経営の失敗の原因として、
○外部のスポンサーに頼る体質
○ガバナンスの欠如
○ビジョン、戦略の誤り
ーと、この3つに集約されると断言している。
それにしても、革新的な道新と対照的に、北海タイムスは保守的なイメージを打ち出し、道内の経済界などの支持を得ていたというから、残念な廃刊になってしまった。
3.新聞社の購読者維持に向けて
本の中では、新聞社の将来を心配して、購読者維持のための方策などを示しているので紹介したい。
先ずは、紙の新聞がなくなると、以下のようなことが起きると予想している。
①世に出るべき情報が埋もれる
②フェイク・ニュースが出回る
③常識的な世論が形成されない
④ニュースの重要度が均衡を欠く
⑤興味深い記事がなくなる
次いで、前述したが、21世紀に入ってからの急激な新聞離れの
以上、新聞社の実態を紹介してきた。これからの時代、これまでエリートの就職先であった金融機関とともに、若い人たちにとって、非常に厳しい時代に入った。しかしながら、これまで安泰であった業種・新聞業界が、思いがけない事態に至ったことで、いち早く改革に邁進して、新たな道が開かれて行くかも知れない。いずれにしても、これからも末永く生きていく以上、楽な仕事はないことを肝に銘じ、そして将来に希望を持って努力して欲しいものである。