日本の新聞業界の一端について

昨年末に、地元自治体の発行する広報紙などが、新聞販売店の申告部数に従って、自治体が手数料を支払っている現状を書いた。ところが、筆者の疑問に応える記事が、今月発行の月刊誌「文芸春秋」(3月号)に掲載された。記事のタイトルは「告白ルポー新聞販売店主はなぜ自殺したか」(幸田泉=作家・元全国紙記者)で、千葉県印西市(人口約9万3千人)の委託料の現状の中で判明したので、この部分を転載する。

印西市が発行する刊行物で新聞に織り込んで配布しているものは幾つかある。例えば2016年度では最も多いのが「広報いんざい」で月2回発行。1部当たりの折り込み手数料は、8ページが7・38円、12ページが10・79円、14ページが11・07円(いずれも税抜き)。次が「議会だより」で年4回発行。その他には「いんざい保健センターだより」が年1回、「いんざい産業まつり」の案内チラシが年1回。2016年度は参院議員選挙、千葉県知事選、印西市長選の選挙公報も折り込まれている。

2017年12月1日。山本議員は市議会本会議の一般質問で新聞の部数偽装にからむ税金の無駄遣いについて質問した。

「決算書に記載されている昨年度(2016年度)の新聞折り込み委託料はいくらか」という質問に対する市側の回答は次の通りである。

「広報いんざい」が592万9880円、「議会だより」が122万8948円、「いんざい保健センターだより」が22万2983円、「いんざい産業まつり」が10万4436円、参院議員通常選挙公報が64万4536円、千葉県知事選挙公報が14万7056円、印西市選挙公報が24万7278円。計852万5117円。

印西市の折り込み委託料のうち仮に3割が「残紙」(押し紙)とともに捨てられている」とすれば、年約300万円の損害である。

という訳で、やはり全国の自治体は、新聞販売店の“言い値"で折り込み広報紙の手数料を支払っている。と同時に、新聞販売店の経営難の実態も明らかになった。その原因は、押し紙に加え、10年ほど前から「折り込み広告」の量が下降線を描き始めたことを挙げている。その影響で、実は近年、表面化はしていないものの新聞販売店主の自殺は多発しているという。

例えば、

○2014年7月=山形県庄内地方の読売新聞販売店主。

○同年9月=群馬県朝日新聞販売店主(30代)。

○15年1月=大阪府毎日新聞販売店主。

○17年4月=東京都内の朝日新聞販売店主。

○同年12月=東京都練馬区の日経販売店主。

この他にも、押し紙や、販売店の経営を支える補助金「経営補助」をめぐって、裁判沙汰になっている事柄が多数あるようだ。特に、押し紙に関しては、兵庫県西宮市の毎日新聞販売店が、本社から輸送される「送り部数」2300部のうち、読者がいるのは980部ほどしかないという現状には驚いた。これでは、押し紙が半分以上ということではないか。

そもそも、筆者が折り込み手数料のことを取り上げたのは、人口10万人以上の自治体では議員一人当たりの年収が、報償費などで一千万円以上であることから、この高給に“仕事の内容に合致しているのか"という意味で取り上げた。ところが、おかしなところに飛び火して、新聞販売店の経営問題に触れることになった。その意味では、筆者の思惑から離れてしまった。

いずれにしても、商業新聞は言論の自由を象徴する存在である以上、これからも絶対に存在して欲しい。しかし、現在の新聞販売店の現状を知ると、果たしてこのままの経営方法で存続出来るのかと考えてしまう。その意味では、自治体が新聞販売店の申告に従って手数料を支払うことは、ある面では“公的資金の投入"と言える。つまり、新聞が世の中の“公共財"というのであれば、これからは田舎の新聞販売店に“公的資金を投入"することもあり得ると考えたのだ。