新国立競技場の基本設計の報道を受けて

新国立競技場を建設する日本スポーツ振興センター(JSC)は28日、基本設計案を公表した。そこで、筆者は朝日と読売新聞の関連記事を読んだが、いずれも風向に関しては触れていない。陸上競技で最も重要な自然条件は、風向きであるにも関わらず。そこで筆者は、正式な設計案が出来てからでは遅過ぎると考え、今日直ぐに行動した。

最初に電話したのは、陸上競技専門誌。中堅の男性が対応したが、ピンとくる返答がなく、がっかりして電話を切った。

次いで、日本陸上競技連盟に電話したところ、若い男性が出たので、下記のような対話をした。

私「自分は、陸上競技が好きで、もう45年間くらい陸上競技の専門誌を購読している。そして若い時には、よく国立競技場で陸上競技を観戦した。若い人は知らないと思うが、東京、メキシコオリンピック当時の100㍍チャンピオンは飯島秀雄選手。次の世代のチャンピオンは神野正英選手。その神野選手が、ある年の日本選手権で優勝、翌日のスポーツ新聞を観たところ、そこには『国立競技場は、常に向かい風であるので、今日は記録よりも勝負を優先した。はっきり言って、国立競技場では走りたくない』との優勝コメントが掲載されていた。自分も感じていた点を、選手の立場から裏付ける発言であったので、“やっぱり、そうだったのか"と思った。それ以来、“正面スタンドとバックスタンドは変えるべきだ"と長年考えてきた。新聞には、その点が何も書かれていないが、基本設計案では、どうなっているのか」

陸連「風向きの事は、知っています」

私「知っていますか。嬉しくなった。先ほど、陸上競技専門誌に電話したが、何の反応もなかった。さすがに陸連ですね」

陸連「でも、スタンドの配置は、現在の競技場と同じになると思います。陸連もJSCには、サブトラックを仮設ではなく常設にすることと、同じように要望したと思います」

私「わかっているなら、絶対に変えるべきである」

陸連「新しく建設する競技場は、屋根が大きいので、今の競技場より風力の影響は半減すると思います。風が向かえば、屋根を閉めれば良いと思います」

私「それでは、陸上競技大会の時には、常に屋根を閉めることになる。東京は、基本的には4〜9月の陸上競技期間中は南風、冬は北風が吹くのです。また、晴天の時にも、屋根を閉めて陸上競技大会を開催することになる。これから30年、50年以上利用するのだから、後世の人たちから批判されない競技場にするべきである」

陸連「でも“見えない壁"があるようなのです」

私「見えない壁?」

陸連「長い歴史的な背景、更に天皇陛下が列席する場合には、現在の配置が良いようなのです」

私「天皇陛下は、年に何回競技場に来るのですか。数年に一度しか来ない人や要人のことより、選手や観客の方を優先すべきではないですか」

陸連「そうだと思うが、押し切られたみたいです。それにしても、詳しいですね」

私「自分は、当初から有識者会議メンバーに入りたかった(笑)。しかし、自分は有力者でないので選考されなかったが、世の中には自分のように有識者より詳しい人はいる。福島原発事故のように、海側に非常用の発電機を設置して、今頃になって反省している専門家がいる。それと同じように、有力者の意見が正しいとは限らない。だから、自分もわかっている以上、黙っていると後々まで悔やむ事になると考えたので、敢えて電話した」

陸連「まだ最終決定ではないので、変更の余地はあると思います。伝えておきます」

私「サッカーやラグビーなどの競技は、風向きなどは関係ない。だから陸連が頑張らなくて、どこが頑張るのですか。頑張って下さい」

更に、JSCに電話をして、担当の若い男性と下記のような対話をした。

私「昨日公表された新国立競技場の基本設計案は、素晴らしい内容である。しかし、気になる点があるので電話した。今、陸連にも尋ねたが、正面スタンド前は向かい風になる確率が高いので、今のバックスタンド側を正面スタンドにするべきである。あなたの職場は、国立競技場の隣りにあるので、気がついていると思うが、どうですか」

JSC「ええ、知っています」

私「知っているなら、変えるべきです。1991年の世界陸上選手権で、カール・ルイスが100㍍で世界新記録で優勝した。あの大会では、最初の2日間だけ追い風で、それ以外の日は向かい風になった。その意味では、あの記録は運の良い記録である」

JSC「そうだったんですか」

私「現在の国立競技場のバックスタンドと正面スタンドが入れ替えていれば、まだまだ感動的な世界記録や日本記録が樹立されていたはずです。選手が走りたくない競技場にしないで欲しい」

JSC「まだ、変更になる可能性はあります」

私「そうですか。それでは、あと2点ほど要望します。ラグビーは、よく陸上競技で試合をするが、インゴールが10㍍くらいになってしまう。本来は、20㍍くらい必要であるので、上手くトラックを覆い被せる敷物を製作して欲しい」

JSC「わかっています。そのようになると思います」

私「それは素晴らしい。それから、天然芝は太陽や風に当たらないとダメになる。想定外にならないように、最善の配慮をお願いしたい」

JSC「それに関しては、十分に配慮しているので、心配ないと思います」

私「陸連の人も、あなたと同じ氏名であった。お互い、協力し合って、素晴らしい競技場を完成させて下さい。自分は、心配であったので電話をしたが、もう二人に任せた(笑)。自分の責任は、今日の電話で果たしたので、もう電話はしない。頑張って下さい」

思い返すと、昨春から現在の国立競技場の問題点を指摘してきた。今後二度と、この問題に触れないと思う。自分の責任は、今日果たしたと思っているからである。