新国立競技場の風向きの問いに改めて説明

筆者は、陸上競技を愛するがゆえに、昨春から国立競技場の風向きの問題点を指摘してきた。そして最近、元新聞記者の知人から下記のような質問があったので、改めて説明したいと思う。

ー国立競技場の風向きとメインコースの位置関係わ?

「この40年以上、国立競技場での陸上競技大会をテレビなどで観戦したり、陸上競技の専門誌『陸上競技マガジン』や『陸上競技』などを購読して、同競技場での風向きを見てきた。その結果、ホームストレート側は、およそ8割方は向かい風になるがわかった。

それは当然のことで、陸上競技のシーズン中は南風が多いので、ホームストレート側は向かい風、一方バックストレート側は追い風になりやすい。要するに、短距離選手には絶好の追い風ではなく、最悪の向かい風になる可能性が高いのだ。

本来、陸上競技場を建設する場合、4月中旬から10月中旬の期間、そして決勝時間が多い午後3時から同8時までの時間、どの方向からの風が多いのかを事前に調査するべきである。ところが、日本の中には、全く風向きを考慮しないで建設したと思われる競技場が多くある。そうでなけば、これほど多くの競技場で、ホームストレートが向かい風になるはずがないからである。

要するに、選手の立場に立った陸上競技場建設ではなく、立地条件で建設したのだ。それは、陸上競技の本質を認識せず、陸上競技に対する“愛情が欠落"していることを意味する」

ー実際、他の陸上競技場と比べて国立競技場では記録が出ていないのか?

「はっきり言って、大きな大会が開催されている割には、新記録樹立は少ない。特に、短距離種目での新記録樹立は、断然少ない。

短距離種目唯一の世界新記録は、カール・ルイスが1991年8月の第3回世界陸上選手権大会で樹立した100㍍の9秒86(1.2)である。あの大会、テレビで観戦していたが、最初の2日間だけはホームストレートは追い風であったが、3日目からは向かい風が多くなったと記憶している。

国立競技場周辺は、夏場であっても夜になると、北風(追い風)が吹くことがある。その面では、カール・ルイスの世界新記録樹立は、“幸運がもたらした世界新記録"ということが言える。

陸上競技での風向きで、最も影響を受ける種目は、男女の100㍍、200㍍、110㍍障害である。それらの種目は、追い風が1㍍強くなるごとに、100㍍のタイムは約100分の5秒(0秒05)縮まる。更に、その他のトラック種目でも、最後の100㍍が追い風の方が好記録をアシストする。何故なら、最後の直線100㍍は、どの選手も最後の力を振り絞って力走することでスピードが上がり、空気抵抗をより強く受けるので追い風の方が良いのだ」

ー国立競技場の風向きについて触れた選手の名前とコメントの内容。新聞記事であれば、いつの何新聞か?「以前、書いた通り、日本陸上選手権男子100㍍で優勝した神野正英選手(1968〜1975年の間、通算7回優勝。現在でも歴代最多記録)のスポーツ新聞でのコメントである。また、電話で話した日本陸上競技連盟日本スポーツ振興センターの職員も、向かい風が多いことを認識していた。

更に、以前からテレビでの陸上競技の解説者(陸連関係者)も、昔から『この競技場、風が廻るんですよ』などと解説している。しかし、解説者も筆者と同じように感じているはずだが、大会を盛り上げるために、あのような“詭弁"を述べて、はぐらかしている。ある面、解説者も気の毒である。

ー以前の本文の中で『天皇陛下が列席する場合に配置がいい』とはどういうことなのか。

「多分、天皇陛下など要人は、現在と同じように『外苑西通り』という大きな道路からの入場が便利なのだろう。更に、明治神宮側に近いことや、新たに建設するサブトラックから離れているので、警備上も最良なのだろう。

しかしながら、わずか数日のオリンピック大会開催のために、今まで説明してきた現状を無視して建設するべきではない。末永く日本スポーツ界の聖地として、多くの選手や国民に愛されるためには、出来るだけ完璧に競技場を完成させるべきである。

ー陸連関係者は、どう考えているのか?

「陸連関係者も、陸連は国立競技場を運営している独立センター側に対して、風向きについて伝えたと言っている。という訳で、陸連も筆者と同じ認識を持つていると思う。しかし、陸上競技の本質を知らない有識者が、天皇陛下明治神宮、歴史的な背景などを持ち出して、現在の配置で押し切ろうとしているようだ。これが陸連関係者がいう“陰の力"ではないかと推測している」

陸上競技に詳しいスポーツ評論家などは、どう考えているのか?

「新聞、雑誌、テレビなどのマスコミは、この問題を全く取り上げていない。また、何らかの評論家も、この問題に触れたことがない。

マスコミが報道することは、いつも新国立競技場の大きさや、建設予算のことばかりである」

以上が筆者の回答である。

これだけ明らかな事実を、なぜ故に筆者だけが、多くの日本国民に訴えなければならないのか。筆者は、ただ単に陸上競技を趣味にして、長年国立競技場を見続けただけの人間である。しかし、新たに建設される国立競技場が、以前の競技場と同じ“欠陥"を持つて完成されることは、どうしても我慢が出来ない。また、末代の人たちから批判されることを知っていながら声を上げないことは、自分自身を裏切ることに繋がると考えた。だから、あえて何回も訴えているのだ!