JR北海道の苦悩はいつまで続くのか

国土交通省は7月27日、JR北海道に対して2019、20年度の2年間で、総額400億円程度の財政支援を行うことを発表した。この内容は、「JR北海道の経営改善について」という形で発表されており、我が輩もネットで読んでみた。

その主な支援策は、次の通りである。

①利用が少ない線区における鉄道施設及び車両の設備投資及び修繕に対する支援

②貨物列車の運行に必要な設備投資及び修繕等に対する支援

青函トンネルの維持管理に対する支援

④経営基盤の強化に資する前向きな設備投資に対する支援

ーというもので、①〜③は全額助成、④は助成2分の1、無利子貸付2分の1で支援する。支援総額は400億円台で、具体的な金額は今後確定するという。

そのほか、JR北海道が一昨年11月に、「単独では維持困難」と公表した13区間(1237・2キロ)に対しては、5区間(札沼線北海道医療大学新十津川駅間、根室本線富良野新得駅間、留萌線の深川ー留萌駅間、石勝線の新夕張夕張駅間、日高線鵡川様似駅間)は、国の支援を打ち切り、バスへの転換を求めた。それ以外の8区間(宗谷本線の名寄ー稚内駅間、石北本線新旭川ー網走駅間、根室本線の釧路ー根室駅間、同本線の滝川ー富良野駅間、室蘭線の沼ノ端ー岩見沢駅間、釧網線東釧路ー網走駅間、日高線の苫小牧ー鵡川駅間、富良野線富良野旭川駅間)については、北海道及び沿線自治体の財政支援などの条件が整えば、国の支援を前提に当面存続する方向という。しかしながら、国交省の文章には、下記のような厳しい内容が書かれている。

〜利用が少なく鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区においては、平成31年度及び平成32年度を「第1期集中改革期間」とし、JR北海道と地域の関係者が一体となって、利用促進やコスト削減、実証実験や意見聴取などの取組を行い、持続的な鉄道網の確立に向け、2次交通も含めたあるべき交通体系について、徹底的に検討を行う。その際、国は交通体系のあり方の検討を行う地域の関係者に対して、必要な支援を行う。その上で、「第1期集中改革期間」の検証を行い、着実な取組が行われていることを前提として、平成33年度から平成35年度までの「第2期集中改革期間」に移行するとともに、第1期集中改革期間の検証結果を第2期集中改革期間における取組に反映する。

JR北海道と地域の関係者は、集中改革期間における取組の結果を毎年度検証し、最終年度(平成35年度)には総括的な検証も行う。その際、利用者数等の目標に対する達成度合い等を踏まえ、事業の抜本的な改善方策についても検討を行う。

要するに、最終年度(平成35年度)終了後の総括的な検証の結果、これらの8線区の中には路線廃止もありえるというのだ。この内容には驚いたが、そう言えば、島田社長が最近、「8線区も経営改善しなければ廃線もありえる」と述べて、知事や道議会に対して弁明していたが、島田社長というか、JR北海道の本音が出た発言であったのだ。

それにしても、これほどまで、なぜ故にJR北海道をいじめるのか。確かに、JR北海道の最大労組「北海道旅客鉄道労働組合」(JR北海道労組、約5530人)の執行部の一部が、暴力革命を肯定する過激派「革マル派」といまだに密接な関係にあることは認める。しかしながら、JR北海道を取り巻く問題点は、これだけだと思うのだ。それにも関わらず、単独で維持出来ない路線の鉄道施設の修繕などでは、地方自治体にも相当な負担を求めており、今後地元負担のあり方が焦点になるという。地元自治体からは「地域の負担に関する法的根拠が明確でなく、地方自治体が国と同水準の支援を行うことを前提としている」という批判が出ているが、全く持って理解出来る発言だ。

地方にとって、鉄道がなくなって栄えた地域はなく、さらに人口減少に拍車がかかり、街は沈んで衰退する。それがわかっていながら、国は最もらしい政策を打ち出し、根本的な問題に取り組もうとしていない。基本的なことは、北海道には鉄道網が必要なのか否か、また、人口密度が低く、さらに人口減少が著しい道東や道北に、鉄道網が必要であるのか否かという問題だ。

ネットで「朝日新聞」北海道版(7月30日付け)を見たが、そこには「国はJR北海道に何度も支援をしてきた」ということで、その事実関係を掲載していた。

○1987年度→国鉄分割民営化に伴い経営安定基金を交付=6822億円

○1997〜2016年度→経営安定基金の運用益を下支え=2787億円

○2011〜31年度→経営安定基金の実質的な積み増し=2200億円

○2011〜16年度→老巧施設の更新など設備投資支援=600億円

○2016〜18→安全のための設備投資と修繕に対する追加支援=1200億円

○2019〜20→赤字路線の修繕や青函トンネル維持管理など経営自立支援=400億円台

以上の支援状況を見ると、JR北海道の自立経営は難しいことが良く解る。そして、沿線自治体の支援を要求しているが、沿線自治体のほとんどは、自主財源は少なく、交付税補助金自治体運営をしているのが実態である。例えば、平成30年度のオホーツク総合振興局18市町村の普通交付税額は約686億円(北見市約165億円、網走市約56億円)で、本土の市町村に比べて、相当恵まれた支給額になっている。その意味では、国費を投入した自治体から、再び国費を取り上げる政策が、果たして正しい政策であるのか、と言いたいのだ。

最近、河出文庫「辺境を歩いた人々」(著者=宮本常一)という本を読んだ。その中に、総理大臣であった伊藤博文が、外国から帰ってきた直後の発言がある。

「日本は外国に負けないだけの施設を作って、早く外国と肩を並べられるような国にならなければならない。そのために、沖縄などにかまっている隙はない」

この発言、どこかで聞いた発言だ。そうです、明治初期に黒田清隆(開発次官)が「北辺の樺太を手放して、北海道開拓に力を集中することが長期にわたる国益につながる」として、「樺太放棄・北海道防衛」論を主張し、ロシアとの間で「樺太千島交換条約」を締結した。つまり、日本人の辺境に対する重要性や、領土に対する考えが、ロシア人と相当ずれている感じを受ける。ロシアは、膨大な領土を維持するために約九千キロのシベリア鉄道を維持し、それに対して、たかが千キロの路線維持で、日本では大騒ぎである。我が輩は、その意識を変えない限り、これからもJR北海道の経営問題が、大きな政治課題として後世まで引きずる可能性を感じている。要は、昔から訴えていることであるが、JR北海道は国費で支えるしかないのだ。