北朝鮮情勢を見事に分析した前駐米大使

筆者は、年初から朝鮮半島での軍事衝突を予想して、自分なりに新聞や雑誌を読んだり、東京での北朝鮮勉強会に足を運んだ。その中で、10月18日開催のフォーラム「新たな北朝鮮の脅威と日米同盟」(読売新聞社共催)での、前駐米大使・藤崎一郎の講演内容は、今の北朝鮮を巡る情勢を見事に分析・解説している。そこで、この講演内容が、昨日の「読売新聞」に掲載されたので、全文転載する。

ー制裁強める大事な時ー

私は、北朝鮮に関する「四つのノー」「四つの間違い」を申し上げたい。

まず「米国が軍事手段を使うと困る」と日本が言うのは間違いだ。「金正恩(朝鮮労働党委員長)対トランプ(米大統領)ではなく、本質は「国際社会対金正恩」であることを見失ってはならない。

今はチキンゲームの最中だ。「しっかり守る」と言う米国に、同盟国が「軍事手段は困ります」と声高に言えば、喜ぶのは金正恩だ。我々は、じっと我慢の子である時だ。

第二に、北朝鮮が米国と交渉したがっていると思うと、大変な過ちを犯す。約束を一切守らない国が米国の約束を信じて武装解除するとは考えにくい。

ただ、北朝鮮も自分たちが米国などを攻撃すればおしまいだと知っている。今は時間稼ぎをしながら軍備増強を続いている。そこをどう抑えるかだ。

三つ目の間違いは、「もうここまで来たら、北朝鮮を核保有国と認めるのが現実的ではないか」という議論だ。核拡散防止条約(NPT)上、核保有国と正式に認められれば、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けない立場になる。

国際安全保障理事会の決議に9回も違反した国を認めれば、今後は誰も国際社会の規範などに従わない。やり得になってしまう。

四つ目の間違いは、「制裁は効かない」という議論だ。9月の安保理決議で初めて石油と石油製品に手が着き、意味ある制裁が始まった。中国も(制裁履行に)本腰が入ってきた。世界中で北朝鮮大使の国外追放や制裁強化の方向が強く出ている。北朝鮮の貿易の9割を占める中国がしっかりやる限り、相当の効果がある。

今が勝負所だ。全ての選択肢がテーブルの上にあると言いつつ、制裁を強める大事な時だ。日本は今まで以上に強い立場にある。

短い文章の中に、直面する北朝鮮危機の本質を見事に解説している。特に、北朝鮮危機の本質を「国際社会対金正恩」としていることや、国連安全保障理事会の決議に9回も違反した国家に対する見方は、良く理解出来る点だ。これほどまで、鮮やかに北朝鮮問題の本質を分析・解説するとは、さすが、駐米大使を務めた人物と思う。

このほか、北朝鮮危機に関しては、桜井よしこ氏が「週刊新潮」(10月26日号)の「日本ルネッサンス」のコーナーで、注目すべき文章を掲載している。

ー政府中枢にいる人物が匿名で語った。

「米軍の攻撃は今年末から来年早々だと思います」

同じく匿名で自民党幹部も語った。

「米軍の攻撃は2日で完了すると、日本に伝わってきています」ー

また、小野寺防衛相も、衆院選期間中の演説(15日)で、「今年の暮れから来年にかけての軍事衝突の可能性」を示唆したという。

何度も、軍事衝突の可能性を言っていると、まさしく“狼少年"になるが、平和ボケした日本人に緊張感を持たせ、さらに「備えあれば憂い無し」という気持ちにさせるので、あまり問題にはしたくない。さらに、差し迫った危機を危機として捉えたくない人たちに対する、責任ある警告にもなると思う。つまり、桜井氏の記事内容は、重要なインテリジェンスなのかもしれないのだ。