今春から北海道北見市の深刻な財政難が報道されていたが、市の財政は2025年度で基金残高が底をつき、26年度から毎年30億円程度の収支不足に陥るという。そのため、10月27日投開票される衆院選でも争点となっているようなので、まずは順を追って地元紙「北海道新聞オホーツク版」の記事4本を紹介する。
①5月14日付「北海道新聞オホーツク版」
ー道筋見えぬ北見市財政健全化ー
北見市の財政健全化への道筋が見えない。財政規模に占める借金の割合は、道内の市で財政再建団体の夕張市に次いで大きく、歳出削減は待ったなし。辻直孝市長は来年度以降の予算の見直しに関し、2027年度完成予定の端野図書館の建設費も「ゼロベースで見直す」と明言したが、具体策は乏しい。専門家は「公共施設の統廃合など踏み込んだ判断が必要」と指摘する。
「端野図書館の建設費は25年度の予算編成の中で改めてゼロベースで判断していきたい」。4月22日の定例記者会見で、歳出削減の必要を問われた辻市長はこう説明。既に計画がスタートしている事業も対象とし、例外なく歳出を見直す考えを強調した。
背景には深刻な財政悪化がある。北見市の財政規模に対する借金残高の割合を示す将来負担比率は143・8%(22年度)。早期健全化基準に相当する350%は下回るが、道内の市の中で夕張市の220・7%に次いで高い。市の財政規模に対する借金返済額の割合を示す実質公債費比率は11・1%(同)で、道内人口上位10市の中で最も高い。
財政課は「インフラ整備や合併特例債を活用して建設した施設の借入金が大きい」と説明。06年の合併以来、自治区ごとの施設整備を積極的に進めてきたことが大きいとみられる。
今後の見通しも不透明で、25~28年度の収支不足は計102億5100万円に上る見込み。人口減少で歳入確保は難しさを増す一方、電気料金や建設資材の値上げが続き、厳しい環境だ。(以下、省略)
※新端野図書館ー現端野図書館と同じ屯田の杜公園内に整備。総事業費は12億円を見込み、25年度からの着工を予定する。市は本年度予算に調査や設計費として4380万円を計上し、同じ敷地内のウォーターパークも一体整備する計画で、図書館と合わせ計15億円に上る見通し。
②9月1日付「北海道新聞オホーツク版」
ー長寿祝い金 厚遇一転全廃へ/北見市財政難で見直し案ー
【北見】深刻な財政難を背景に、北見市が「長寿祝い金制度」を中心とした敬老事業を3年後にほぼ全廃するなどの見直し案を打ち出している。年齢に応じた3回の祝い金と100歳以上への祝い品を贈る制度で、道内主要市では極めて手厚く、照準を定めた。7千万円以上の削減効果を見込むが、物価高で負担が増す中、高齢者の反発の声は強く、市の目算通り進むかは不透明だ。
「ほかに削る部分があると思う。祝い金を楽しみにする高齢者の存在を忘れないで」。来年に祝い金3万円の対象となる市内の無職男性(86)は見直し案に憤る。
長寿祝い金制度は旧北見市が2004年にスタートし、06年の1市3町による合併以後も踏襲してきた。現在、数え年で77歳に1万円、88歳に3万円、99歳に5万円の祝い金を贈呈。100歳以上に祝い金を毎年贈っている。計3回の祝い金は道内の10万人以上の市で最多だ。23年度の対象者は計3029人、費用は5190万円。高齢化の進行により、19年度比で約750万円増と年々膨らんでいる。
さらに毎年9月、数え年77歳以上を対象に敬老会を実施。花束など記念品を贈り、23年度の費用は2225万円かかった。長寿祝い金制度と合わせ、敬老事業費は総額7415万円に及ぶ。
市が敬老事業見直しにかじを切ったのは、財政難が理由だ。2月策定の中期財政計画では、人件費や扶助費の増加に加え、各種基金が底をつき、26年度以降に毎年30億円規模の財源不足となる見通し。大規模な経費削減策が必要で、総事業費12億円の図書館新築計画のゼロベースでの見直しや非正規公務員の大幅削減も検討している。(以下、省略)
③9月13日付「北海道新聞」電子版
ー満期の非正規666人雇い止め 北見市24年度末 事務補助職の採用大幅減へー
北見市は13日の定例市議会で、非正規公務員(会計年度任用職員)のうち、本年度末に雇用上限の5年に達する666人を雇い止めにすることを明らかにした。来年度、再び公募を行い、選考に通った人は雇用する。このうち、事務補助職約90人全員を削減する当初の方針は撤回したが、経費削減策として人員配置の見直しを進めており、採用は狭き門となる見通しだ。
「上司からは来年度、公募があるか分からないと言われた。正職員が足りないことを理由にさまざまな仕事を押しつけくせに、最初に弱い立場の人を切り捨てるのは許せない」。本年度末で5年の期限を迎える50代女性(事務補助職)は、怒りをあらわにする。
市の会計年度任用職員は4月時点で約1100人。採用制度が始まった2020年度以降、人数はこの水準で推移している。北見市は雇用期間の上限を5年としており、職員が雇用の継続を希望する場合、改めて採用試験を受ける必要がある。
来年度、公募される会計年度任用職員のうち、大きく削減されるのが窓口業務やデータ入力を担う事務補助職だ。市はこれまでの各課採用を見直し、総務部庶務支援課が一括管理。各課の仕事量に応じ、職員を派遣する仕組みに改めることで、採用人数の抑制を目指す。
会計年度任用職員を巡っては、不安定な雇用形態や収入の低さから「官製ワーキングプア」との批判がある。これを受け、国は6月、雇用上限などの制限を撤廃し、選考なしで継続雇用できるよう改めた。
ただ、北見市は雇用上限は撤廃しない考えで、11~13日の一般質問で市議から懸念の声が相次いだ。
自民党系会派の次代、共産党、立憲民主党系会派の市民・連合クラブの3会派4人が「財政健全化のための見切り発車だ」「職員の欠員が続く中で仕事が回るのか」などと、市の対応を疑問視。阿部実総務部長は13日の一般質問で「任期ごとに客観的な能力実証を行う必要がある」などと理解を求めた。
市の会計年度任用職員のうち、資格が必要な保健師や保育士は応募が少なく、任期満了を機に企業や近隣自治体に人材が流失する恐れもある。大規模な雇い止めは市民サービスの低下にもつながりかねないだけに、市には丁寧な説明が求められる。
④10月18日付「北海道新聞オホーツク版」
ー衆院選2024〈争点の現場を歩く 衆院選12区〉自治体合併 財政優遇、今は負担にー
「将来世代に負担を残せない」。今月2日、北見市役所で開かれた市の第三者委員会を訪ねると、村田美樹委員長=北見工大教授=が、多数の公共料金使用料の値上げが避けられない実情を強調していた。
市では今年、巨額の収支不足が急浮上。2025~28年度の不足額は計102億5千万円にも上る。収支不足を穴埋めしてきた「基金」は来年度に枯渇し、単年度で一般財源30億円の削減が急務。大きな要因が自治体合併だ。
■次々に施設整備
06年の1市3町の合併で全道一広いマチに。「平成の大合併」で国が設けた財政優遇措置を利用し、図書館や市庁舎などを次々整備した。1人あたりの公共施設の延べ床面積は7・6平方メートル。道内10万人以上の市で最大だ。施設管理の人件費や燃料代が重くのしかかる。
加えて、人口は合併当初の12万9千人から1万9千人減少。広大な面積をカバーする除雪や道路維持、ごみ収集など生活インフラの経費は増す一方だ。市幹部は「旧3町の顔色を気にして、施設を造るばかり。施設の統廃合など痛みを伴う決断をしなかったツケ」と自戒する。
マチの機能をどうスリム化して、身の丈に合わせるか。人口減少社会における自治体の使命だが、跡地活用が未定の公共施設の解体に対し、国の補助メニューが少ないのも議論が進まぬ理由だ。(以下、省略)
実は吾輩は、2014年4月12日付けで「北見市と我孫子市との予算を比較して」、19年4月18日付けで「北見市の新カーリング場建設で思考したこと」と題して、恵まれた北見市の一般会計予算の実態を紹介した。それに対し、北見市民と思われる人から「何も知らない外部の者が、北見市のカーリング場建設にいちゃもんを付けるな」旨のお叱りを受けたが、決して北見市の公共事業にクレームを付けたわけではなく、ただ単に「羨ましい、羨ましい」と感じたことを書いたまでだ。
それでは改めて、北見市と千葉県我孫子市(約13万1千人)の23年度決算を比較してみると、収入総額は北見市774億2千万円、我孫子市463億4千万円、市税は北見市151億7千万円、我孫子市177億8千万円、地方交付税は北見市204億1千万円、我孫子市59億4千万円で、一方の歳出の民生費は北見市256億円(職員給与費は55億円)、我孫子市210億1千万円、土木費は北見市74億3千万円、我孫子市27億4千万円、議会費は北見市2億8千万円、我孫子市2億9千万円である。人口規模がほぼ同じ自治体であるにも関わらず、北見市の除雪委託費約9億8100万円があるが、それでも北海道と本州の自治体の予算規模がこんなにも違うのだ。如何に、北海道の自治体は国からの補助額が多いことがわかる。
続いて「平成の大合併」について触れたい。なぜなら、北見市は「平成の大合併」で国が設けた財政優遇措置を利用したことから、現在の財政難を招いているからだ。国は、市町村の行財政基盤の強化と行政の効率化を目的に、00年(平成12年)4月施行の「市町村の合併の特例に関する法律」の改正を行い、その結果、00年から09年(平成21年)までで3232を数えた市町村が1771へとほぼ半減した。そこには市町村に対する財政優遇政策があったからで、当時から公債費増加などの影響により、非合併市町村よりも合併市町村の方が経常収支比率は悪化するという見方はあった。それに該当するのが北見市になってしまったというわけである。