久しぶりに、オウム真理教について書く。新聞報道(11月8日付け)によると、オウム真理教に対する団体規制法の観察処分の期限が来年1月末に切れるのを前に、公安調査庁は今月中にも3年間の延長を求める請求書を公安審査委員会に提出(6度目)するという。過去のオウム真理教は、教団主流派「アレフ」(約1500人)と分派「ひかりの輪」(約150人)に加え、新たにアレフから分裂した集団の3組織が存在するという。特に、2015年以降にアレフから分裂した集団(約30人、金沢市)は、女性元幹部を中心に、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚への信仰を前面に出しているという。つまり、オウム真理教の残党グループは、未だに集団をなして存在しているのだ。
そうした中、2〜3日前に柏市内の古書店で、雑誌「日本の論点'97」(発行=文芸春秋、発行=1996年11月10日)を見たところ、「オウム破防法適用は正しいか」の項目で、2人の弁護士が正反対の法律論を展開していた。そこで、前記の雑誌に掲載されている記事を紹介する。
最初は、破防法適用賛成の河上和雄弁護士(1933年生、東大法卒、元東京地検特捜部長)の「破防法は市民を守る法律ーオウムへの適用は国家の義務である」からの抜粋である。
○国家が何らの自衛手段を持てないようでは国民全体の幸福を守ることはできない。オウムの本質は宗教の皮を被ったテロ集団にしか過ぎない。…今後も引き続き同じような行為をする明らかな危険性があれば、その団体を解散させ、その構成員が団体のために不法行為をする危険のある限り、これを規制するのは国家として当然である。
○破防法を適用しようとしまいと、破壊活動をする者は常に地下活動するのであって、破防法を適用して初めてオウムのための資金集めや信者獲得、アジトの確保といった行為を処罰でき、破壊活動を未然に防ぐことが可能となるのである。
○オウムを宗教として取り扱うことは羊の皮を被った狼の存在を見逃すことに通ずる。オウムに限らず、カルトの危険性は決して無視し得るものではない。…オウムの犯罪を単なる異常者の異常犯罪としてとらえてはならない。
次いで、破防法適用反対の小野毅弁護士(1958年生、東大法卒、横浜弁護会)の「オウムを壊滅させるには破防法の適用はかえって逆効果である」からの抜粋である。
○オウム真理教に対する破防法の適用には声を大にして反対せざるを得ない。その理由は、破防法の適用によって、オウム真理教は壊滅させられないからである。そして、逆に「破防法の犠牲者」として生き延びる大義名分を与えることとなるからである。
○破防法が適用されると居所を隠すようになるからである。…現在でも、教団から脱会信者から警察等による監視がひどいという相談は数多く寄せられているが、破防法適用後にはこれが公認されることになる。…せっかく教団は崩壊しつつあったのにも関わらず、破防法によって、かえって教団の結集が図られているように見受けられるのである。
○時間と共にオウム真理教は崩壊への道を辿っていくところであった。ところが、破防法が適用されては、教団を逆に強固にさせ、外部からの働きかけも困難になる。オウム真理教を崩壊させるためには、破防法では逆効果であると私たちが主張する所以である。
○「法律の核爆弾」ともいわれる破防法の適用では、かえって教団を長らえさせる結果となってしまうのである。
賢明な諸君よ、20年前の激しい“破防法論争"を思い出したか?そして、左翼系弁護士の法律論と分析は正解だったか?我が輩は、やはり河上氏の法律論の方が、説得があると考える。つまり、左翼はイデオロギー先行で、それに理屈を付けているので、どうしても先見性や想像力が劣る。
さらに言わせて貰うと、我が国のテロ対応は“国際水準"にあるのかという疑問である。つまり、首都・東京のど真ん中に、「毒ガス」(サリン)を撒くという“テロ行為"を実行した団体が、依然として東京に存在することは“日本独特の対応"ではないのか。この現実は、左翼・革新系、現在の“リベラル系"の人々の思考回路には、何の疑問も生じないのか。いつまで、このような“生ぬるい対応"をして行くのか。これは、数多くある民主主義国家の“国際水準のテロ対応"であるのか、もう一度検討するに値すると考えるが、どうか…。