北朝鮮情勢の現実を直視せよ

北朝鮮問題に関心を持っている以上、3月上旬から何らかの文章を作成したいと考えてきたが、どのような内容にしたら良いのかを思考していたら、4月の月末になった。つまり筆者は、毎年2〜4月に行われる米韓合同軍事演習中の4月15日の故金日成主席誕生日、25日の軍創設85年記念日に向けて、北朝鮮が弾道ミサイル発射や核実験の挑発行動を強行すると考えた。それを考えると、4月末から5月上旬での“米軍の先制攻撃"があるのでないか、との予想をした。しかし、予想を文章化すると、後々に「何も起きなかったではないか」とのクレームがあると想像したので、敢えて書かないことにした。

しかしながら、考えて欲しい。戦争は外交の延長上にあり、外交の最終的手段であることを考えると、朝鮮半島で戦争が始まっても何ら不思議ではない。戦後の日本は、国防に関しては米国頼みになっているためか、国際政治学者まで“軍事学"をなおざりにしている。もう25年前か、国際政治学者・舛添要一(元東大助教授)が討論番組に出演して、「昔、フランスの大学で国際政治を学んだが、欧米では国際政治学の中に“軍事学"が入っていることに驚いた」と発言していた。それだけ、戦後の日本人は“平和ボケ"し、戦争に対する認識が甘いのだ。為政者は当然のことであるが、我々国民も安全保障に対しては、最悪の事態を想定して考えるべきと思う。

ちなみに、北朝鮮では当初、人民軍創設の記念日は2月8日(1948年2月8日創設)としていたが、1978年から金日成史の改ざんに伴い、4月25日(1932年4月25日の抗日人民遊撃隊の創設)と改めた。考えてみれば、1932年というと、金日成の年齢が20歳の時であるので、どの程度の集団であったかが想像できると思う。

思い返すと、北朝鮮の核開発が浮上してからもう30年近く経過している。その間の1994年には、米国のクリントン大統領が北朝鮮の核施設に対する爆撃を計画したが、結局、計画は色々な理由から頓挫した。それ以来、何度となく米朝関係が緊張する場面があったが、一向に問題の本質が解決しない。その最大の理由は、北朝鮮が武力による“赤化統一"を諦めていないことと、それを防ごうという米韓の決意があるからだ。だから、今後も米国は北朝鮮の核・ミサイル開発を絶対に認めない。それを考えると、最終的には米軍による“先制攻撃"があっても、何ら不思議ではない。

現在の米軍の動きを見ていると、差し迫った“先制攻撃"はない感じを受ける。ある面、米軍は時間稼ぎしているのでないか。そこには、少しでも韓国と日本という同盟国の被災を軽減するという目的のほか、中国による対北制裁の実施・効果を見極めたいという思惑も感じる。現に、北朝鮮の弾道ミサイルに対するため、韓国に最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル」を早急に配備している。戦争準備には、最低3か月という時間が必要なのだ。

さて、今後の展開を多少予想したい。米国は、中国に対して対北制裁の強化を求めているが、特に中国に依存している原油・石油製品の供給停止を強く求めている。中国による北朝鮮への原油輸出は統計上、2013年の約58万㌧が最後である。つまり、貿易統計で発表することを終わらせて、裏で年間で無償支援も含めて最大150万㌧程度の輸出が続いているようだ。

冷戦時代の1980年代末を振り返ると、北朝鮮は中国から120万㌧、旧ソ連から80万㌧、その他から50万㌧の原油・石油製品を輸入していた。つまり、北朝鮮は現在でも年間約250万㌧の原油が必要である。それを考えると、裏で中国から150万㌧、更にロシアから50万㌧程度輸入していても何ら不思議ではない。現に、ロシアは北朝鮮の「万景峰号」を極東ロシアに定期就航させるなど、今でも北朝鮮への経済制裁の強化に慎重な姿勢を崩していない。中国もロシアも、対北包囲網にどこまで本気なのか不透明なのだ。

いずれにしても、米国は北朝鮮の核・ミサイル開発を食い止める効果が全くないと判断した際には、絶対に軍事攻撃を実施すると思う。米国のティラーソン国務長官は、昨日の国連安保理で「北朝鮮が東京、ソウルへ核攻撃を行う現実的な脅威がある」旨演説している。我々日本国民こそは、その現実を直視しなければならい。

それでは、米軍が先制攻撃する場合、その時期はいつ頃になるのか。先の「湾岸戦争」時のこと考えると、朝鮮半島付近に米空母が3隻出動している時ではないのか。その意味では、米空母の動きに注目するべきである。そして我々は、北朝鮮の軍事力に対して、いつまでも“楽観主義"でいてはならない。何故なら、“軍事学"の軍事的脅威を量る際の指標は、相手国の「意図と能力」にあるからだ。