空海は「秦氏ユダヤ人」の末裔か

もう30年も昔、大作家・司馬遼太郎がNHK教育番組で「平安時代初期の僧・空海(774~835)は天才で、それは混血であったからだ」という旨の発言をした。その「混血」の意味を知りたくて、5年くらい前に地元の歴史講演会に参加した際、講師と参加者に対し、この疑問を投げかけたが誰も答えられなかったことは以前に書いた。その後、友人の一人が「父親は渡来系の秦氏族、母親は阿刀氏族の阿古屋らしい」というアドバイスをもらい、長らく秦氏族に関心を持ってきた。

そうした中、1月28日付「産経新聞」に、新刊「日本にやって来たユダヤ人の古代史」の書評が掲載された。

ー「正史」見直す斬新な説が続々ー

旧約聖書』の時代から5世紀にかけて、秦氏ユダヤ人が5波に分かれ日本に渡来し、日本人に同化していったことを、実例を挙げながら論証した研究書です。秦氏ユダヤ人たちは日本の神話の登場人物となり、天皇家を支え、古墳や神社を造り、日本の文化や芸能の形成や繁栄にも関わりました。

秦氏ユダヤ人の日本への同化は、ミズラ(ペイオト)の髪形にした人々の移動ルートや、「ユダヤ人埴輪」を見ればわかると著者の田中英道氏は主張します。まあ日本とユダヤのつながりというと、日本人とユダヤ人の先祖は同じだとする「日ユ同祖論」が有名ですが、田中氏によるとそれは完全な誤りだということです。さらに、日本の多くの歴史学者マルクス主義や左翼思想にかぶれているとして批判し、古代史研究は形象学を取り入れた上で全面的に見直すべきだと訴えます。

本書は「正史」を疑う斬新な説が次々と説得的に述べられており、著者の「ユダヤ人研究」の集大成ともいえる一冊です。著者の唱える「同化ユダヤ人説」がわかりやすく書かれており、大きな反響を呼んでいます。

フランス・イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本文化や歴史の「すごいところ」を独自の視点で紹介してきた「知の巨人」が、日本の言語・文化・芸能の形成に同化ユダヤ人がどれぐらい貢献したかを明らかにした、この一書をお勧めします。

ということで、さっそく書店で新刊書「日本にやって来たユダヤ人の古代史」(著者=東北大学名誉教授・田中英道、発行所=(株)文芸社、2022年11月15日初版第1刷発行)を購入した。

それでは著者は、秦氏ユダヤ人の渡来をどのように記述しているのか、を確認したい。

秦氏は、ネストリウス派キリスト教(景教)徒であり、大陸からやって来て日本に帰化した氏族として知られています。そこで、私は「秦氏ユダヤ人」説を唱えています。ー

ー日本では秦氏蘇我氏といった渡来氏族がネストリウス派キリスト教徒だとされています。例えば、『日本書記』には、百済からの渡来人である弓月君(ゆづきのきみ)が一万八〇〇〇人ほどを率いて日本に移住してきたという記述があります。ー

ー『日本書記』では、秦氏百済からやって来たとありますが、平安時代に編纂された『新撰姓氏録』では秦氏のルーツを「漢」(現在でいう漢民族)に区分しています。つまり、より西方からやって来た人々であると認識していたことがわかります。ー

ユダヤ人の一部が日本列島に達し、もともとあった日本の文化を受け入れて同化したというのが私の考えです。私はそうしたユダヤ人たちを「同化ユダヤ人」と呼んでいます。ー

ー古代の日本にユダヤ人あるいはユダヤ系の人々が波状的に渡来し、帰化人として定着したことで、ユダヤ人が使うヘブライ語が日本語に大きな影響を与えました。〜ヨセフ・アイデルバーク(1916〜85)は訪日に備えて日本語の勉強を始めたとき、ヘブライ語と日本語との間に意味と発音が共通する言葉が数多くあることに気づきます。例えば、ヘブライ語のアッパレは日本語で栄誉を誇る。シャムライは侍、守る者。ミガトは偉大な人。ワッショイは神が来た。ワルは凶悪な者。ー

ー東国の芝山古墳(千葉県)から人物埴輪(武人埴輪)が出土しているが、これはユダヤ人やユダヤ系の人々が日本に渡来していたことの確かな証拠となります。〜かつて太陽信仰が行われていたエジプトにいたユダヤ人たちは、何度も離散するたび、その一部の人々が東へ東へと移動しました。その結果、日本にまで到達したと考えられます。ー

ということで、ユダヤ人の国家・イスラエルでは、古代にユダヤ人の一部が日本に渡ったと本当に信じでいるグループがいるという。それを考えると、受け入れ側の日本の中も、同じ考え方の学者がいても何らおかしくないのだ。

著者は、秦氏ユダヤ景教徒(あるいは原始キリスト教)であるという説を唱えたのは、言語学者の佐伯好郎であることを明らかにしている。しかし多くの学者は、古代の日本にユダヤ人やユダヤ系の人々が渡来していたということを決して認めようとしないし、議論しようとすらしないと批判しているが、吾輩もその現状は理解できる。

だが、長々と「秦氏ユダヤ人」説を説明した背景には、どちらもキーワードである“天才"の血筋であるからだ。ユダヤ人は、世界の人口の僅か0・2%に過ぎないが、ノーベル賞の約20%、フィールズ賞の約30%をとっている。そういうことで、司馬遼太郎が「空海は天才」と言ったから、必然的にユダヤ人と関係があるのではないかと考えたわけで、だからと言って著者の「秦氏ユダヤ人」説を信じでいるわけではない。

でも最近では、縄文時代弥生時代が相当時代を遡っているし、ネアンデルタール人ホモ・サピエンスが交配していたことが古人骨のDNA解析から判明している。そういうことを考えると、もしかしたら将来的にはユダヤ人の一部が日本にたどり着いたことが判明するかもしれず、興味は尽きない。