貴闘力の相撲再生計画は可能か

11月13日から大相撲九州場所が始まるが、その前に元関脇・貴闘力(鎌苅忠茂氏)が“相撲界の闇をぶっちゃける"と宣伝する著書「大相撲土俵裏」(著者=貴闘力、2022年10月19日第一刷、定価1430円)を読んだ。本の中身は、貴闘力が2020年9月から開始したユーチューブチャンネル「貴闘力部屋〜相撲再生計画〜」(チャンネル登録者数28万人)の発言とダブっているので、改めて知る内容は少なかった。しかし、発言を文字にしているので、内容を正確に把握することができた。

それでは、まずは驚くべき八百長問題から紹介する。

ー正直にみなさんにお伝えしたいのが、当時は横綱含めほとんどの力士が間違いなく八百長をやっていたということだ。

現に私は同じ世界で相撲を取ってきたのだ。新入幕の時、11勝4敗の成績で敢闘賞をもらったが、その場所で14勝1敗で優勝しているやつが5番も6番も7番も八百長をしていたのだ。その八百長がなかったら、私の結果が変わった可能性だってあると思うと、「この野郎!」と心の底で憤っていた。こんな世界、絶対なんとかしてやると思った原体験でもある。

それに現役の親方で、過去に八百長をやったことがないと胸を張って言える人間がどれだけいるだろうか。ー

こんなに、八百長の主人公を断定して良いのかと思って調べてみると、この場所の優勝者は横綱北勝海(7回目)であった。時は平成2年秋場所北勝海は東張出横綱で、貴闘力は前頭13枚であった。当時は4横綱時代、千代富士と大乃国は全休で、北勝海は千秋楽に同じ西横綱旭富士と相星決戦に勝利して優勝した。

引き続き、一度は挫折した親方株の売買問題と、国技館の案内を行う相撲茶屋(相撲案内所)制度を取り上げる。

ーちなみに、過去に年寄株を協会預かりにしようとして総反発を食らったのが先代の佐田の山さんだ。1996年に年寄名跡の協会帰属・売買禁止を打ち出したが、親方衆に猛反発されて理事長を辞任する事態となった。時代が早すぎたし、それを補填する収益が上がらないとできない施策だろう。

しかし、この先も考えると一番丸く収まるのは協会が一律の価格で年寄株を買い取って、公平な審査によって力士に年寄名跡を渡せるシステムを作るべきである。協会が利益を得るために、管理料として決まった額を支払うのもいいだろう。

年寄名跡の数は20〜30程度に絞って、部屋を持っている人だけが親方をやればよい。指導に当たる人物などは、協会員として能力に沿った給料をもらえばいいと考える。この名跡はこの一門にといった派閥ではなく、ファンがこの力士を親方にするしないを決定する権利を持つべきではないか。

もちろん賛否両論あるのは分かっているが、現状は親方になるために金とコネが必要なわけだ。心底相撲が好きな力士が親方になるべきである。お金が好きな者はそれが活きる部署に配置換えしていかないといけない。

年寄株を協会が管理することができれば、八百長をなくすことにもつながると思う。こういうシステムを本気で構築していかないと、タニマチにゴマをすりお金を集めないと親方になれない現状は変わらない。1番100万円でわざとこけて、税金のかからない金を集めて親方株を買う、そのような相撲界のままでいいのだろうか。ー

ー相撲茶屋を相撲協会が運営すれば、最低でも50億円の利益を上げられると確信している。もちろん、お茶屋さんがこれまでコツコツやってきてくれたことへの恩があることは分かる。若貴ブームの全盛期には一番後ろの席でも20〜30万円で売れたものが、相撲人気が低迷してチケットがまったく売れなくなった時代にはお茶屋さんも苦労したことと思う。

しかし、お茶屋が儲けることよりも、体を張って相撲に取り組む力士に還元されるシステムを作るほうが大切に決まっている。私はなぜ相撲協会がそのように舵を切らなかったのかが不思議でならなかった。

なぜ相撲協会お茶屋制度を廃止しないのかについては、裏で良い思いをしている人間がいるからに他ならない。

以前、お茶屋問題について2代目若乃花(元・間垣親方)に聞いたところ、間垣親方はかつて先代の初代・若乃花と初代・貴ノ花に「茶屋を廃止させるように頑張れ」と言われたそうだ。

さらに、大鵬さんや北の湖さんからは泣きながら「お茶屋を潰してくれ。仇を取ってもらいたい」と頼まれたという。

しかし、その夢が実現することはなかった。相撲協会にきちんと収入が入らないことで、相撲協会の腐敗が進んでいるのなら本末転倒ではないだろうか。ー

吾輩が、このテーマを取り上げたのは、本書の中で親方に相応しい力士がカネ集めで苦労し、その一方で親方に相応しくない力士がタニマチのお陰で親方に収まっている現実がある、と記述されているからだ。この親方株の売買(中には3億円)に関しては、過去にもいろんな問題が起きたが、いまだに闇のブローカーが暗躍しているとか、黒い噂が流れてくる。そこには、一部の人間の既得権益を維持するシステムがはびこっているからではないのか。

さらに、お茶屋制度に関しては、貴闘力は少しでも力士の給与を増やすために、無駄な外部との商取引を廃止して、自分たちがしっかりとカネを稼ぐべきだと提言している。そんなわけで、野球やサッカーなどのトッププロは億を超えている中で、横綱の年俸が3600万円に留まっている背景には、依然として金持ちの傍若無人な振る舞いのタニマチに依存しているからだと主張する。また、幕下力士の場合、年間の給与は99万円で、月給に換算すると8万円強であるが、これでは有望な若者は入門しないし、それは民主国家に相応しい実態とは言えないことからも、相撲協会は収益増に努力するべきだと訴える。

しかしながら、貴闘力相撲協会に対して、これだけ頭が痛いことをユーチューブで発信していると、96年4月14日に起きた怪死を思い出す。それは週刊誌で大相撲の暴露記事を連載し、その月の26日に外国人記者クラブでスピーチを予定していた元関脇高鉄山・菅孝之進氏と元力士・橋本成一郎氏が、同じ病院(愛知県豊明市藤田保健衛生大学病院)で、同じ病気(肺不全と重症肺炎)で、しかも同じ日に死んだことだ。だから、貴闘力のユーチューブによって、少しでも相撲改革が進むことを期待するものの、余計なことかもしれないが、身の安全が心配になってしまうのだ。