バタフライはクロールに勝てるか

スポーツ好きであるが、初めて単発で競泳について書きます。というのも、7月3日付け「朝日新聞」の子供欄に興味深い記事が掲載されていたからだ。

〈「自由形」なのに、なぜクロールー一番速いから、昔は平泳ぎだったよ〉

競泳の種目「自由形」は、名前の通り、泳ぎの型に制限はない。今は、「クロール」を泳ぐ選手が多いけど、他の泳ぎより速く泳げるから選ばれているんだ。自由形の歴史をたどると、泳ぎの進化が見えてくるよ。

自由形はスタートとターンから15㍍までに水面に顔を出せれば、どんな泳ぎでもいい。2022年1月、国内大会50㍍自由形予選で、池江璃花子選手はバタフライを泳いだよ。

自由形は、近代オリンピック第1回の1896年アテネ大会からある種目だ。当時の選手は、主に平泳ぎで競ったと言われている。平泳ぎは古代ギリシャ時代からあったと言い伝えがあるほどなんだって。

その後、次々に新らしい泳ぎが誕生する。アテネから4年後、1900年パリ大会では、自由形に加えて、背泳ぎが種目に加わった。さらにクロールが編み出されて、4年後の04年セントルイス大会では自由形の主流になった。平泳ぎはこの大会で初めて、単独種目になったよ。

泳ぎの進化をたどると、速く泳ぐためのニつのポイントが見える。72年ミュンヘン五輪金メダリストで、水泳を研究してきた田口信教さん(71)がそう教えてくれたよ。

一つは水の抵抗を減らすこと。平泳ぎでは、顔が上下する息継ぎの際に抵抗が大きくなる。そこで息継ぎをせずに済む背泳ぎが生まれたと考えられるんだって。もう一つは、水をかいて前進する力。あお向けの背泳ぎより、うつぶせで前に腕を回転させるクロールの方がより進める。

バタフライは平泳ぎから進化し、56年メルボルン五輪から種目になった。平泳ぎと比べると、水をかいて前へ進む力が大きいんだ。田口さんは「泳ぎの変化は、人間が速く泳ぐ工夫の歴史」と話す。

男子50㍍の世界記録は6月27日現在、自由形が20秒91、バタフライ22秒27、背泳ぎ23秒71、平泳ぎ25秒95。将来、クロールを超える泳ぎが生み出されれば、自由形の主流になるかもしれないね。

この記事に注目したのは、30年前か、40年前の昔、競泳専門家の「いずれ、バタフライが自由形の記録を破ることになる」という解説記事を読んだからだ。だからその後は、いつバタフライがクロールの記録を超えるのか、ということも一つの関心事として競泳を見続けてきた。ところが、相当な年月が経ったにも関わらず、一向にバタフライがクロールの記録を超えないのだ。

それでは、男女100㍍のバタフライと自由形の世界記録を、1980年、90年、2000年、10年、21年と10年間隔で見てみたい。

〈男子のバタフライと自由形の記録変遷〉

○54秒15…52秒84…51秒81…49秒82…49秒45

○49秒44…48秒42…47秒84…46秒91…46秒91

〈女子のバタフライと自由形の記録変遷〉

○59秒26…57秒93…56秒61…56秒06…55秒48

○54秒79…54秒73…53秒77…52秒07…51秒71

ということで、この40年間で、男子は4秒31から2秒54、女子は4秒47から3秒77まで記録が縮まっているが、逆転するまでには至っていない。この現状を見ると、まだまだ相当の期間はクロールが自由形の主流になって行くようだ。

しかしながら、人間は陸上の生き物で、競泳の歴史が浅いことを考えると、新たに速く泳げる泳法が発見されてもおかしくない。例えば、陸上競技走り高跳びでは、1968年のメキシコ五輪で米国のディック・フォスベリーが、背中から飛ぶ「背面飛び」という驚きの飛び方で優勝してしまった。あの時の驚きは、歴史が浅い競泳にあっても何らおかしくないと考えている。

だが、これだけ泳ぎが研究されて、新しい泳ぎ方が出てこない現状を見ると、吾輩が生きているうちにクロールを負かす泳ぎはバタフライしか見当たらない。そう考えると、精々バタフライを泳ぐ選手には頑張ってほしいと思うのだ。