TXの茨城県内延伸案は来春に決まる

茨城県は、東京・秋葉原駅と茨城・つくば駅を結ぶ、つくばエクスプレス(TX、2005年開業で、東京都と茨城、千葉、埼玉県と沿線自治体、民間企業が出資する「首都圏新都心鉄道」が運行)の茨城県内延伸を実現するために、今年3月の県議会に調査検討事業費1800万円を初めて盛り込んだ。延伸案では、①筑波山方面②水戸方面③茨城空港方面④土浦方面ーの4方面案が候補に挙がっている。その各案を巡っては、それぞれに期待があるようで、

筑波山を軸にした観光振興

②県庁所在地の水戸とつくば両市を結んだ上での県北振興

③首都圏の空港として存在価値が高まることでの経済発展や観光振興

常磐線と接続することで、交通利便性が飛躍的に向上する

というもので、年度内に延伸案を一本化する方針という。

そうした中で、鉄道の歴史に詳しい政治学者・原武史が「朝日新聞」(6月25日付け)の連載「歴史のダイヤグラム」の中で触れている。

〈TX延伸への期待〉

1932(昭和7)年に起こった五・一五事件は、犬養毅首相を暗殺して政党政治を終わらせたテロとしてのイメージが強い。しかしこの事件では、東京府内にあった六つの変電所を同時に襲撃し、帝都を暗黒にする計画も立てられていた。

この計画は、茨城県の水戸郊外で農本主義者の橘孝三郎が主宰する愛郷塾という私塾で発案された。当日は「農民決死隊」を名乗る塾生が変電所を襲ったが、変電所内の設備の一部を破壊しただけで停電はなかった。

なぜ電気が狙われたのか。当時の鉄道事情を探ってみると、興味深い事実が浮かび上がる。東京から北関東方面には、常磐線東北本線高崎線が延びていたが、いずれも非電化路線だった。一方、東京と栃木県や群馬県を結ぶ東武鉄道はすでに電化されていた。だが茨城県には、県内を結ぶ中小私鉄はあっても、東武に相当する私鉄がなかった。このため電化の恩恵が東京から及ばなかったのだ。

橘は、「只今の世の中は俗に申せば何でも東京の世の中です。(中略)兎に角東京のあの異状な膨大につれて、それだけ程度農村の方はたゝきつぶされて行くといふ事実はどうあつても否定出来ん事実です」(『日本愛国革新本義』)と述べている。電化の恩恵が及ばない茨城県に住んでいたからこそ、逆に東京の「異状な膨大」に敏感にならざるを得なかったということはないだろうか。

戦後も茨城県は、栃木県や群馬県に比べて鉄道が不便な状況が続いた。上野から土浦や水戸などまで常磐線が電化されたのは、61年なってからだった。栃木県や群馬県には新幹線の駅ができたのに対して、茨城県にはない。宇都宮や高崎からは池袋、新宿、渋谷に一本で行ける湘南新宿ラインが出ているが、水戸や土浦からは出ていない。せいぜい、常磐線の起点が上野から東京、新橋を経由する品川に移ったくらいだ。

そう考えると、茨城県が2022年度の予算に1800万円を計上し、秋葉原ーつくば間を最速45分で結ぶつくばエクスプレス(TX)の延伸をもくろんでいるのもよくわかる。延伸のルートをめぐって土浦や水戸などの自治体が名乗りをあげているが、新幹線でもリニアでもない鉄道の誘致にこれほど熱心になること自体がいまでは珍しい。

江戸時代の水戸藩は、尾張紀州と並ぶ御三家の一つだった。だが明治以降、茨城県は東京を中心とする鉄道網からしだいに取り残され、東北・上越新幹線湘南新宿ラインの開通がそれに拍車をかけた。TXが延伸すれば、東京につながるもう一つの線がようやく茨城県のつくば以北に延び、常磐線と競う合うことになるだろう。

言われてみれば、確かに茨城県は北関東の中で唯一新幹線が通っていないし、私鉄も中小企業が多いので、必然的に公共交通を維持する経営環境は厳しい。また、地方では人口減少により輸送人員が減っているし、自家用車を使った移動が増えているでなおさらだ。そうした中で東京に出る場合、常磐線を利用するしかないし、TXの場合には県南の一部住民しか利用できない現実を考えると、茨城県にとっては必然的にTXの県内延伸は非常に重要な公共事業になる。

吾輩の居住地付近をTXは走行しているし、昔水戸市に居住したこともあるので、ネットでTXの茨城県内延伸案を知った時(4月7日)には必然的に関心を持ったものだ。しかし最終決定者は茨城県民であるので、興味深く傍観するつもりであったが、原氏の文章を読んだことから吾輩も見解を書くことにした。

まずは少なくとも、TX延伸は茨城県の住民だけではなく、首都圏の住民にとってもメリットになる延伸にしてほしい。そこで茨城県の地図を広げると、やはり土浦駅北方〜茨城空港水戸駅までを目指すルートが、最も多くの県民にメリットを与える感じを受ける。だが、このルートでは膨大な建設費が掛かるし、また現在の常磐線で土浦以北の乗客数が激減しているという話を聞くと、やはり無謀な計画に感じる。

そう考えると、やはり土浦駅付近を経由して、茨城空港を最終地点にする延伸が一番現実的な案となる。これが実現すると、都民も千葉県民も大いに利用することが予想できるので、建設費が不足するのならば、財政規模が大きな東京都と千葉県にも負担してもらうべきだ。また、TXを通勤に利用している柏市居住の友人が「沿線の人口が増えていることから、最近とみに混み方が酷い」と言っているので、なおさら一部負担してもらうべきだ。