北海道の海産物の旨さと北方領土

最近、新刊書「北海道を味わう」(著者=小泉武夫東京農業大学名誉教授、中公新書)を読了したが、取り上げられた食材のうち、どのくらい食したかと考えながら読んだ。本書では、北海道の海産物と農産物を取り上げ、その旨い食べ方や旨い飲食店が紹介されているが、今回取り上げたのは北方領土と関係が深い海産物だけにした。

ーニシン(鰊)、シャコ(蝦蛄)、ホタテ貝、ホッキガイ(北寄貝)、トキシラズ(時不知)、マスノスケ(鱒之介)、マツブ(真螺)、スナガレイ(砂鰈)、エゾメバル(蝦夷目張)、ベニズワイガニサクラマス、北海シマエビ、ウニ(雲丹)、カスベ、利尻昆布羅臼昆布、毛ガニ、ハナサキガニ(花咲蟹)、タラバガニ(鱈場蟹)、スルメイカ、シロザケ(白鮭)、銀毛鮭、ベニザケ(紅鮭)、マホッケ(真○)、キタノホッケ(北○)、シシャモ(柳葉魚)、サンマ(秋刀魚)、エゾアワビ(蝦夷鮑)、モクズガニスジエビ、カキ(牡蠣)、キンキ、マダラ(真鱈)、スケトウダラ(介党鱈)、ナメタガレイ(滑多鰈)、マツカワ(松皮あるいは松川)、ハッカク(八角)、ワカサギ(公魚)、ホテイウオ(布袋魚)、ヒラメ(鮃)、トゲカジカ(棘鰍)ー

以上の海産物は、本書が取り上げたものであるが、どれもこれも思い出すと涎が出てくる食材である。だが、そこにはロシア産に依存する海産物もあり、今後のウクライナ戦争の展開次第では、輸入できなく品目もある筈だ。

以前、題名「長期戦でチャンスを待とう北方領土!」(2016年12月18日)を書いたが、そこでは北方領土を含む千島列島を不法占拠されたことで、経済的に悲惨な状況に陥っていく根室市のことと、さらに「いずれかの日に、ロシアは好戦的な体質から自ら墓穴を掘ると見ている」という先見の明がある文章を書いた。そこには、昔読んだ書物で「戦前の漁獲量は、北海道よりも千島列島の方が多い年もあった」という記憶と、北方領土を“絶対に取り戻す"という気持ちで書いたものだ。

ネットで、ウクライナ戦争が激しくなってきた3月18日の「朝日新聞」に、「本日、根室市の花咲港に北方領土から活ウニがロシア船で運ばれてきた。花咲港の輸入の大部分は北方領土産からなる活ウニで、昨年の取扱高は69億円近くに達し、輸入総額の97%を占めている」という記事を発見した。活ウニのほとんどは北方領土周辺で漁獲されたもので、これを日本側が買い取ることで、ロシア人の定住に貢献している現実を知ると、無性に腹が立った。また、1975年頃の夏休みに納沙布岬から見たロシア人のウニ漁を思い出したこともある。

その後、ちょうどいい時期に左翼週刊誌「週刊金曜日」(4月1日)に、ロシアから輸入している水産物の統計(農林水産物輸出入情報〈2021年1月〜12月累計より〉)が掲載された。それによると、昨年1年間の輸入水産物(生鮮・冷蔵・冷凍)の総額は、ロシアが第1位で約1368億円、第2位はチリで約1326億円、第3位は米国で約1246億円であった。

次に、ロシアへの依存度が高い水産物を紹介すると、

○紅ザケ…第1位ロシア(150億6600万円)

○ギンザケ…第1位チリ(648億1685万円)、第2位ロシア(1億108万円)

○マダラ…第1位ロシア(33億2587万円)

○タラ(冷凍すり身)…第1位米国(362億1572万円)、第2位ロシア(11億157万円)

○キンメダイ(冷凍)…第1位クック(6億6724万円)、第2位ニュージーランド(4億3777万円)、第3位ロシア(2億8125万円)

○ニシン…第1位米国(27億9743万円)、第2位ロシア(6億9524万円))

○タラの卵…第1位ロシア(130億7038万円)

○タラバガニ…第1位ロシア(108億3577万円)

ズワイガニ…第1位ロシア(266億5297万円)

○毛ガニ…第1位ロシア(4億9263万円)

○ウニ…第1位ロシア(91億7402万円)

以上の水産物の中で、ロシアに不法占拠された千島列島での漁獲割合は判明しないが、それなりの割合を占めていることは間違い。そう考えると、如何に千島列島を失ったことが、日本人の味覚を奪ったかを“味わって"ほしいのだ。

日ロ間では、1998年に結ばれた協定に基づき、毎年「日ロさけ・ます漁業交渉」、「貝殻島コンブ交渉」、「日ロ地先沖合漁業交渉」、「安全操業」(国後島の沿岸から12カイリ内で日本漁船が操業できる)の4つの「漁業交渉」がある。このうち、最近注目されたのが「日ロさけ・ます漁業交渉」で、例年4月10日に解禁されるが、今年はウクライナ戦争の影響でいまだに交渉・妥結(昨年の漁獲実績は652㌧で、支払額は2億6000万円)に至らず、出漁できない状況にある。この妥結で穫れる“さけ"に関して、本書の中で次のように書かれている。

ー〈若くて豊満なトキシラズ〉

サケ(鮭)は北海道の川で孵化した後、海で四年過ごし、産卵のために生まれた川へ再び戻ってくる。その季節は秋で、川に戻る途中に北海道の沿岸などで穫られたのがアキアジ(秋鮭)と呼ばれ、これが一般的なサケである。これに対し、ロシア極東のアムール川で生まれ、回遊の途中で北海道の沿岸で漁獲されるのが「トキシラズ」(時不知)である。春、産卵の準備がまだ整っていない状態で捕獲されるので、脂肪や栄養分が卵巣や精巣に消費されず、身の方に滲み込んでいる。そのため身には脂肪がたっぷりとのっていて、実においしいのである。また、若いサケなので身に軽快なうま味があり、鱗や皮が薄くて柔らかく、体表全体が銀色に光り輝いている。ー

また、4月10日付けの「毎日新聞」には、

ー春先から初夏にかけて日本の排他的経済水域(EEZ)内に回遊して来るサケ類の9割以上は、ロシアの川で生まれものとされる。1992年以降は、日本200カイリ内の小型サケ・マス漁もロシア側に漁業協力費を支払う形で行われるようになった。ー

と書いている。

何だー、カネを支払って操業させてもらっているのかという感じであるが、トキシラズに関しては、食したことはあると思うが、はっきりと「トキシラズ」と理解して食した記憶はない。いずれにしても、日本人にとって、非常に重要な“サケ漁"すら自由に操業できない現実を知るべきだ。

話をもう一度戻すが、ネットで根室市の人口(現在2万4千人)が「あと何年後に2万人以下になるのか」という、なんとも悲しい記事を見た。それくらい、根室海峡を挟んで、すぐ目の前に見える北方領土を失った根室市、そして東北海道の拠点都市・釧路市の人口減少が激しいのだ。だから、これまで何回も北方領土のことを書いてきたが、最後は“早期に千島列島を奪還しよう"と叫んで終わりにします。