「言論の自由」の大切さを知ろう

吾輩はこれまで何回も、「言論の自由」の大切さを訴えてきたが、その考えを補完してくれる新聞記事を見つけた。その新聞は1月30日付け「産経新聞」の“新聞に喝!"である。

〈「専制主義×言論の自由」再思再考を…京都府立大教授・岡本隆司(昭和40年生)〉

やや間遠になって恐縮ながら、ノーベル平和賞をとりあげたい。受賞者のひとり、ドミトリー・ムラトフ氏は、ロシアの独立系新聞ノーバヤ・ガゼータの創設メンバーで、長く編集長をつとめてきた。同紙は人権侵害・言論弾圧などプーチン政権の強権体制を鋭く批判、そのため政権の脅迫・暴力をうけ、殺害された記者すらいる。それでも「言論の自由」を貫き、圧力に屈しない。そんな姿勢が評価されたのである。

ノーベル平和賞が欧米的な価値基準に即した自賛儀礼だというのは、中国やロシアの批判がなくとも一目瞭然。「言論の自由」をめぐるムラトフ氏の受賞も、例外ではない。こんなことをあらためて書くのは、日本人があたりまえに享受する「言論の自由」とその価値をどう考えるのか、問いたいからである。

昨年のノーベル平和賞に対する関心は低く、新聞・メディアでも通り一遍の報道しかなかった。かつての金大中元韓国大統領やオバマ元米国大統領の時とはあまりに異なる。そこに違和感を覚えたのは筆者だけだろうか。

ムラトフ氏がやや縁遠いのは確かである。しかし「言論の自由」が問題なのは、ロシアばかりではない。もっと近隣の中国がそうである。

米国はいわゆる「米中対立」=「民主主義×専制主義」の構図を掲げて、新たな国際秩序の構築をはじめた。中国もかつてのソ連・ロシアに勝るとも劣らない大国となったから、ターゲットとされるに不足はあるまい。

その「専制主義」で最も重大なのが「言論の自由」に対する統制・弾圧であり、中国はその点でも、ロシアに勝るとも劣らない。それなら新聞・メディアは「言論の自由」をもっと重視するべきではあるまいか。

欧米の論理に同調し中露を批判せよ、とはいわない。なぜ統制・弾圧に走るのか。そこを問いたいのである。

ロシアも中国も権威主義体制だから、というのでは答えにならない。それでは「専制主義」だから「対立」するという米国の単純な論理と同じである。言論を統制せざるを得ない「専制主義」の来歴とメカニズムを問いなおさなければ、「対立」の内実も理解できまい。

今年も「米中対立」の年になる。今年12日から産経が連載した「香港改造」は、中国の統制・弾圧を克明に記す内容だった。今後はそれをもたらす背景に踏み込んだ記事を期待する。「言論の自由」を再思再考しない新聞・メディアに「米中対立」を論評する資格はない。

今まさに、ウクライナ周辺にロシア軍10万人超が集結し、軍事侵攻はあるのかないのかと世界の注目を集める中、「言論の自由」に対する問題提起はまさに時期にかなった問いだ。なぜなら、ロシアの民主主義は名ばかりで、この20年ばかりの間に「ノーバヤ・ガゼータ」のアンナ・ポリトコフスカヤ記者(06年射殺)を始め、プーチン政権に批判的な記者や政治家など30人以上が、国内や海外で相次いで殺害されている。しかも犯人がほとんど逮捕されず、逮捕されても裏で糸を引いている黒幕まで行きつかないので、真相は深い闇に包まれている。このような“言論封殺"の専制国家・ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が強まっている以上、日本の新聞・メディアが「言論の自由」をもっと重視して報道するべきである。

テレビ討論番組やネットを見ていると、米国のケネディ大統領がキューバ危機(1962年)の際に、海上封鎖によってロシアによるミサイル設置を撤去させたと同じ立場で、ロシア寄りの言い分「逆キューバ危機」に理解を示すアンポンタン(例えば、参議院議員鈴木宗男は以前から討論番組などで「ロシアは日本と同じ民主国家」「ロシアのクリミア併合は正当であり、認めるべきだ」「昨年10月にウクライナがいきなり自爆ドローンを飛ばしてロシアの危機感を煽った」などと発言)がいる。というのは、選挙を行い、形の上では民主主義国家であるが、社会を徹底的に監視し、不満分子を抑え込み、言論統制を長年周到に進めている。さらに言うと、依然として市民の自由度は低く、近代民主主義で最も重要な価値観である“人権擁護"の姿勢が全く感じられないのがロシアであるのだ。

すなわち、世界がロシア軍によるウクライナ侵攻への懸念が強まる中では、当然のことにロシアの一般市民による何らかの動きがあってしかるべきだ。しかしながら、ロシアには「言論の自由」が欠如しているので、ロシア国民による“戦争反対"の動きが全く伝わってこない。しかも、ロシアがウクライナに侵攻したら当然、ロシア軍部隊も相当な死傷者が出る筈なのに、事態はすべてプーチン大統領の意志一つで事が進んでいる。第三次世界大戦まで進展しなけばよいが、と心配しているのは吾輩だけではない筈だ!