地方の博物館は有効活用されているか

吾輩は以前から、地方の博物館に“冊子"が置かれていないことを批判してきた。その理由は、来館者の多くは見学時間が限られている旅行者で、そのため帰宅後に冊子を読んで、改めて“勉強したい"という願望があるからだ。

そのように考えている中で、12月27日付け「読売新聞」に、見出し「財政・人員難 苦しむ博物館ー全国5700館コロナが拍車」という記事が掲載された。この記事を読む前に、文化庁は全国の博物館を「登録博物館」914館(15・9%)、「博物館相当施設」372館(6・5%)、「博物館類似施設」4452館(77・6%)という風に、3つに種別していることを知ってほしい。

ー活性化へ法改正視野 文化審議会が答申ー

歴史や美術、自然科学などに関する資料を収集し、展示を行う博物館が近年、あり方を問われている。教育や地域振興、観光の拠点として期待が高まる一方で、人員不足やコロナ禍に苦しむためだ。文化審議会20日、活性化を図るため、制定70年を迎えた博物館法(=博物館の設置や運営に関する規定を定める。教育的な配慮のもと収集した資料を、保管や展示、調査研究する施設と位置づける。美術館や歴史資料館のほか、水族館や動物園、プラネタリウムも対象となる)の改正を視野に入れた答申をまとめた。

〈ブームのあと〉

秩父ゆかりの絹の織機や花火玉、植物標本が並ぶ。埼玉県横瀬町の歴史民俗資料館は、地域の歴史や自然に関する数万点の資料を収める博物館だ。だが、浅見和彦館長は「人員と運営状況は苦しい」と打ち明ける。常勤の学芸員がおらず、館長も公民館や図書館の館長と兼務。2020年度の来館者数はコロナ禍で例年の約4割の800人に減った。

文化庁によると、全国の博物館は現在、約5700館(※1987年は2311館で、2018年は5738館)ある。1951年の約200館から大幅に増えた。60年代後半以降の経済成長期や、地域活性化を目指した「ふるさと創生事業」が行われた平成初めに設立ブームがあった。だが建設優先の「ハコモノ行政」の影響もあり、維持や運営に悩む館もある。

日本博物館協会が2020年に公表した調査によると、「財政面で厳しい」(79%)、「調査研究が進んでいない」(72・3%)などの回答が目立つ。町村立の館の約3割では学芸員がいなかった。

関東地方の施設に勤める職員(46)は、「多くの施設が現在、展示の多言語対応やデジタル化が必要となっている」と指摘する。

〈支援「登録」16%〉

博物館は集めた様々な資料をもとに、一般の人々が教養を高め、調査研究に役立つ事業などを行う施設だ。地方の博物館は、地域の資料保存や文化活動の貴重な拠点にもなっている。

博物館法は、一定の基準を満たす館を支援するため「博物館登録」制度を設ける。だが設置主体が自治体や財団法人などに限られ、登録の基準も学芸員の有無や年間の開館日数など、活動内容より外形的なものに偏る。登録館は、全体の16%の914館にとどまる。

優れた展示で知られる「森美術館」(東京都港区)は登録博物館に準ずる「博物館相当施設」、「サンシャイン水族館」(同豊島区)は、博物館法の枠外の「博物館類似施設」と位置づけられ、分かりにくい。

今回の文化審議会の答申は、同法が定める登録制度の見直しを求めた。対象を民間の法人にも広げるなど、制度の活性化を目指す。登録制度がブランドとなれば、登録館は利用者に魅力をアピールできる。補助事業や税制優遇、研修の支援と組み合わせ、効果的な振興策も期待できる。文化庁は来年の通常国会に博物館法の改正案提出を目指す。

ただ、独立行政法人などが設置した国立の博物館は、博物館法以外の法律に規定されている。答申で「登録の対象とする必要は必ずしもない」とされた。

学芸員の雇用〉

答申では、「中長期的な課題」に学芸員制度の問題も挙げる。大学などで専門的な教育を受けた学芸員は、博物館活動の中心となる存在だ。和歌山県立近代美術館の青木加苗・学芸員は「学芸員は非正規雇用が増え、長期的に地域の歴史や文化と向き合う体制が整わない館も多い。学芸員が置かれた現状を改善する視点が必要だ」と語る。

19年には京都市で、世界の博物館関係者が集まる国際博物館会議が開催され、改めて社会教育の場としての重要性が認識された。英国では経営規模が小さな博物館も対象にした「認証制度」を導入し、韓国は学芸員が研究に従事する環境を整えるなど、各国とも振興策を工夫する。

小佐野重利・東大名誉教授(西洋美術史)は、「世界の動向も踏まえ、法改正を通じ、博物館の運営改善と機能強化とを国家施策として位置づけることが求められる」と話す。

(以下、省略)

要するに、地方の多くの博物館は「博物館類似施設」という位置付けで、「登録博物館」は館長と学芸員必置、年間150日以上開館など、「博物館相当施設」は学芸員に相当する職員必置、年間100日以上開館など、という要件が必要であるという。つまり、地方の「郷土博物館」などは学芸員を置かなくても何ら問題がないので、冊子を置かなくても“問題なし"という理屈である。しかしながら、果たしてこれで良いのか、というのが吾輩の見解である。

ところで、この新聞記事を読んで認識したことが3点ある。第一は、1951年には全国で約200館しかなかった博物館が、60年代から大幅に増加したことだ。つまり、この半世紀の間で、急速に博物館が建設されたということだ。

第二は、吾輩が予想した通り、地元の建設会社に仕事を与えるための「ハコモノ行政」であったことだ。つまり、地元の歴史的な資料を保存し、それを地域のために利用するという訳ではないということだ。

第三は、町村立博物館の約3割には、学芸員が存在しないということだ。学芸員が配置されていないので、何の“冊子"も制作せず、来館者を手ぶらで帰宅させるという訳だ。

もう一度指摘するが、来館者は旅行の途中であるので、ゆっくりと「郷土博物館」の中を見学できず、帰宅後に改めて“勉強したい"と考えている。ところが、勉強の教材である筈の“冊子"が購入できなかったので、改めて勉強することができないのだ。地方の博物館をわざわざ訪れる来館者は、それなりに“その地方に関心を持っている人"であることを忘れないでほしい。

そういう不満を持っている人は意外に多いと思う。やはり、税金で立派な「郷土博物館」を建設した以上、地元自治体には有効利用する責任がある筈だ。そのためには、郷土の歴史に関心がある元教員などを積極的に学芸員として採用し、冊子などを作成して大いに宣伝するべきだ。さらに、その地域にしかない歴史があることを考えると、全国からアイデアを募集することも一つの方法だ。博物館本来の目的は、資料収集・保存、調査研究、展示、教育普及である以上、今の現状でいいはずがないのだ。

ちなみに、北海道には「登録博物館・博物館担当施設」が47館存在し、そのうち7館がオホーツク管内に存在する。紹介すると、斜里町立知床博物館、美幌博物館、網走市立郷土博物館、紋別市立博物館、北海道立北方民族博物館、網走市立美術館、博物館網走監獄で、それ以外の博物館は「博物館類似施設」である。それにしても“類似施設"とは、文化庁も随分と小馬鹿にした「種別名」を付けたものだ。