ウイグル民族弾圧問題はこれからが正念場だ!

中国共産党による少数民族ウイグル人への人権弾圧の惨状が国際問題化している中で、3月19日付け「産経新聞」は次のような記事を掲載した。

〈女性の死 ウイグル社会に衝撃/収容所収監の父を探しに帰国/覚悟の行動 説得できず自責〉

あるウイグル人女性の死に、在日ウイグル人コミュニティーが動揺している。中国政府は,新疆ウイグル自治区で暮らす少数民族への弾圧を強めており、この女性の父親らも相次いで「強制収容所」に収監された。日本で暮らしていた女性は父親を探すために自治区に戻ったが、昨年末に亡くなったことが伝わった。知人らは、女性が帰国すれば命の危険があると分かっていながらも、日本にとどまるよう諭せなかったと、無念さを感じている。

ー夢は故郷の教師ー

女性はウイグル自治区カシュガル出身のミヒライ・エリキンさん。中国の上海交通大を卒業し、平成26年9月に来日。東大大学院などで勉強する傍ら、日本人や在日ウイグル人の子供らに英語やウイグル語を教えていた。将来の夢は、故郷に戻り、子供たちにウイグル語を教えることだったという。

故郷でのウイグル族への迫害は悪化の一途をたどった。ミヒライさんの元にも2019年4月以降、父親ら複数の親族が収監されたとの情報が届いた。収容所ではウイグル人としてのアイデンティティーが否定され、中国文化を賛美する「洗脳教育」が行われていることなどが、海外の研究所やメディアなどで映像や証言を通じて多数報告されている。

知人らによると、ミヒライさんはろくに食事もとれないほど、精神的に追い詰められていた様子だったという。周りには落ち着かない様子で「帰りたい」とこぼしていた。

海外で暮らすウイグル人自治区に戻ればスパイ行為を疑われ、収容所送りのリスクがある。日本ウイグル協会によれば、ここ数年、日本から自治区に戻った在日ウイグル人はほとんどいないという。

ー亡命親族からの情報ー

一昨年の6月にミヒライさんは周囲に相談することなく帰国を決心すると、友人に置き手紙を残して空港に向かった。ミヒライさんの日本留学をサポートした女性は、手紙を見た友人から連絡を受け、急いでミヒライさんに電話をかけた。

「あなたは帰ったら絶対どこかに連れていかれるよ。ウイグル人ということが罪になってしまうよ」

電話での説得は1時間近くに及んだが、ミヒライさんの決意は固かった。

「お父さんを探したい。お父さんは私たちを育てて今まで苦労してきたのに、私が何もできずに日本で待つことはできない。お父さんのために死んでもいいから何かやりたい」

今年1月、欧州に亡命した親族を通じ、「ミヒライさんは昨年12月24日に亡くなった」との情報が日本ウイグル協会に届いた。30歳だった。死因など細かな情報は不明だが、日本ウイグル協会はミヒライさんが収監されていた情報を把握していた。

在日ウイグル人にもたらした衝撃は大きく、ミヒライさんを説得した女性は「死の情報が来てから、みんなが後悔した。なんであの時、空港に行ってでも止められなかったのか」と自分を責め続けている。

多くの在日ウイグル人らは、いつかは自治区に戻り、日本での経験や学びを故郷の発展に役立てたいという思いを抱いている。だが、帰れば強制収容所に送られかねない。親族の入院や葬儀にも駆けつけられないのが実情だ。

この“女性の死"は、いずれ日本でも大きな問題になると考えて、いち早く紹介することにした。この女性のほかにも、過去には九州大の研究者らと長年共同研究したタシボラット・ティップ元新疆大学長(2017年 3月)や、東京外国語大の研究者と共著でイスラム聖堂に関する本を出版したラヒレ・ダウット新疆大教授(17年12月ら日本とゆかりのある著名人が行方不明にはなっているが…。

ところで、いつ頃から中国・新疆ウイグル自治区ウイグル人漢人の対立が尖鋭化してきたのか。吾輩は本棚から「イスラム 中国への抵抗論理」(著者=宮田律・静岡県立大学国際関係学部准教授、2014年6月13日初版第1刷発行)を取り出して、その経緯を紹介する。

新疆ウイグル自治区では、中国政府の発表によれば、1990年から2001年にかけて小規模なものを含めて2000件のテロ事件が発生し、162人が亡くなり、およそ400人が負傷した。ウイグル人たちの攻撃は、地方の行政組織の指導者、軍事・経済施設に対して向けられ、1997年から99年にかけてで、およそ200人のウイグル人たちが処刑された。

ウイグル人たちの不満は2006年に始まった中国政府の労働移住政策によっていよいよ増幅していったとされている。ウイグル人の女性たちは故地からはるかに遠い広東などの工場で働かされるようになった。こうして強制移住させて後に空いた家屋や土地に中国政府が漢人たちを住まわせるようになったこともウイグル人たちの憤りをいっそう強めていく。漢人たちは、新疆ウイグル自治区に乗り込んで、ガスや石油などの掘削や流通などの仕事に従事するようになったが、そうした漢人の動静がウイグルの資源を奪うものとして、ウイグル人たちの反発を招くようになった。ウルムチでの人口比は、現在の最新データ(2000年)では漢人が75・3%に対してウイグル人は12・8%である。ー

以上のような経緯を経て、2009年7月に新彊ウイグル自治区の区都・ウルムチで、ウイグル人による流血の騒乱が発生して197人が死亡(当局発表)する事態に至った。この騒乱が両者の亀裂を決定的にしたが、さらに14年4月には、習近平国家主席ウルムチ初訪問時に大規模な爆弾テロが起きたことで、“再教育"を名目に「強制収容所」(最大100万人が拘禁)が作られたと言われている。

このほか、収容所から生還した6人の悲惨な体験を、日本人の著者が漫画に描いた本「命がけの証言」(著者=清水ともみ、楊海英)によると、ウイグル人男女の不妊手術(14年・3214件→18年・60440件)、臓器移植の強制摘出、そして女性収容者への性暴力など、けして許されない人権侵害が多発している。言語道断という外はない。その結果、中国当局が記したウイグル人の人口は、15年は1130万人、20年は721万人と急激に減少しているので、この約400万人はどこに消えたのか、と問うている。一方、漢人は1949年は28万人だったが、今は一千万人を超えているという。

そのようなことで、今年1月には米国のポンペオ前国務長官が退任直前に、ウイグル人などに対する同化政策国際法上の犯罪となる「ジェノサイド(民族大量虐殺)」であると正式に認定し、後任のブリンケン国務長官もジェノサイド認定を「同意する」と述べている。また、2月には英国のBBCが「中国の目標はすべてのウイグル人を根絶やしにすること」というタイトルで、収容所から脱出した人々の証言を報じたが、これらを考えると゛ウイグル民族弾圧問題゛はこれからが正念場であるのだ!