エンタメ&スポーツが正常化して安心生活

内閣府が8月17日発表した2020年4〜6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質GDP(季節調整値)で前期比7・8%減(実質GDPは485兆円り)、このペースが1年間続くと仮定した年率換算では27・8減だった。この減少幅はリーマン・ショック後の09年1〜3月期(年率17・8%減)を上回り、戦後最大の落ち込みとなった。しかしながら、新型コロナウイルスの対応で日本以上に厳しい措置を取った米国は前期比年率32・9%減、ユーロ圏19カ国40・3%減、英国59・8%、韓国13%減、そして中国は1〜3月期のマイナス成長から55%程度の大幅なプラス成長に転じた。

そこで、経済活動が元の水準に戻るには、どうしても典型的な「3密」(密閉、密集、密接)業界のことが気になる。新型コロナの感染拡大で、外出自粛など個人消費が冷え込み、海外経済の悪化で輸出も低迷したことで、特に外食や旅行などのサービス消費が低調になった。さらに、スポーツとエンターテイメントは「3密」業界であるのでコロナに弱く、観客を会場の4分の1まで制限したり、プロ野球のように観客上限を5千人に制限したり、新たな観戦形態が模索され始めている。

そういうことで、今週発売された週刊誌「ダイヤモンド」(8月22日号)を購入したが、その特集記事は「エンタメ&スポーツ消滅」であった。記事の最初は、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長〈アイスホッケーのファン〉の会見で「公衆を集めるスポーツイベントやコンサートなどが元に戻るのは最後だろう」というものであった。やはり、スポーツ&エンタメ(映画・アニメ・ゲーム・演劇・音楽・クラシック・美術館・プロ野球・Jリーグ・宝塚・動物園)がコロナ前へ回帰するのが一番最後かと考えたし、逆に見ればこの業界が回帰すれば、日本経済は正常化することになる。まずは、スポーツの課題から見て行こう。

プロスポーツ

プロスポーツの収益源は「入場料」「スポンサー収入」「放映権」「グッズ販売」が4本柱で、スポーツビジネスの市場規模を12年時点の5・5兆円から25年までに15・2兆円へ拡大する途中であった。しかし、コロナの影響で景気低迷が深刻になり、来季はスポンサー収入が減少するリスクも高くなった。ー

○映画

ー日本で昨年公開された映画の興行収入は過去最高の2611・8億円であったが、今年5月の興行収入は前年同月比7・6%に落ち込んだ。ー

ー日本の映画業界は「製作」「配給」「興行」という3つの機能で成り立ち、そして興行収入のほとんどが興行会社や映画館、配給会社に分配される構造だ。だから、実際の作り手に支払われるのは、当初決められていたギャラのみで、作り手が儲からずハイリスクな業界になっている。ー

○演劇

ー元々赤字ギリギリで経営難に追い込まれる小劇団も多い。さらに、出演者自らがチケットを手売りする「チケットノルマ制」という悪習慣が根付いている。ー

宝塚歌劇

ー舞台上の“3密"こそ宝塚の醍醐味なのだが、今回の公演では感染防止策として、一度に舞台に立つ出演者が60人を超えないように配慮された。ー

○動物園・水族館

ー動物園と水族館の民間参入率を見ると、動物園が22%なのに対し、水族館は43%。動物園に民間参入が少ないのは、動物園経営が基本的に非営利を前提としており、裏を返せば今後多くが苦境に立たされるのは、動物園よりも水族館の可能性が高い。ー

○美術館

ー全国で大小1000ある美術館の半分以上は公立だ。世界の美術館は常設展示で観客を呼ぶが、日本で美術人気をけん引してきたのは、新聞社やテレビ局が主導する大型企画展だ。今後はコレクション・常設展重視へという流れが定着する見方が多い。ー

○クラシック

ー日本には年10回以上の自主演奏会を行うなど、規模の大きなプロのオーケストラが25あるが、公演中止が相次ぎいで苦境に陥るオケがある一方で、公演が減っても痛みの少ないオケも存在する。両者の違いは、収益構造の違いだ。例えば、「“演奏料頼み"で苦境自主オケ」として、日本フィルハーモニー交響楽団(日本フィル)の収入は15・37億円で、収入形態は演奏料70%、民間支援20%、国・自治体などの公的支援10%。「自治体から支援を受ける地方都市型オケ」として、札幌交響楽団(札響)の収入は10・53億円で、収入形態は演奏料51%、公的支援34%、民間支援15%。「“スポンサー収入"で収支安定型オケ」として、NHK交響楽団(N響)の収入は31・1億円で、収入形態は公的支援46%、演奏料43%、民間支援11%である。

○音楽業界

ー音楽コンサート市場が拡大する一方で、CDなど音楽ソフト市場は6075億円に達した1998年をピークに下降の一途をたどり、現在は3分の1近くまでに縮小している。音楽コンサート市場は2019年に4237億円と過去最高を記録したが、20年の音楽コンサート市場は1241億円と、前年の3割にも満たない水準になるとみられている。音楽市場の主役の座がコンサート市場に移ったということは、それに従事する多くの人の生活をこうしたライブが支えているということでもある。音楽業界は今まさに過去最大の苦境に立たされている。ー

ということで、プロ野球の経済損失が1000億円を超えると指摘されているように、これまでの“ビジネスモデルが崩壊"したのだ。また、東証1部上場企業も、今年4〜6月期決算で、全体の売上高は前年同期比で2割減、純利益は6割減という。そのため、経営者はいずれも、早急に“新たなビジネスモデル"を構築しなければならない事態に追い込まれている。

これまでの経済危機である1990年代のバブル崩壊リーマン・ショックでは、一番最後の消費業界は“紳士服"と言われ、吾輩の知り合いも昔嘆いていたのを思い出したが、それを考えると今回の苦境は以前の経済危機とは性質が違う。そのことから、今回の方が幅広で深く、そして地方経済に対する影響も断然大きく、その意味では経営者の手腕に期待する面が断然大きい。と同時に、これから起きるであろう、革新的な業界再編にも注目したい。