国家公務員の老後は証券業界に任せてよいのか

吾輩は過去4回くらい、証券業界の“悪口"を書いてきたが、今月の情報誌「選択」(11月号)には「もはや、つける薬なし」と突き放す記事が掲載された。それでは、題名「『米国型規制』の導入目指す金融庁ー証券業界『顧客軽視』商売に荒療治」を全文紹介する。

10月に入って上向いてきた株式相場。日経平均株価は年初来高値を更新し、苦戦続きだった証券業界に活気が戻ってきたかに見える。だが、これも最後の宴になるかもしれない。というのも、証券業界には今、存続の危機とも言える重大局面が近づいているからだ。

今年8月下旬に金融庁が公表したのが、通称「金融行政の基本方針」と呼ばれるもの。文字通り、夏の人事異動後の新たな1年間における金融行政の基本的な方向性を盛り込んだ資料であり、今回は全135ページにも及ぶ膨大な内容が盛り込まれている。そんななかで目を引いたのが、証券業界に触れた部分だった。分厚い基本方針にもかかわらず、わずか3ページにすぎなかったからだ。日頃、自身の業界の顧客軽視ぶりを憂えてきた某大手証券の幹部は「ついに金融庁は証券業界を見限った」と天を仰ぐほどの希薄さ、そっけなさであった。

金融庁内では「顧客本位」を唱えて「フィデューシャリー・デューティー(FD、受託者責任)」宣言をしているにもかかわらず、相変わらず、顧客軽視の手数料稼ぎビジネスから抜けきれない証券各社に対して「もはや、つける薬なし」とでもいうような突き放したムードがある。金融庁の金融審議会も、自社の利益を優先する業界の営業姿勢が、個人の資産形成を阻害していると問題視。「老後二千万円問題」で止まっていた議論を10月23日に再開し、顧客重視を実現する法整備も検討する。

〈「最善の利益規則」の衝撃〉

金融庁は監督局の構成のなかで銀行課は残したものの、証券会社に対しては日頃ヒアリングを行うモニタリング部門だけを残して証券課を廃止しても構わないという議論すら交わされたという。証券業界を見る金融庁の眼は明らかに冷淡なものへと変じている。

その金融庁が今、内部で分析を重ねている事案がある。米国証券取引委員会が今年6月に打ち出した新規制「レギュレーション・ベスト・インタレスト」なるもの。和訳では「(顧客の)最善の利益規則」とされる同規則を巡っては、今のところ、わが国の大手メディアはほとんど報じていないものの、米国の証券業界では大きな衝撃が走っている。

その理由は、新規則が株式等の仲介業であるブローカー・ディーラーと投資アドバイスを行う投資顧問業者を対象として、その名称の通り、「自己の利益を顧客の利益よりも優先させてはならない」という基本原則を明確化したからだ。

米国では同規則ができる前に、年金制度を所管する労働省が厳格極まるFD規制の導入を企図したものの、結局、証券規制に該当する越権行為と判断されていた。ところが、証券業界の安堵もつかの間、それに代わって証券取引委員会が打ち出したのが、今回の新規則にほかならない。米国には、日本と比較にならないほど顧客重視の鉄則があるにもかかわらず、さらに厳しい規制が証券仲介業者、要するに証券会社と投資アドバイザーに導入されたことになる。

以後、同規則に注目し、その分析と調査を重ねてきているのが日本の金融庁だ。その狙いは、米国のエッセンスを見極めて、日本にも必要な規制を取り入れることにある。仮に同様の規則が導入されると、どうなるのか。米投資銀行の研究部門幹部はこう指摘する。

「米国に比べると、日本の証券ビジネスの顧客重視は単なるタテマエにすぎない。なので、同様の規則が適用されたら、その衝撃度は米国の比ではない」

たとえば、自己の手数料収益確保を最優先する回転売買の勧誘セールスや、自身の収益のために相対的に高水準の手数料が設定されている商品を優先的に売り込もうとする投資アドバイス等々、国内で氾濫しているあくどい証券セールスはすべて「アウト」となることは間違いない。さらにいえば、系列下の運用会社の投資信託などを親会社の証券会社が優先的にセールスする「はめ込み営業」も規則に引っかかることになる。

要するに、慣習的に続けられてきた証券会社の個人営業の根幹部分が封印されることになる話なのだが、証券関係者で「最善の利益規則」と聞いてピンとくる者はわずかだろう。その存在を知っている向きですら「米国の規則であり、しかも、顧客の最善利益と言っても、何ら具体的ではない」と高を括っている始末なのだ。「きちんとしたルールベース(具体的な規制)というよりも、プリンシプルベース(原則論)にすぎない」などと専門用語を持ち出して、「実害は日本に及ばない」と居直る大手証券幹部もいる。

だが、ひとたび法律で明記されれば、「顧客の最善の利益の追求」は実質的にルールベースであり、それに抵触すると判断されれば、行政処分や罰金が科されるだろう。その具体例が、昨年5月、金融庁野村ホールディングス野村証券に科した厳しい行政処分である。同社は、「東京証券取引所の株式市場区分問題」に関する東証内部の委員会で交わされた情報を外部に漏洩させたことが、金融商品取引法違反にあたるとして行政処分を受けた。金商法には、同社が犯したような情報漏洩や悪用の行為を事細かく具体的に明文化していないが、金融庁は法の原則を逸脱した「プリンシプルベースでの違反行為」と判断して処分した。

〈世界的潮流から取り残されて〉

この経緯からも分かるように、法文に明記されたルールベースよりもプリンシプルベースのほうが予想できない処分が起こり得る。業者にとってはむしろ怖い規制方法なのだが、前述した通り多くの証券関係者がいまだにのほほんと構えているのだ。

それどころか、目下のように株式相場が久方しぶりに回復するや、証券業界では早くも株式、投信の回転売買的なセールスが横行し、一部の証券会社ではハイリスクのデリバティブ商品である日経平均リンク債などの仕組債の組成を始めつつある。雀百まで踊り忘れず、とばかりに顧客軽視の旧弊へまい進しかねない情報である。

米国の「レギュレーション・ベスト・インタレスト」だけではなく、海外では、たとえばEUが「MiFID2」(金融商品市場指令)を導入し、仕組債などの隠れた手数料の明確な開示や、証券各社によるアナリストレポートの無料サービスの有料化等々、証券会社の伝統的なビジネスに対する厳しい規制を打ち出している。つまり、欧米では証券会社にとって居心地のよい環境は封じ込められたと言える。先進国中、最もやりたい放題と言っていい、わが国の証券ビジネスが、こうした世界的潮流のなかで生き残れる可能性は極めて低い。にもかかわらず、今般の株高の宴にも、早々に酔いしれる証券業界にはやはり、「つける薬はない」のかもしれない。

長々と記事を引用したが、それには意味がある。最近、以前勤めていた後輩と飲食したが、この際に次のような話しが出たのだ。

「最近、内閣府主催の研修会に参加したが、参加者は45歳以上の国家公務員。この際、主催側から『国家公務員の老後は、年金だけに頼れなくなった』との発言があり、その後講師が『貯金しても増えない時代だから、増やす方法がありますよ』と言って、株式投資を紹介した」

そこで、吾輩は「講師は誰だ」と尋ねたところ、後輩は「証券会社の人です」と回答したので、吾輩は「どこの証券会社の者か」と尋ねたが忘れたという。確かに、資産形成には証券会社を利用することは一つの手段だと考えるが、証券業界の悪口を散々書いてきたので驚きであった。

吾輩も年金生活者である以上、年金だけで生活できないことは理解している。だからといって、まさか証券業界の者を呼んで、研修会を実施する事態になっているとは知らなかった。はっきり言って、今の現状では“いいカモ"を生み出す事態に陥り、その意味ではもう少し、研修者には丁寧な教育が必要と考える。なぜなら、経済官庁以外の職員の知識では、簡単に証券会社営業マンの口車に載せられてしまうからだ。

要するに、証券会社は「顧客の利益よりも、会社の利益を上に置いている」のが現状であるからだ。そこで、金融庁も寄稿者も「もはや、つける薬はない」と突き放しているのだ。

それでは、退職者はどう証券会社を利用したらよいのか。吾輩の経験から言えば、若い時から証券会社を利用することだ。吾輩のように、50歳前後から証券会社を利用すると、完全に営業マンの“いいカモ"に陥る。だから、はずは有力な上場企業の株式を2社くらい購入して、株価の上下、配当金の上下、郵送されてくる企業決算書で、最低3年くらいは学習することだ。まだまだ書きたいが、証券会社の営業マンは「けして、あなたの資産形成に協力する人たちではない」ことを改めて記しておく。