日本のアイスホッケー界が目指すところ

令和元年、最初のテーマは、日本のアイスホッケー界が目指すところだ。3月末で廃部になったアイスホッケーの名門「日本製紙クレインズ」は、後継チーム「東北海道クレインズ」として、4月23日にアジアリーグに新規加盟することが内定した。その意味では、まずはめでたし、めでたしだ。

そうした中、定期購読しているアイスホッケー専門誌「ブレイクアウェイ」(118号、2019年5月10日発行)が、5月7日に配達されてきた。まず最初は、クレインズに対する“思い"から紹介する。

日本製紙クレインズ廃部〜成長途上で迎えた69回目の春〜

〈最後のスタート地点〉

成長途上でクレインズの今季は終わった。しかし、この準優勝を新たな道へとつなげていかなくてはならない。3月末日で正式に廃部となったチームの引き受け先として、単独企業への継承を断念。複数のスポンサーによるクラブチーム発足を目指して、運営会社「東北海道アイスホッケークラブ合同会社」が設立された。同社代表の茅森健一氏は札幌市内で会社を経営する実業家で、駒大苫小牧高校、法政大学で活躍した元選手だ。釧路にクレインズを残すべく、現役選手たちや有志とともに急ピッチで資金集めを行っている段階だ。

しかし、道のりは簡単のものではない。アジアリーグチームの運営費は年間2〜3億が相場。それだけの資金をどうやって調達するのか。男子アイスホッケーという競技そのものにそれだけの価値があるのか。もはや、クレインズだけの問題ではなくなっている。3月下旬の段階で小林(弘明、クレインズ)監督はこう思いを述べている。

「私自身、新チームが釧路に根付いて欲しいという思いは強いです。でも、それはあくまでも希望。この希望が形になるのは難しいことでもあります」

クレインズの前身である十条製紙時代から、小柄ながら闘志を秘めたDFとしてチームを支え続けた小林監督らしい、現実的で冷静な視点だ。「日本製紙のチームがなくなってしまうのは残念です。最後に監督だったことは名誉だったのか不名誉だったのか。いいことでも悪いことでもない。何とも表現しづらいですね」

伊藤(賢吾選手)もやり場のない思いを抱えている一人だ。復活のシーズンだっただけに、有望な若手同様、まだまだ終焉を迎えて欲しくない。

「来季どうするかは、まだわかりません。少し休んで、ゆっくり考えて決めたいと思います」

22年間、日本のトップDFであり続けた選手の背中を見ていると、10年前、SEIBUプリンスラビッツの廃部に伴い、日本代表のまま引退していった選手たちのことをつい思い出してしまう。あの頃と何が変わったのか。

日本アイスホッケー連盟のリーダーシップ、トップリーグのあり方、そして日本代表チームの地位向上、等々…。変えるための最後のスタート地点に、我々は立っているのではないか。

どうも、雑誌の締め切りが早いとみえて、相当悲観的な内容であるが、アイスホッケー関係者の“思い"は伝わったと思う。次いで、40年前には日本と同じような競技環境にあったドイツ(当時は西ドイツ)の現状を、元日本代表主将・鈴木貴人の「第6回『ドイツ短期コーチ留学』」の寄稿文から把握したい。

前号に続き、DEL(ドイツトップリーグ)ケルン・シャークスでのコーチ留学の話題です。今回のドイツ研修の中で一番印象に残ったのはDELのスポーツビジネス(試合興行やファンサービス、スポンサー獲得、グッズ販売、マーケティングなど)とドイツ・ケルンのスポーツ文化です。

DELはケルンのホームゲームを2試合、アウェイゲームを3試合、計5試合を視察しました。ケルンのホームアリーナの収容人数は約2万人、アウェイで視察したクレーフェルトは約8千人、アウクスブルグは約6千人、デュッセルドルフは約2万人を収容するアリーナを持っています。どのチームもプレーオフ目前ということもあり、ほぼソールドアウトの状況でした。

ケルンをはじめ、各チームに言えることですが、オーナー(数名)、総括管理チーム、チームダイレクター(GM・現場担当)、マーケティングチームなど、それぞれの役割の人たちがプロフェッショナルとして生活をかけてチームをサポートしているからこそ、多くのファンが集まり、アリーナが満員になるほどの状況を作り出し、成功しているのだと感じました。

元日本代表監督のマーク・マホン氏はケルンのチームダイレクター(GM)の立場ですが、契約期間中に結果を残して、次の契約更新を手にしています。選手やコーチと同様に、フロントスタッフも結果で評価される環境の中、切磋琢磨をしていると感じました。

ケルンではブンデスリーガ(サッカー)の試合も観戦しました。チームは2部リーグながら優勝争いをしていることもあり、5万人収容のホームスタジアムがほぼソールドアウトの状況でした。地元ホッケーチームのGMであるマーク・マホン氏はサッカー会場でも多くのファンに声をかけられていて、スポーツの横のつながりも強く感じました。今季はこのサッカースタジアムでアイスホッケーの試合(ウインタークラシック)を行い、5万人のファンを集めたそうです。

ケルンはドイツで4番目に大きい都市で人口は約108万人。日本でいうと宮城県仙台市とほぼ同じ人口です。ケルンは大都市とは言えないですが、スポーツビジネスについては素晴らしいものでした。

スポーツ文化とスポーツビジネスにおいて日本との大きな違いを感じたのは事実ですが、日本でもJリーグやプロ野球など、メジャースポーツでは近いものを築き上げています。日本のアイスホッケー界もプランを持って進んでいけば、将来的にはドイツリーグやJリーグのような環境を作ることは可能であると私は思っています。

チームの戦績だけに目が行きがちですが、スポーツビジネスは結果にも大きな影響を与えます。普及、育成、強化に加え、スポーツビジネスも同時に成長していけば日本のホッケー界も大きく変わっていけるでしょう。

どうですか、ドイツではメジャーではないアイスホッケーが、ここまで観客を集めている現状に驚かれたでしよう。日本の競技施設は、ほとんどが3千人以下であり、これが40年前に日本代表と競い合ったドイツ(当時は西ドイツ)の状況か、と知ると唖然としてしまう。だから、昨年2月開催の「平昌五輪」では、カナダや米国の北米アイスホッケーリーグ(NHL)選手の不参加という背景があったものの、ロシアと決勝戦(ロシアの4−3)を戦うまでになった。つまり、これが日本アイスホッケー界が目指す方向と吾輩は理解している。

実は、日本でも多少は明るい話題がある。東京都は3月1日、2020年の東京五輪パラリンピック後に、東京辰巳国際水泳場(江東区)をアイスリンクへ転用する方針を発表した。さらに、東京・明治神宮外苑の再開発で建て替える秩父宮ラグビー場について、室内競技や音楽イベントやアイスリンクへも転換できる全天候型施設(約2万5千席)を目指すという。つまり、年間を通じて使用できる大規模アイスリンクが東京にできる以上、アイスホッケーチーム設立の動きや、国際大会開催を期待できるのだ。その意味で、大変な朗報と考えている。

最後は、新しいチーム「東北海道クレインズ」の話しに戻す。報道によると、参戦に必要な準備金1億5000万円のうち、約1億2500万円(ユニホームスポンサー7社、サポート企業108社)が集まり、加盟に必要な15人以上の選手も確保できるという。そこには、日本製紙が新チームに移る社員選手を、2年間出向扱いにするなどの支援策がある。従って、2年後には、全ての選手の人件費を負担できる運営会社の存在が不可欠で、それが不可能であれば、札幌ポラリス(旧雪印)のように“資金不足で2年で休部"という事態に陥る。それを考えると、今後2年間の営業実績は非常に重要になってくる。ある面、これからが正念場とも言えるのだ。頑張って、欲しいものだ。