日本製紙クレインズの廃部で考えて欲しいこと

12月19日の朝、「朝日新聞」を見たら「日本製紙 廃部へ」という見出しが目に飛び込んできた。その瞬間、日本製紙クレインズの“廃部"が信じられないと同時に、「またか」という感情が沸き起こった。なぜなら、アイスホッケー界は、1999年の古河電工以降、雪印(01年)、西武鉄道(03年)、西武(09年)と、伝統ある有力チームが立て続けに、親会社の経営不振を理由に廃部となっていたからだ。

そして、同日の午後、日本製紙釧路工場長の記者会見で、正式にアジアリーグに参加している日本製紙クレインズ(選手24人)を今季限りで廃部するとともに、引き受け先を探す方針を明らかにした。そこで我が輩は、何らかの文章を作成することを考えたが、これまで何回もアイスホッケー界の窮状を訴えてきたので、今更何を書いたら良いか思いつかなかった。しかし、このまま傍観しては後悔すると思い直し、改めてアイスホッケー界の現状と、今後の見通しを記すことにした。

そもそも、アイスホッケー部の年間運営費は、どのくらいの経費が必要であるのか。昔、我が輩が聞いた話しでは、アジアリーグの前身である日本リーグ時代は、参加している6チーム全てが5億円以上の運営費で、中には8億円というチームもあった。しかし、現在の実業団チームである日本製紙王子製紙は、経費削減に努力して4億円くらいの運営費と見ている。その理由は、昔は怪我人が多い競技であるので、各チームとも約35人の選手を抱えていたが、現在はレギュラーの選手だけの約25人の選手しか抱えていないからだ。つまり、運営費の6割を人件費が占めていたことから、経費削減の意味合いで選手数をギリギリまで削減したのだ。更に、昔は運営費のほとんどを親会社が負担していたが、今では入場料収入(リーグ全体で2億円程度)のほかに、スポンサーからの収入が相当あるようだ。皆さんも試合会場に行くと、選手のユニフォームに縫い付けられた広告や、試合会場の広告が昔に比べて多いことに気がつくハズだ。それらを考えると、日本製紙クレインズに対して、2億5千万円くらい負担していたと見ている。

ところで、日光アイスバックスの場合、立ち上がり時期の運営費は約1億3千万円であったが、現在はその倍の2億5千万円以上ではないかと見ている。しかし、考えて欲しい。選手たちはプロである以上、選手25人の平均年収は一千万円以上であるべきで、それに監督などのスタッフ10人の平均年収を五百万円として、おおざっぱに3億5千万円以上の年間経費は必要である。

というわけで、日本のアイスホッケー界の苦境が多少は見えたと思う。もう少し具体的に書くと、昔は35人(外国人を含めた選手数)×6チームで210人の選手が、今は25人×4チームで100人の選手しか、アジアリーグに在籍していない。つまり、選手層が相当薄くなったので、日の丸を背負う日本代表チーム(選手23人)は、当然のように実力が下がった。そのため、毎年開催される世界選手権では、今ではプールC(ディビジョンⅠグループB)で試合をしている始末である。

昔の話しになるが、1977年3月に東京・国立代々木競技場で、アイスホッケーの世界選手権グループBが開催された。この時には、グループA(トップディビジョン)昇格の期待も高く、優勝がかかった対ポーランド戦は、我が国のアイスホッケー競技の記録となる1万2200人の大観客を集めた。我が輩も当時、NHKテレビで観ていたが、今では世界ランクも22位まで下がり、まさに“過去の栄光"になってしまった。

一部の新聞は、クレインズ古河電工を引き継いだクラブチーム「日光アイスバックス」のように、企業だけではなく地域にも支えられる運営形態で、釧路市に残せないかという記事が掲載されていたが、今思えば「日光アイスバックス」は非常に恵まれた環境にあった。例えば、一民間人からの五千万円の寄付、栃木県からの五千万円の補助、地元日光市からの補助金、地元選出の国会議員(秘書)などの働きで文科省からの補助金があった。更に、熱心な日光、宇都宮及び都内のファンの働きかけ&資金集め、他のチームからの選手派遣、等々の数え切れない支援があったのだ。

さて、クレインズの話しに戻るが、果たして人口減少が激しい釧路市に、日光アイスバックスのようにクラブチームとして生き残れるのか。やはり、ここはどこかの企業が受け入れる方法しか、生き残る方法はない。その受け入れ企業は、社長が多少ワンマンで、特に冬季スポーツに理解があり、何らかの形で世の中に貢献したいと考える企業だと考える。

最後は、クレインズの受け入れ企業が現れなかった場合を考えたい。先ずは、アジアリーグに参加するトップチームが3つになるので、現在開催している国内同時開催の2試合が行えなくなる。更に、選手層がますます薄くなり、日本代表チームの世界ランクもどんどん下がり、もう世界では戦えない状況になる。その結果、レベルの低いアイスホッケー国・日本では、もう五輪を開催する資格がないと世界から見られてしまう。

というわけで、どこか有力な企業人が引き受けてくれることを期待して、来年3月末までクレインズの動向を見守りたいと思う。