中央官庁の昇格人事をめぐってのあれこれ

12月1日に郵送されてきた情報誌「選択」(12月号)の中に、以前から注目している中央官庁の昇格人事に関する記事が掲載されていた。その内容は、以前に同誌が取り上げており、その後の動向を伝えたものである。

1.杉山普鋪駐米大使の品格に懸念の声 外務省周辺から出る「齋木昭隆待望論」

今月1月に駐米大使に赴任した杉山普輔氏の米国での評判がよろしくない。外務事務次官就任時には週刊誌に「ろうそくを使った宴会芸を得意とする」などという記事が載ったが、米国でも品格は変わらず、ある米政府高官に「酒癖が悪い」とたしなめられたという。

外務省OBからは、こうした杉山氏の醜聞に「日本外交の基軸である日米同盟が杉山氏の品格問題で揺らぐようなことがあってはいけない」と危機感を募らせる声が出ており、官邸もここにきて問題視するようになっているという。

問題は、杉山氏の後任だが、外務省現職からの起用は秋葉剛男事務次官まで待たねばならないほど人材が枯渇している。そこでOBを中心に、杉山氏の前任の次官だった齋木昭隆氏の起用を求める声が出てきた。齋木氏は対露政策をめぐって、今井尚哉首相秘書官ら経済産業省主導の共同経済活動に異議を唱えて安倍晋三首相と対立、確実視されていた駐米大使にならず、そのまま外務省を退官した。

だだ、齋木氏は安倍外交に今も賛同しておらず、首相が政策を変更し、「三顧の礼」で迎えない限り実現は難しいとみられる。

2.官房副長官候補に黒川法務次官が浮上 検事総長ルートから外れる可能性

法務省内で、杉田和博内閣官房副長官の後任に、黒川弘務事務次官を送り込もうと画策する動きが出ている。杉田氏の後任には「安倍総理菅義偉官房長官ら政権中枢との緊密さが最低条件であるため、『旧内務省出身者から選ぶ』という不文律を超えた思惑が各省で蠢いている」と官邸筋は語る。

黒川氏の名前を有名にしたのは、2011年に就任して以降、5年にもわたる官房長時代に繰り広げた「暗躍」だ。菅長官との太いパイプを生かし共謀罪法案を成立させる一方、事件捜査では経済産業大臣だった小渕優子氏の政治資金問題で元秘書らの立件にとどめ、甘利明経済再生担当大臣(当時)の口利き賄賂事件でも立件を見送りにするなど「もみ消し判断の裏にはいつも黒川氏の名前がささやかれていた」(永田町関係者)。

16年に事務次官に昇格し検察トップである検事総長への道も見えてきた黒川氏だが、検察内部では「いまでも黒川氏の同期の林眞琴名古屋高検検事長が最有力候補」との声が強い。そこで「官邸に近い黒川氏は官邸へ、検察は林氏で、という皮算用が生まれた」と大手紙関係者は読み解く。

3.ー裏通りー

前号に続いて訴訟の話しです。弊社ホームページに妙な告知を載せるハメになりました。昨年8月号の情報カプセル「公安調査庁でパラハラ自殺発覚 相次ぐ悲劇と『隠蔽体質』と題した記事で、職員自殺の原因が関東公安調査局長であった住吉邦彦氏にあるとした内容について、訂正する告知です。

この件で、弊社は住吉氏から名誉毀損で訴えられていました。当方、あくまで争うつもりでしたが、裁判所は並々ならぬ意欲で和解を勧告。熟慮の結果、不本意ながら「謝罪・賠償は一切なし。訂正のみ」という和解案を呑むことにしました。

本来であれば、最後まで戦って記事の真実性を堂々と主張すべきところでした。しかしながら、当方に決定打となる材料が欠けていたことも認めざるをえず、このような幕引きとなったことには忸怩たるものを感じています。

訂正には応じましたが、しかし関東公安調査局において職員が自殺したのは厳然たる事実です。住吉氏を含む同局は、なぜ職員が自殺したのか、職場での人間関係は全く関係がなかったのか、真相をきちんと調査すべきでしょう。「死人に口なし」をいいことに、この訂正をもって一件落着とするならば、とんでもない話です。

以上、注目記事を紹介した。しかしながら、このような問題が吹き出した背景には、任命者がその任にふさわしくない幹部職員を、また前例を無視するような形で昇格人事を決めたことに原因がある。その意味では、省庁内の評価が芳しくない幹部職員を、任命者が無理押しで昇格させるべきではないのだ。明らかな“失敗人事"は、極力避けなければならない。