東京電力刑事裁判の現状

今年の8月は、猛暑のためか、体調を崩して苦しい期間が続いた。来年も、同じ様な猛暑であることを考えると、何らかの対応をしなければと考えている。

さて、先週は関西国際空港が台風21号の高潮被害で一時閉鎖されたり、北海道では胆振地方で震度7を記録するなど、次々と記録的な大災害が日本を襲った。しかし、今回は東日本大震災の際に起きた、東京電力福島第一原子力発電所の事故に関する裁判状況を紹介したい。先週、図書館に赴いた際、左翼系週刊誌「週刊金曜日」(8・31、1198号)に掲載された福島原発刑事訴訟支援団団長・佐藤和良の「新事実続出ー東京電力刑事裁判」と題する記事が目に留まったからだ。以前から、東京電力に対しては、激しい怒りを持っているので、旧経営陣3被告(勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長)の刑事裁判の成り行きに関心を持っていた。そのような背景から、自然とこの記事に目が留まったのだ。

それでは、長文になるが佐藤弁護士の記事から引用して紹介する。

地震学者、電力会社寄りの土木学会津波評価部会の学者など15人が証言台に立った。

明らかになったのは、30メートルの海岸段丘を20メートル掘り下げた10メートル盤に原子炉建屋が建てられた福島第一原発に、10メートル盤を超える津波が襲う危険を予見できたこと、津波対策は時間的に間に合い、結果を回避できたこと、地震本部の長期評価は信頼できるという、ことであった。

まず、マグニチュード8クラスのプレート間大地震(津波地震)が過去400年間に3回発生している事実から、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」は、福島県沖を含む日本海溝沿いの領域で「今後30年以内の発生確率は20%程度」と予測した地震本部の長期評価の信頼性が、あらためて立証された。

一方で、信頼性を損なわせるために、いかに圧力がかけられたかも明らかにされた。

そして、被告人らが危険を予見し、結果を回避できたことが、明らかになった。

東京電力は、06年9月、耐震設計審査指針の改訂に伴い、原子力安全・保安院(当時)から耐震安全性評価(耐震バックチェック)の実施を3年以内に行うことを指示され、07年11月時点で、長期評価を新しい知見として取り入れ、東電設計に対して、耐震バックチェックの一環で地震の随伴事象である津波評価の業務委託を行い、08年3月、福島第一原発津波想定が最大で15・7メートルを超える可能性がある、との報告書を受け取った。

また、敷地10メートル盤に10メートルの防潮提を立てた場合、敷地内の南北、敷地前面の3ヵ所で、津波が敷地に遡上し、主要設備が水没して深刻な事故を起こすとの報告書も同年4月18日に受け取っていた。

同年6月10日、当時の吉田昌郎(まさお)原子力設備管理部長、土木グループはじめ各グループが、武藤被告に長期評価による対策工事の検討内容等を報告し津波対策実施のための役員決裁を求めた。この時、沖合防波堤の許認可や機器の対策など指示を受け、同年7月31日の2回目の会議で、沖合防波堤の工程表や数百億円の建設費など報告したが、武藤被告は「研究を実施しよう」と述べて、津波対策の実施を先延ばしした。担当者は「頭が真っ白になり、力が抜けた」と証言している。

武藤被告の指示で、09年6月終了予定の耐震バックチェック津波対策を先延ばしし、安全審査担当の専門家の同意とりつけや他社が先行しないようにする調整、原子力安全・保安院との交渉など様々な裏工作を行ったことが、未公開の関係者の電子メールから明らかになった。「時間稼ぎ」であったとの証言通り、ここが福島原発事故に至る決定的分岐点であった。

武藤被告らが津波対策の先送りを決めた08年7月31日の直後、「柏崎刈羽が止まっているのに、これで福島も止まっているのに、これで福島も止まったら、経済的にどうなのか、って話でね」(酒井俊朗東電土木グループGM)との証言も判明、安全よりも経営を優先して津波対策を先延ばしした実態が明らかになった。また、同年8月6日、東電の津波対策先送りを聞いた日本原電の取締役開発計画室長は「こんな先延ばしでいいのか」「なんでこんな判断するんだ」と驚愕したという。しかし、日本原電は津波地震対策を進め、東海第二原発の建屋の水密化なども実行、11年3月11日の津波による事故を免れた。東京地検が東電元幹部の不起訴理由にした「他の電力会社も、地震本部津波地震に備えた対策はしていなかった」と言い訳は覆された。

7月25日の第22回公判で、検察官役の指定弁護士は検証請求に関する意見陳述を行った。指定弁護士は、17年3月10日付で「福島第一原子力発電所、双葉病院、ドーヴィル双葉、救助避難経路において検証するよう」検証請求書を裁判所に提出、その後も2回補充意見書を提出して現場検証を強く求めている。刑事訴訟支援団と告訴団も、7月11日付で現場検証等に関する要請書を提出していた。この日、指定弁護士は、裁判官に対し「現場に臨めば本件原子力発電所がいかに海面に接した場所に設置されているか、津波の襲来に対する十分な対策が必要であったか、が一見してわかります。本件について正しい判決をするためには、本件原子力発電所の検証が必要不可欠です。」と述べた。検証が実現するかどうか、今後の裁判の行方を占う重大なポイントだ。〜

この裁判は、東京電力福島第一原発事故をめぐり、業務上過失罪で強制起訴された東京電力旧経営陣3人に対する裁判であるが、新聞などは余り詳細に報道していない。ところが、左翼系の「週刊金曜日」は、多少詳しく報道している。左翼は、本質的に好きではないが、佐藤弁護士の記事は、我が輩が想像していたような内容で、その意味では非常に勉強になった。それにしても、次ページの座談会の記事の中に、「でも公判を通じて、東電関係者に刑事責任を負わせないために検察が行っていた工作活動の実態まで見えてきた。」という発言には驚いた。検察官の目指す方向は何であるのか、と問いたい。

次いで、福島第一原発事故の中で一番驚いたニュースを書きたい。東日本大震災で、発電所の外部電源が喪失し、さらに非常用ディーゼル発電機も使用不能になったことで、各地の発電所から電源車が現地に派遣された。ところが、最初の電源車が現地に11日午後9時過ぎに到着したものの、高電圧の電源車から接続するための低圧ケーブルが足りないということで、発電所に電気を流すことができないというニュースが流れた。その時、我が輩は、愕然とすると共に、激しい怒りを覚えた。つまり、日頃から非常時の訓練をしていれば、こんなミスをすることはなかったからだ。まさに準備不足の歴史的な事件になった。また、事故後、津波の高さが最大7㍍前後で建設されたことを知った時にも愕然とした。だから、東京電力の幹部に対しては、今でも激しい怒りを持っている。

いずれにしても、年内には論告求刑があるようなので、厳しい判決を期待すると共に、皆さんと注目していきたい。