欧州映画「マルクス・エンゲルス」を観て

今週月曜日に、東京・神田神保町岩波ホールで上映(4月28日から6月15日)されている、フランス・ドイツ・ベルギー合作の映画「マルクス・エンゲルス」(ラウル・ペック監督作品/2017年)を観てきた。この映画は、カール・マルクス(1818〜83)生誕200年記念作品として制作され、原題は「若き日のカール・マルクス」だが、フリードリヒ・エンゲルス(1820〜95)とは盟友同士という関係から、邦題を変えたという。

我が輩が、同「映画」の上映を知ったのは、左翼系の週刊誌「金曜日」(5・11)を図書館で読んだ時だ。つまり、購読している新聞、朝日・読売・産経には、同「映画」のことが何ら触れていなかったからだ。いずれの新聞は、紹介するに値しないと考えたのかもしれない。

上映時間は午前11時であったので、約25分くらい前には、チケット売り場に到着した。ところが、30人くらいがチケット売り場に並んでいるではないか。いつも、ガラガラの映画館で観賞しているので、場外案内人から「あなたで87人目です。でも、会場は定員が200人ですので、心配はありません」との説明には驚いた。上映時には、110人くらいの観客がいたが、年齢層は60歳以上が9割を占めていた。また、男女の内訳では、男性が約55%、女性が約45%を占め、初老の女性が多いことも驚いた。だから、品のある女性が多いこともあり、昔学生運動に参加したことを思い出して、観に来たのかとも勝手に思った。

さて、本題の同「映画」であるが、購入(七百円)したパンフレットを参考に、映画の内容などを紹介したい。映画が扱った時代は、1843年から48年の「共産党宣言」辺りまでで、若きマルクスの行動を中心に描いている。そして、映画の冒頭では、静かな森の中で枯れ木の枝を拾い集めている貧しき人々に対し、馬上の官憲がサーベルを振り上げる場面から始まる。その部分は、マルクスの思想にとって重要な契機になっているので、当時の「枯れ枝拾い」「木材盗伐」の現実を解説する。

「当時のライン州では貧しい農民が周辺の森林の枯枝を拾い集めて薪に使い、生計の足しとすることが慣習として認められてきた。それに対して森林所有者の利害を代表する州議会議員たちは、落ちた枯枝といえども木材であり所有物であるから、枯枝集めも窃盗であり刑事犯であるとした。……マルクスは貧しい人たちの習慣的権利は、特権者の慣習的権利とは異なり、実定法に反するものではあっても、本来の法律上の権利とは合致するものだということを論証し、貧しい人たちに慣習上の権利を返還するよう要求している」(「マルクスユダヤ人問題によせて/ヘーゲル法哲学批判序説』」(岩波文庫、160〜161P)

というわけで、当時のプロイセンでは犯罪の8割以上、ライン州では何と9割が木材盗伐で、その背景には工業の急速な発展にともなう燃料と還元用木炭の需要が存在した。その中で、地主は落ちた枯れ枝を「財産」といい、それを拾い集めるのは「窃盗」だとする立場であった。そこで、若きマルクスは、記者をしていた「ライン新聞」で論陣を張り、「枯れ枝拾い」の正当性を論じたが、同「新聞」は当局から発禁処分になる。その後、政治的弾圧を受けて、貴族出身の妻と一緒に、ドイツ、フランス、ブリュッセル、さらにロンドンへと亡命・流浪することになる。

マルクスエンゲルスは、1844年8月に運命的な再会をパリで果たす。実は、二人は42年にベルリンで会っているが、マルクスはその時、エンゲルスを空想的な社会主義者と見なしていた。だが、エンゲルスの書いた「国民経済学批判大綱」を読んで、評価・見方を改めたという。

その後、エンゲルスは、父親がイギリスのマンチェスター紡績工場の共同経営者であることから、貧しいマルクスに生活費を送り、彼の研究を支えた。マルクスの貧しさは、子供3人が落命したり、その葬儀費用さえ捻出出来なかったほどだった。そして、映画の最後は、二人共同で「共産党宣言」を執筆する場面で終わる。

そもそも、マルクスエンゲルスの思想が誕生した背景を考えると、ある面では当然のことであるし、歴史的にも必然的と言える。その理由は、1840年代のヨーロッパでは、産業革命が生んだ社会のひずみが格差をもたらし、貧困の人たちを大量に生み出していたからだ。それを考えると、マルクスエンゲルスの思想や哲学を批判する気にはならない。

しかしながら、二十世紀に入ってからの共産主義運動には批判をせざるを得ない。特にスターリン毛沢東の政権奪取後には、反対派に対する大量の銃殺、大量の刑務所送り、そして大量の餓死者という悲惨な歴史を切り刻んだ。その意味では、二十世紀の共産主義運動は、果たして人間の幸福を追求したマルクスの思想を根底にしていたのか、と言わざるを得ないのだ。

最後は、古本探しのお願いだ。もう40年前になるが、イギリスの女性が、マルクス・レーニン主義の理論から、反共の立場で「共産主義社会を解説した訳本」が発売(1975年頃発売の外箱がある本)された。どうも博士論文であったと思うが、ある事情でその本をなくした。どうしても、再びその本を手に入れたいが、著者も出版社も忘れたので、その本に対するアドバイスがあれば有り難い。