日本の金融機関に前途はあるのか

最近の新聞を見て、一番驚く記事は銀行に関する報道である。3メガバンク地方銀行も、業務純益(本業のもうけ)が落ち込んでいるので、大幅な人員削減を計画しているという。

どうも、最も早く人員削減に触れた銀行幹部は、三菱UFJFGの平野信行社長のようだ。9月に「事務作業の自動化やデジタル化によって9500人相当の労働力を削減する」と発言したという。そして10月29日以降、マスコミ各社は、3メガバンクの人員削減計画を報道し始め、みずほFGは11月13日、正式に人員削減計画を発表した。

新聞報道を紹介すると、

○みずほFG=2026年度までに1万9000人を削減。店舗は24年度末までに100店削減。

○三菱UFJFG=23年度末までに9500人分の業務量を削減。店舗は23年度末までに半減することを検討。

○三井住友FG=19年度末までに4000人分の業務量を削減。店舗はペーパーレス化にする。

つまり、今までの経営スタイルであった、全国に多くの店や人員を置いて、サービスを展開するのは難しくなった。特に、銀行業界は給与水準が高く、人件費が重荷になりつつあり、欧米金融機関に比べて構造改革が遅れていたという背景もある。

実は昔、筆者は日本株の中では銀行株を中心に購入した。その理由は、銀行員は民間企業の中では、一番優秀な学生が就職しているので、株価が大幅に下がることはないと考えた。それを裏付ける話として、20年前に親しかった宇都宮市の会社経営者(昭和十年前半生まれ)が、「我々の時代、大学卒業生の中で、一番優秀な奴は公務員なら中央官庁、民間なら大手銀行、地方に戻る奴は県庁か地方銀行に就職した。だから、私も栃木県に戻るので、足利銀行に入行した。君の田舎の北海道でも、一番優秀な奴は道庁か北海道拓殖銀行に就職したハズだ」と述べた。

さらに、筆者は父親が公務員であったし、自分自身も公務員であったので、どうしても安定した会社の株を購入する傾向にあった。だから、自然と銀行株を買ったのだが、現実は、足利銀行北海道拓殖銀行は破綻するし、道庁は最近の10年間くらい、基本給の数パーセントを削減していた。どうも、銀行も県庁も、昔考えていたほど、安定した職場ではないようだ。

という訳で、様々な銀行株を購入したが、結局、半分近くは損切りした。しかし、現在でも三菱UFJFG、三井住友FG、りそなHDの株を保持しているが、りそな株は酷い状況下にある。りそな株は、株価が下落するたびに購入したのだが、今では二百万円以上の損失を出している。それだけに、銀行業界の前途を心配しているのだ。

昔、大手銀行の支店長の年収は二千万円、地方銀行の支店長の年収は一千五百万円と聴いたことがある。ところが最近、街中の社長がいうには、地方銀行の支店長の年収は、一千万円にも達していないというではないか。なぜ故に、経済活動の中心にある銀行が、これほどまで利益が上げられない状況に陥ったのか。経済誌や新聞は、人口減による資金需要の縮小と日銀のマイナス金利政策を背景にした貸出の「利ざや」の低下を理由にしている。確かに、貸出金利と預金金利の差の「利ざや」は縮小し、3メガバンクの実態は、三菱UFJFGは0.88%、三井住友FGは0.99%、みずほFGは0.82%という。銀行本来の利益が出る「利ざや」が、3%ということを考えると、銀行経営が厳しくなるのは当然のことである。

それでは、マイナス金利という状況は、正常なことであるのか。経済専門家の多くが「正常ではない」と言っている以上、いつかは正常になるのであろう。それでは、いつ正常な状況に戻るのかが問題だが、筆者が“ボケ老人"になったり、地方の金融機関が消滅してからでは、ちっとも嬉しくない。その意味では、政府にはしっかりとした舵取りをお願いするしかない。

最後は、筆者の故郷に所在する金融機関「遠軽信用金庫」(預金量=3048億円)について書く。以前、遠軽の稼ぎ頭は、札幌近郊でのアパートローンということを紹介したが、アパートローンは地方でのバブル化が指摘され、自粛の動きが広がっている。その中で、産経新聞(11月15日付け)が、大手銀行の今年9月末のアパートローン残高を掲載している。それによると、三菱UFJFGが1兆7000億円、三井住友FGが2兆3238億円、みずほFGは非公開、三井住友信託が5000億円、そしてりそなHDが3兆6038億円という。つまり、遠軽信金もりそなHDも、生産性の低い金融機関が、アパートローンの収益に頼っている感じを受けるのだ。

前記のことを考えると、人口減少時代にあって、人口が29万人以下まで減少したオホーツク管内に、遠軽信金のほかに「北見信用金庫」(預金量=4707億円)と「網走信用金庫」(預金量=2766億円)の3信金が存在する必要があるのか。正確に言えば、この先も3信金体制で、安定した経営が出来るのか。現在の地方銀行は、オーバーバンキング(銀行過剰)状態が問題視されているが、オホーツク管内の3信金体制も、同じ状況にあるのではないか。そうであるならば、体力のあるうちに再編や統合を実施することは、一つの選択肢と思う。そして話しは、りそな株価に移るが、果たして買値まで戻るのか、共に収益力の低い金融機関の前途を心配しているのだ。