全国紙の発行部数は想像以上の水増し

先月発売の月刊誌「文芸春秋」(8月号)に、「新聞は『対読売一強』で大再編せよ」という記事が掲載されている。本稿を記すのは、現役の新聞社幹部とOBで構成される有志集団「プロジェクトP」で、販売店、ネット時代、新聞経営者、不動産経営などの問題点を解説している。その中で、全国紙の“実売部数"には驚いた。そこで、先ずは新聞発行部数に関する解説から紹介したい。

○日本新聞協会は、2016年の総発行部数(朝刊夕刊セット、朝刊単独、夕刊単独を合算)を4327万部としている。ピーク時は1997年で、5377万部と比較すると、約2割減っている。

○「朝刊夕刊セット」の部数は2000年の1818万部から、2016年には1041万部にまで急落。4割以上も減らしている。

○日本ABC協会が発表した2016上半期平均の朝刊合計部数(カッコ内は、そのうち「夕刊合計部数」の数)は、▼読売=901万(275万)▼朝日=658万(212万)▼毎日=309万(90万)▼日経=273万(138万)▼産経=157万(46万)である。

○「押し紙」(新聞社が販売店に押し付ける「在庫」のこと)は、朝刊単独で売られている部数の「4割から5割」が含まれている。それを考慮すると、全国紙の発行部数は次のように推定出来る。▼読売=588万〜651万▼朝日=435万〜480万▼日経=205万〜219万▼毎日=199万〜219万▼産経=102〜113万である。

要するに、全国紙5紙の“実売部数"は、最大700万部も水増しされている可能性があるという。これが真実であるならば、日本の統計数字は、全く信じられないと世界が見ると思う。

筆者は、以前から世界の新聞発行部数のランキングを見て、日本の根強い民主主義に誇りを感じた。そのランキングでは、全国紙が欧米の民主主義諸国の上位にある。例えば、ドイツのビルト/B.Z.265万、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル237万、ニューヨーク・タイムズ186万、イギリスのザ・サン217万などよりも上位で、各国別発行部数でも、日本4424万に対して、アメリカ4042万、ドイツ1578万、イギリス862万、フランス616万、イタリア299万部である。ところが、全国紙の発行部数は“印刷した部数"で、個人宅や駅売りで“販売した部数ではない"というのであれば、北朝鮮、中国、ロシアの経済統計を笑えなくなる。

さらに、日本の新聞業界の厳しい現状も解説している。例えば、販売店の場合、販売部数の減少と「織り込みチラシ」の減少で苦境にある。1999年には全国に2万2311店あった新聞販売店は、14年には1万7609店。つまり、15年間で約4700店、2割以上が消滅した。従業員数もピーク時の96年(約48万人)に比べ、14万人も減っているという。

このほか、ニュースを伝える「媒体」としての新聞のライバルは、今はネットメディアという。この分野のことは詳しくないのでコメントしないが、メディアは国民の判断材料を提供する以上、何らかの打開策を打ち出して欲しいものだ。

話を戻すと、全国紙の発行部数が、これほど水増しされているとは、想像もしていなかった。もしかしたら、多くの新聞記者も知らない可能性がある。そうであるならば、新聞経営者も隠しておきたい数字であるのかもしれない。それを考えると、新聞業界の経営状況は、世間が考えている以上に、厳しい現状にあるのかもしれない。