金融庁の森長官の講演内容に納得したが…

昨日の「読売新聞」に、金融庁の森信親長官の講演内容が載っていた。筆者は、それほど金融政策に詳しい訳ではないが、講演内容に納得してしまった。

例えば、家計が保有する金融資産約1800兆円の半分超が、現預金として滞留しているので、現状を打開するために金融変革を課題に挙げている。この課題は、多少金融に知識がある者には、広く知られていることである。この課題の背景として、森長官は「銀行や証券会社などが顧客に売る商品は手数料稼ぎを目的とするものが多く、顧客不在になっていないか。顧客の資産形成を助けるような商品の作り方、売り方をしていない」として、金融機関による金融商品の販売方法を批判している。つまり、日本の売れ筋の投信の販売手数料は米国の5倍以上で、何度も同じ顧客に商品を売り買いさせる「回転売買」も行われていると指摘しているのだ。

実は、筆者もお恥ずかしながら、証券会社の営業マンの口車に乗って、投信購入の8か月後に“売り買い"させられたことがある。営業マンは、それなりのテクニックを使ってくるので、“脇の甘い人"や“心の優しい人"などは、うっかり口車に乗ってしまう。

森長官の講演に戻すと、「銀行に将来性を見抜く『目利き力』がなく、融資を受けられない企業もある」、「一部地銀が、貸し出しによる利益を目指し、地元を離れて首都圏などでの融資を獲得しようとしている。この事が競争を激化させて、貸出金利の低下を招いている」と述べている。つまり、昔の銀行の預貸率は100%近くあったが、最近は預貸率が50%に達していないことを批判しているのであろう。

この講演内容を読んで、思い出すことがある。それは以前、北海道の友人が送ってくれた「北海道新聞」オホーツク版(14年4月5日付け)である。そこには、筆者の故郷に所在する「遠軽信用金庫」(預金額=2829億円、預貸率=48.6%<15年3月末時点>)のことが掲載されている。見出しは「遠軽信金ー稼ぎ頭はアパートローン」で、記事の内容を紹介すると、

遠軽信金の経営の柱の一つが、アパートやマンションの建設資金を融資する「アパートローン」だ。その融資先は大半が札幌で「地元で調達した資金を札幌で融資する」構図が定着している。

遠軽信金の13年3月期の貸出金は1337億円で、うちアパートローンが654億円と半分近くを占める。地区別では札幌が534億円と大半(81.7%)で、遠紋(3.9%)や北見(3.1%)、旭川(11.3%)などを大きく引き離す。

○札幌地区では貸出金の8割以上がアパートローンで、同地区の4支店はそれぞれ年数千万円単位の利益を上げる「稼ぎ頭」(遠山理事長)という。札幌支店の開設は1992年。札幌地区の職員数は39人。全体の16%の人員で融資残高の4割を占める効率の良さだ。

ちなみに紙面の図表によると、貸出金の地区別シェアは、地元遠紋地区が31.0%で、北見地区7.2%、旭川地区14.3%、そして札幌地区が47.5%であった。

要するに、地銀は首都圏に、道内の信金は札幌圏内に進出して、利益を出している。このような現実がある以上、森長官が「地元の中小企業に対して融資を増やせ」と訴えても、なかなか銀行の姿勢に変化は起きないと思う。つまり、国民の意識や経済の仕組みを変えないと、大きな金融変革の動きは起きないと思うのだ。